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実は彼女もストーカー

妄想が爆発しました。

俺はストーカーのヒロインさんです

 ストーカー:特定の個人に異常なほど関心を持ち、しつこく跡を追い続ける人。

       (広辞苑より抜粋)




 世間一般のストーカーは男性のケースが多いとなんとなく思う人は多いのかもしれない。

 テレビドラマや小説でも男性ストーカーの方がよく登場するものね。勿論、女性だっているのだけれど。

 何を隠そう、私がそうなのだから。





 私が彼をありとあらゆる手段で愛でるようになったのはいつからだったかしら。

 大体、五年程前からな気がするわ。中学入学してからすぐだもの。

 きっかけはありふれていた。まるで安っぽいドラマで女の子が男の子に安っぽく恋に落ちるようなそんなもの。

 資産家の両親からの重圧、同級生の女の子との些細なことで起こるいじめ。

 当時、小学生だった私には地獄でしかなかったあの時も思い出してみると自分で自分が滑稽に映るわ。

 誰も味方にはなってくれなくて、世界で私は独りぼっち。そんな風に悲劇のヒロイン気取って誰かの助けを私は求めていたの。

 誰でもよかった、一人じゃなければ。きっと私は何かに縋りたかった。

 それはまるで依存だけれど、恋じゃない。

 そう思っていた。




 助けに来てくれたのはあの人。

 あの人は違う小学校だったのに、本当に私の顔も見たことないような接点なんて何処を探しても見つからない他人の私のために怖い顔で怒ってくれた。


「やめろよ」


 たった一言。静かなその怒りに私をいじめてた女の子達は怯んでいて、私は思わずあの人に隠れるように逃げてしまった。


「次、もう一度こんなことをしてみろ。女でも殴る」


 そう言ってあの人が睨み付けたら彼女達は脅えて逃げていった。

 軽い気持ちでやっていたのだろう、それにしては残酷で私の心を踏み砕くようなことだけれど。だからこそ、報復されるかもしれないという恐ろしさに一瞬で屈服した。


「あ、あの……」


「君ももう無抵抗なんて馬鹿らしいことはやめろよ。暴れたらああいうのは遠巻きに陰口叩くだけになるから」


 あの人は一度も私の顔を見なかった。

 私が俯き続けていたせいなのだけれど、後悔した。





 あれからいじめは落ち着いた。私がやり返すようになったからかもしれない。

 何故だか私は隠れて何かをするということに関しては病的なほど上手かった。そうして味を占めてしまえば、後は相手が私に何もする気が起きないように繰り返してやった。

 あの人が吹っ切るきっかけを作ってくれたおかげだ。

 一人になったけれど、もはや苦痛にも思わなかった。

 当然だ、私にはもうあの人がいるのだから。

 あの人は私の顔なんて見えなかったに違いないけれど、私は鮮明に瞼の裏にあの人の姿が未だに焼きついたままだ。きっと生涯消えることはないのだろう。

 いつかあの人を見つける。そして、その時は絶対に顔を見て、覚えて貰うの。

 だから私はもう俯かない。




 そして中学に上がってすぐに巡り合ってあの人を知る。

 私の愛はそこから一層加速していくのよ。



「これがあの人と私との馴れ初めだけれど満足かしら?」


「ふーん、意外に真っ当な恋のきっかけじゃん。確かに陳腐な小説みたいだけどさ」


 友人Aとも呼ぶべきチームメイトの言葉に私は少し不思議に思った。


「私はいつでも純情可憐な恋する乙女のつもりなのだけれど」


「ダウト」


 まさに脊髄反射と呼べるほどの勢いで切り替えされた。


「純情可憐な乙女はそもそも監視カメラも盗撮も下着を盗んだりもしませーん」


「監視でも盗撮でもないわ。あの人のお父様から許可は得ているもの。下着だって盗んでるんじゃなくて同じ新品を交換してるだけよ」


 冷めた目でみつめてくる友人に反論すると、その眼は一層冷ややかになっていく。


「あれだよね。あんたの場合、彼の父親まで共犯だから質悪いよね」


