階段
最終日の夜、3人はいつもの様にカギをフロントに預けようとした。
ところが、フロントの様子がいつもと違う。
少し戸惑った後、フロントは3人に告げた。
「お客様、申し訳ありませんが…、お客様のお泊まりのスゥイートルーム用の高層エレベーターが、今晩0時から明日の朝5時まで点検作業に入ります。本日は必ず0時までにお部屋にお戻り下さい。」
「どうするっスか?最終日くらいゆっくりしますか?」ユウトが言った。
「馬鹿だな。最後だからこそ行くんだよ!リン、お前もいくよな?」
「ええ、そうですね、とりあえず0時までに帰れば問題なさそうですし、いきましょうか」
という2人の言葉にユウトも断る理由はなかった。
数時間後
「はしゃぎすぎちまったな…。」
3人はエレベーターの前にいた。
エレベーターには
「On Maintenance」(点検中)
という看板が掲げられている。
さながら、愚かな3人の若者を嘲笑うかのようだ。
こうなってしまった3人の選択肢は2つしかない。階段で登るか、朝まで待つか。である。
「登ろう!」
マサオミは言った。
「但し、ただ登るだけじゃ面白くない。ここは100階まで登るまでに、1階登る毎に交代で怖い話をしていこう!」
「それは面白いですね!」
リンは答えた。マサオミのポジティブ思考にはいつも驚かされる。
ただ、ユウトだけが乗り気ではない。
「これって百物語っスよね?ヤバイんじゃないっスか?」
「何だ、お前ビビッてんのか?」
「そんなんじゃないっスけど…。」
マサオミの馬鹿にしたような言葉に、ユウトはしぶしぶ提案に賛同する。
そして、この決断が、3人を恐怖の始まりへといざなうこととなる。
深夜の非常階段は、暗く、湿っぽい。この様な状況の中、話しながら階段を登るのはかなり体力を消耗するものであるが、そこは若さである。1時間も経たないうちに彼らは50階に辿りついた。最初のうちは浮かない顔をしていたユウトも今はかなり乗り気である。
「意外と楽勝かもしれないですね。」リンの言葉に異論を唱える者はいなかった。
異変があったのは90階を過ぎたあたりである。
それまで饒舌だったマサオミが明らかに口数が減り、心ここに在らずといった感じである。「なんでもねえよ!」心配して声を掛ける2人の言葉も届いていない様である。
マサオミの様子が気にかかりながらも、他の2人は近づきつつあるゴールに興奮気味である。94…95…、マサオミの様子だけがさらに変わっていることに気付いていない。顔色も悪く、息も荒い。
「99!」ユウトは叫んだ。ついに99階である。百物語も99の話が終わった。最後はマサオミの番だった。
「最後はとっておきのやつで決めて下さいよ!」
「期待してますからね!」
プレッシャーからだろうか。マサオミの表情は堅い。顔色もさらに悪く…。
「ああ…。とっておきのはなしがあるんだ…。」
マサオミは暗い声で言った。薄暗く良くはみえないが、声のトーンとは裏腹に顔は笑っている様に見える。
マサオミは続けた。
「じつは…、ククク…ビビルンジャネエゾ…。」
マサオミの様子がさらにおかしくなった。心なしか声まで別人が話しているかの様だ。
「鍵ヲフロントカラ受ケ取ルノヲ忘レテタンダ…。ウケケケケケケケケケケ…。」




