異世界~そこには痛みしかありませんでした。
頭の中にふっと思い浮かんで書いてみてしまいました。
主人公が異世界だと気がつくまでのお話です。
視界が白く染まる。
突然網膜を焼くかと思える程の光量が広がる。
ほんの一瞬。
そしてその一瞬からは考えられない出来事が彼の身に起こっていた。
(ここ……どこ?)
目の前には全く身に覚えのない視界が広がっていた
そもそも彼は別に意識を失って居たわけではない。彼の考える限り意識等手放したであろう要素はどこにも無くそれゆえ自分が見たことも無い場所にいる理由も当然ない。
だが彼は思いの他取り乱すタイプでは無かったのが幸いか内に意識を向けるよりも周りをキョロキョロと見渡し現状を把握しようとしているようだ。
そうして彼は気づく。
(美人だな)
石作りで作られたかのような部屋。ヨーロッパ風とも言える小さな部屋。そんな部屋の中目の前には一人の女性が驚愕と言った表情で彼を見ている。
外国人。彼の好みにもろにヒットするかのように透き通るかのような白い肌に艶のある金髪。黄金律とでも言わんばかりの均衡の取れたプロポーションが10人中10人を振り返らせる事受け合いだろう。
だが恐ろしいまでの違和感がある。
何が?
その女性の着る服だ。まるで中世を舞台としたゲームのキャラクターが着るような白いドレスは明らかに普段着で着るようなものでは無いだろう。なんだこれは?ここら一帯でコスプレでもしているのか?
D以上はあるな
等という事は一切声に出さず、彼はその大胆に開いたドレスから見える二つの双丘をまじまじと、それこそ食い入るように見詰めている。
視線に気がついたのか女性が胸を隠す。その目には非難の目
もったいない……そう思いながら最優先で見るべきものを隠されてしまっては仕方がないとその女性を見て告げた。
「え~っと。what's up?」
「famo else kari?」
聞いた事も無い言葉だった。
少なくとも彼が知っている言葉ではない。やべぇ話し通じねぇ等と思っていると少女の右手が発光する。
手品?
何故今手品?なんて思っていると少女が彼の額にその光りを当てる。
「言葉わかります?」
完全に日本語である。
「おお、日本語しゃべれるんだ!」
「違います、私の魔法です」
何やら良く分からない事を言われた。うん、手品と言いたくないんだな、ばればれだがそういう事にしておこうと心の片隅みで納得しながら。
「そか、あんた名前は? 俺山口博人、それでここどこか分かる?」
「山口さんですね。アリエルと呼んでください。驚かずに聞いて貰いたいのですけどいいですか?」
「おう」
「ここは異世界なのです」
再び意味が分からない事を言われた。これはアレだろうか?何かの異世界チックをテーマにしたアミューズメント施設にでも入ってしまったのだろうか?そんな記憶は無いが、等と考えている内にアリエルが続ける。
「びっくりしましたよね?ごめんなさい。私が召喚してしまったみたいんです……手違いで……」
うむ。冗談では無いと言うことらしい。これはきっと最後まで付き合うか制限時間になるまではローププレイを続けなければ行けないのだろう、しかし金は誰が払ったんだ?と色々博人は考えるが迫真の演技で告げるのでここは乗っておくべきだな。そう考えた博人は暫くつきあう事を決めた。
「そうか。それは仕方がないな。でどうやったら帰れる?」(家に)
「残念ながら帰る方法はないんです……」(元の世界に)
意図する裏の言葉に二人は気づいていない。
「じゃあしょうが無いな。どうしよっか?」
「今日は私の家に泊まってください」
え、何?日またぎ?まぁ暇だからいいか。
博人が気になったのは精々さっきまで食べようとしていた超大盛り焼きそばどうなったかな?くらいのものだ。それも目の前にいる美人と一緒に居られるなら些細な事だ、と目の保養とばかりに博人は彼女を見て答える。
「了解。それじゃあ今日はお世話になるよ」
「はい、それじゃあ色々と説明する前にあなたにスキルを授けますね?」
スキル?あれか?何かのゲーム的な何かか?