「あのひともまた愛に忠実なのよ、好きな人のいないあなたには分からないかもしれないわね」


「まぁ、よくないけどそれは置いといてさ。あんたも言ってたけど、それって実際恋なの?依存なの?あたし的には依存って感じがするんだけど」


 友人Aの言葉に私は思わず微笑んでしまう。

 それを見た友人Aは少し顔を青くして私から距離をとった。


「間違いなくこの想いは恋よ。中学もずっと見ていて確信に変わったの」


 恍惚とした私の表情に彼女は言葉を失っていた。





「その話はまたいつかしてあげるわ。して欲しいのならだけど」


「うん、覚悟が必要そうだからいつかね」


 一生自分からは聞きに来なさそうな返事に私としては唯一自分の本当の恋バナができそうな相手だから若干の不服があるが、まぁ、いつかは椅子に縛り付けてでも話してあげると心に決めて会話を続ける。

 

「そんなことよりあの人はいつ私に告白してくれるか話し合いましょうか」


「そろそろ話題変えない?」


「そうね……私としては今月中にとは思うのだけれど、どうかしら?」


「わー綺麗なシカト」


「私は戯言よりあなたの意見が聞きたいのだけれど」


「ひどくない!?」


 会話が成立しないというのは中々難儀なものね、なんて呟いてみるとますます面白いリアクションをしてくれるこの友人は中々に不憫な子なのかもしれないわ。


「あなたは彼氏に引き摺り回されそうね」


「振り回されるより酷いってこと!?」


 疲れたように机に突っ伏す彼女は少し可愛い。

 

「そろそろ部活始まるし、行きましょうか」


「あーうん、そうだね」


 私の世界はあの人が中心だけれど、この子なら端に加えてしまってもいいかもしれないと思わせるので、この子は恐ろしい。

 単純な友人関係を築かせてくれるこの子と居るのは不快ではないのだ。

 友人でさえ気を許せない自分を少し嫌悪しながら、そんなことを考えていた。




 ストーカーの夜は長いものよ。

 監視カメラからの映像を鑑賞して悦に浸ったり、行けそうならば家に侵入し、下着が頃合になったら交換に向かったりと忙しいの。

 勿論、寝顔写真が一番多いわ。

 なんといっても一番至近距離で眺められるのはこの瞬間なのだから。

 日頃の盗撮では得られない距離感が一層私を盛り上げてくれるの。

 今日は不法侵入の予定は無いので写真や映像で満たされる。

 父親や母親は私自体に興味を持っていないから基本的に入られる心配も無い上に鍵も三重。

 昔は嘆いたものだったが、今となっては最高の環境だと言えるわ。

 成績さえ維持できて、世間様からの評価さえ上げておけばそれなりのお金を渡してくれる彼らはまさに最高の両親ね。

 会話を最後にしたのはいつだったかしら……?





 今日も日記をつける。

 あの人が始めたのを見てなんとなく真似をしたけれど、これがたまらない。

 映像、写真、そして私があの人のことを記録して記憶していけばいいと思っていた時期が私にもあったわ。

 そう文字で記録する。これほど大事なことを忘れていたなんて本当に自分が情けないわ。

 日々のあの人の些細な変化やよくしている仕草なんかも全部全部記録して、あの人の行動の傾向を分析もしないなんて、一体私はどれほど怠惰だったのかしら。

 嗚呼、幸せ。

 あなたがいて、日々が色付いた。

 あなたを一つ知るたびに身体がゾクゾクと喜びに震える。

 あなたとの日々を夢想することが何よりも甘美で。

 あなたが私を見てくれるたびに心から何かが溢れるの。

 見て、見て、見て、見て、見て!!

 あなたが変えてくれた私を。

 地獄を楽園に変えてくれたあなたが、あなただけが。

 私を見て





 愛してる。

 何よりも。

 愛してる。

 現在も過去も未来も。

 愛してる。

 あなたと巡り会えた、この世界を。

 愛してる。

 あなただけを。

 他には何もいらないから。

 ねぇ、お願い。

 私だけを愛して




ありがとうございました

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