青年とメイド リメイク前
完全な深夜のテンションで書き上げていたので、
何かいらっとする演出がありますが、お許しを。
コンコン。
目の前にある、大きな扉が叩かれた
「いいぞ。入れ」
「失礼します……」
ガチャリ、と西洋扉が開かれ、中から人が現れる。
「今日もいい天気の様で」
「あぁ、そうだな……あぁ、食事はまだいい。新聞を取ってくれ」
その人物は解っていたと言わんばかりの早業で目の前に新聞を差し出してきた。元より朝食など持って来ていなかったようだ。
「どうぞ……では、先に本日のお食事のメニューとご予定の確認をさせていただきます……」
「へぇ。一面は『怪奇!帝都のお顔に変死体!』か……ん、あぁいいぞ。言ってくれ」
「では……」
メイドは畏まった様にお辞儀をすると、手に持っていた手帳を開いた。
何時もと同じ朝。
起きて、服を着替えて、寝室から自室へ行き、彼女が来るのを待つ。
自分、江宮朋和は金持ちだ。
江宮と言う姓を受け朋和と言う名を持ち、この世へと降り立ったのは19年前の事だ。当時、あまり医学が進んでおらず、母、幸恵は自分を産むのに力を使い果たしてしまい衰弱死し、
父、利家は先の大戦で得た巨万の富を置き土産に、14年前に老衰で死んでしまった。
母、享年26歳。父、享年56歳だった。
残された富は後三世代は安泰であろうかという程のものと、
父が死んだ日に突然、我が家に父に雇われたと言い、父の判が押された遺書を持ってやって来たメイド、十束沙耶だった。
沙耶は朋和に残された巨万の富には一切目もくれず、朋和を我が子の様に育て上げ、壮絶な相続争いから守りきった朋和にとっては親同然の人物だった。
「~~からは、上田様が大々的に立食会を催すのでそれに参加を……」
そんな彼女は、今、自分の目の前で今日のスケジュールを朗読している。
あんな事、別にしなくてもよいのに。
メイドの務めですから。と言い、聞く耳を持ってくれない。
と、いうか。
「死者は3名……園雫正弘、浦菱恭介、野茂文人……なに?立食会?」
「そうでございますが……なにか?」
「何かではない、何かでは。此処に雇う時に言っただろう俺は貴族の真似事は嫌いだと」
「そう申されても、江宮家の体面を保つために……」
「あーあーうるさいうるさい。大体なんだ?金持ちどもはどいつもこいつも貴族の真似ばかりしやがって。体面なんて、関係無いだろう?」
「……お言葉ですが、いつまでもそう、引き籠られておりますと、お体に障りますよ……?」
その言葉にピクリ、と耳を動かす
「何?」
「ですから、引き籠っていては……」
「俺は引き籠ってない!!」
最後まで聞かずにバンッ!!と机を叩くと同時に、気取った喋り方を止め、裏返った声で叫びながら顔を真っ赤にして椅子から立ち上がる。
「あらあら♪顔を真っ赤にされて……大丈夫ですよ、私は朋和様が引き籠られていないという事を知っておりますから……それにお身体が丈夫なのも……」
ソレを観た沙耶はニコニコしながら言った。
ソレを見た自分はしまったと思い、
「負けた、降参だ。」
そう言い、椅子に座りなおした。
いつもそうだ。この人は。
俺をからかって遊ぶ。
しかしその時に見せてくれるあたたかい笑顔が嬉しくて、
わざと引っかかっているのも、また事実だが。
そんな事を、母親同然の人物に思ってしまう事に、俺はいつも自己嫌悪する。
「ふんっ……その分だと、どうやら立食会の件は……」
それをごまかすために、演技を続ける。
「えぇ。丁重にお断りさせていただきました。よって、本日のご予定はありません」
やっぱり。
この無駄に金持ちぶる『朝のやり取り』は最早恒例の物になりつつある。
俺が沙耶にからかわれるのは、毎朝の事だった。
そこに、主人とメイドという関係は無い。
あるのはただ、親子と言う関係だけ。
最早、彼女がメイドなのは、ごっこ遊びみたいなものだった。
こうなってしまえば、ごっこ遊びの堅苦しい言葉など、不要なものだ。
「……だいたい、体が丈夫なのだって、沙耶に鍛え上げられたからじゃないか」
笑みを残した顔で、平然と沙耶は答える。
「えぇ。大和男児が落花生でどうします」
「……ピーナッツ野郎を落花生と言ってもお上品にはならねぇぞ……」
沙耶は柔らかな性格をして、意外と、荒々しい面もある。俺が沙耶に受けた特訓も、そうだった。
各種武道は段を持つまでやらされて、体は勿論、精神や非常時知識。それに……
全く、妖怪生物学なんて、一体何のために必要なんだか……
しかし、それでもまだ、沙耶には敵わない。
どうして沙耶がそんなに強く、昔から不気味なほど老いを見せない容姿なのか。ソレは、聞くとこの関係が壊れてしまいそうで、怖くて聞けない。
彼女が言いださないという事は、そういうことなのだろう。つまり、聞かないでということだ。
「あぁ、俺今日、飯食ったら東京駅の方に行ってみるわ」
完全に砕けた喋り口で言う。
それがきっかけになったのか沙耶も
「東京駅というと……今朝、事件があった所じゃない……野次馬精神は感心しませんね……それに、何かあったらいけないじゃないの」
砕けた喋り口調になった。
うん。この方が、断然しっくりくる
「いや、身の危険は心配しなくていいよ。むしろ、誰かに襲われたら襲った人の心配をした方がいいくらいだ。それに、俺が引き籠りじゃないってことを示すためにさ……」
ソレを聞いた口元に手を当て、嬉しそうに目を細めてわらう。
「クスッ……それで意趣返ししたつもり?」
「いや?これはお礼だよ。運動不足に気付かされたね。最近、蒸気機巧しか弄っていなかったしさ。ガレージに何か新しい部品が入ってるかもしれないし、ソレを見に行くためもあるかなあ……、あと真壁が元気にしてるかちょっと顔を出してくるってのもあるな」
「真壁君のところに……いえ、取りあえず、朝ごはん持ってくるね~」
沙耶は一瞬、嫌な顔をして、元の笑顔に戻った
「……?あぁ、頼むよ。もう、おなかがペコペコだ」
こうして、江宮朋和の非日常は始まる。
十束沙耶が、守り続けた日常が、今、崩れる。
「早くしてくれよー」
彼らは未だ、それに気がつかない。
どうも、岡部です。
朋ちゃんの性格が初期草案とバリバリ変わりまくっていて、書いてる途中焦りました。
ちなみに、朋ちゃんは主人公ではありません。
……もう朋ちゃん主人公でいいんじゃないかな?
そして謎多きメイド沙耶。
彼女の戦闘力は、今現在比べる対象がいないので解りにくいですが、
これから出していく化け物どもの中でも結構上位に食い込みます。
え?何歳かって?
……ソレは秘密です。
あ、ちなみに美人設定です。
それと、『ガレージ』という単語が出てきましたね?
まぁ、なんとなく想像がつくと思いますが、
そこでは電気なんかいらんかったんや!蒸気万歳や!
といった物が売っております。
……正直、スチームパンク成分を入れる部分を何処にするかで地味に悩む……。
余り一般市民を強くしたくないし……。