色々考えるがどうせアミューズメントなら楽しまないと損だと、深く考えずに博人は答える。
「そっか。どんなスキルが貰えるんだ?」
「何になるかはその人の資質によって違います。私の様な神でもどんなスキルになるか分からないのです」
おお、この女性の設定は神様なのか。
「分かった。それじゃあそのスキル下さい」
「分かりましたそれじゃあ目を瞑ってください」
言われるままに目を瞑りまっていると。
「いだ!」
あまりの衝撃に目を開けて声を漏らしてしまった。
目の前のアリエルはどこから取り出したのかさっきまでもっていなかっただろう?と明らかに分かる程の巨大な――
ぴこぴこハンマーだった。
それで思いっきりぶったたかれた博人は目をぱちくりしている。
「ん! 出ましたよ! これは!」
何やら驚愕な顔をしている。
演技力豊かだな。等と思いながら訪ねる。ぴこぴこハンマーで殴られた頭をさすりながら。
「で?どんなのスキルだったの?」
「ラーニングと書かれていますね」
どこに?とは思うが設定なのだろうと。突っ込みは入れず続きを促す。茶々を入れて白けさすのは良く無いと。
「はい。私も初めて見ました。えっとですね。他のスキルを覚える事ができるみたいですね! ちょっとこれ凄いかもしれません!」
相変わらずどこからその初めてみた情報を読んでるかはしらにないが凄いらしい。
「そっかぁ。レアスキルなんだな。やったな」
博人は別に役者志望でもなんでもない。若干の棒読みなのは致し方なし。
「ええ! 本当に見たことないです!」
演技上手すぎだろう!
役者になれるのではないか?等と考える博人。アリエルのその声は不自然さが全く無いくらい驚嘆とばかりに目を光らせている。
「ちょっと早速試しにいってみましょう! どうせ戻れないんですから早めに把握しておいた方がいいです!」
巻きか?巻きなのか?話しを進めたいんだな。と博人は判断し首を縦にふった。
「じゃ、試そう、どうすればいい?」
「それじゃあついてきてください!」
アリエルの告げる語尾は力強い。最早どうみても演技には見えない程に。そういってアリエルにつられて家の外へと出た博人は驚く。
その街並み
その視界を覆うのはレンガの建物、石作りの道、遠くに見えるは城か。
アスファルト等は一切ない。
空も見える。日本のどこにもこんな景色は無いだろ
その光景が心を躍らせる。
やはりこんな所に突然自分がいる事は不思議だが今はその光景を目に焼き付けようと必至になる。
辺りをキョロキョロと見渡す博人をアリエルが先導し都市門だろうか?を、くぐり抜け目の前には平原が広がる。
博人の胸中はもはやその絶景に奪われている。
どんなスケールの体験ロールプレイかは知らないがこれは圧巻だ。等と考えているとアリエルが立ち止まり指を刺す。
その先。
犬?
大型犬位だろうか。威嚇するようにこちらへうなり声を上げ近づいてきている。
博人は目をしばたたかせる。
ぱちくりとその犬を見ている。
ロボット?とも思ったが精巧すぎだ。
アリエルを見る。
視線に気がついたアリエルが満面の笑みでおおきくひとつこっくりと頷くと。
「さぁ! あの魔物の攻撃を受けてください!」
マモノ
え?っと博人が犬を見る。
唸り声を上げて徐々に近づいている。
アリエルを見る。
再びこっくりと頷くアリエル。その顔は期待の眼差しだ。
二度三度と同じ事を繰り返す博人、だがやはりアリエルは大きく頷くばかりである。
瞬間背中に冷たい汗が流れた。
嘘?っと思う時間すら無く犬が牙を剥いて。
博人の右腕へと噛みついた。
唸り声を上げたままその犬は左右に首を振り肉を抉ろうともがいている。
激痛と呼ぶには生ぬるい。
ぶんぶん首を振る犬、腕から血が流れ出す。
最早頭の中は痛みでいっぱいだ。とその瞬間脳裏に言葉が浮かんだ。
『俊敏Lv1』
訳が分からないがその脳裏に浮かんだ言葉で一瞬痛みを忘れ犬に左拳をぶつけた。
きゃん、と叫び声を上げて犬が離れると距離を取る。
瞬間。
犬が炎に包まれる。
訳が分からないまま右腕を抑え火だるまになった犬を見ているとアリエルから声が掛かった。
「すごいです!本当に覚えましたよ!」
興奮しながら博人へと駆け寄ってくると博人の右腕を取る。
そして突如アリエルの手が突然光りだすとその手を腕の傷へと当てる。
異常な光景だった。どんどん塞がっていくのだ、驚かずにはいられないだろう。
「ハハ……」
笑うしかなかった。
「やりましたね! 早速スキルを手に入れましたよ!」
そんな心中は露しらずとばかりにアリエルは興奮気味に喜色を上げる。
「なぁアリエルさんや」
「はい? なんですか山口さん」
「ここ……異世界?」
「はい、山口さんがいた世界とは別の世界、山口さんから見たら異世界です」
現実を見つめた博人を置き去りにアリエルが告げた。
「ようこそ異世界へ」