表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イジメ  作者: トモ吉
1/2

臆病な勇気

大津市の中学2年生の自殺をニュースで聞き、イジメ作品に挑戦する事を決めました。

大津の事件は非常に嘆かわしく思います。

人一人が命を落としたにも関わらず、保身が先走り、事実を隠蔽しようとする学校側やイジメを認めようとしない加害者。

もし、人としての心があり、罪悪感が少しでも感じられるなら醜い責任転嫁は止めて、亡くなった生徒の為に謝罪と再発防止に努めて欲しいと心からそう願います。

最悪だ。

どうして僕はいつもこんな役回りなんだろう。

こんなことなら・・

後悔ばかりが頭をよぎる。

「テメー、聞いてんのか!」

目の前の3人組の1人が僕の足を蹴ってきた。

「イタッ」

右足のスネに痛みを感じしゃがみ込んだ。

「俺らに喧嘩売ってシカトとはいい度胸じゃねぇか」

こいつらの言ってる事は嘘だ。僕は喧嘩なんて売った事はないのに・・・


★★★★★★★


僕の名前は石原和人。現在、地元中学校に通っている1年生だ。

始まりは昼食時間の事だった。

僕は授業が終わり、仲の良い友達と話をしていた。

「で、さぁ昨日のテレビ・・・」

たわいもない話をしていた時だった。

「オイ、お前今日も給食当番頼むわ」

僕が振り返ると不良達が大人しい子に自分の当番を押し付けようとしている。

大人しい子は嫌そうな顔はするが不良に逆らえないで困っていた。

「オイ、目を合わせるなよ」

目の前で話している友達がしかめっ面で僕に注意してきた。

クラスメートも自分の事じゃないからといって我関せずと見ない振りをしている。

中には笑いながら見ている者すらいる。

「嫌がってるじゃないか」

僕はついついそう口を出してしまった。

僕だってこういう事は言いたくない。むしろ、僕より強いヒーローみたいな人が居てくれれば僕が言わなくていいのに・・

「あ~ん?なんだって」

不良がこっちにやってくると、僕の目の前にいた友達はそそくさと逃げ出した。周りの人も僕を哀れな目で見ている。その目にはほっときゃいいのに・・という感情が込められている。

「もういっぺん言ってみ?」

相手を威圧する態度で聞いてくる。

僕は怖くて視線を逸らして冷や汗を流す。

「あ、あのですね。本人も嫌がってるみたいだし、やめてあげた方がいいんじゃないかな~って思っちゃったりして・・」

不良が椅子に座っている僕の胸ぐらをつかみあげて無理やり立たせる。

「舐めてんじゃねぇぞ。ちょっとこっちに来い」

そう言われると引きずられて男子トイレに連れ込まれてしまった。

そして今に至る訳だが・・

「喧嘩なんて滅相もないです」

僕は両手を振って戦意のない事をアピールする。

「ふざけるな、テメーにはお仕置きが必要だ」

有無を言わずに拳を振り上げる不良に僕は慌てて目を閉じた。

「ちょっと待ってくれませんかね?」

背後から掛けられたその声に不良は動きを止めて振り返る。

「誰だ?」

不良達が呼び止めた人物を見ると硬直する。

「狂犬の辻」

不良の誰かが小さくつぶやく。

「お前には関係ないだろ、向こうに行ってろ」

不良達は辻を追い払おうとする。

「そこにいるのは俺のダチなんでね。悪いけど手を引いてくれねぇか?」

「手を引けだと?テメー、ナメてんのか」

「穏便にお願いしてるんですよ。どうしても駄目っていうのなら・・」

辻がニタリと笑い一歩前に進み出すと不良達は一歩後ずさる。

「今回だけだからな」

そう言うと不良達は一目散に逃げ出した。

「ああ、次があったら穏便には済ませねぇよ」

不良達が消えて誰に言うでもなく呟いた。

「物騒な事を言うなよ、ノブ」

助けてくれたのは辻信男、僕とは昔からの付き合いでお互い下の名前で呼んでいる。

ひ弱な僕と不良から狂犬と恐れられるノブは一見すると水と油だが、お互い仲の良い親友だ。

「カズ、いつまでそんなトコでへたり込んでるんだ」

ノブが差し出す手を僕は握って立ち上がる。

「助かったよ。でもどうしで別のクラスのノブが?」

「偶然教室から廊下を引きずられて連れていかれるお前の姿が見えてさ」

「ああ、ちょっとトラブルに巻き込まれてさ」

「嘘つけ、またカズの悪い癖でトラブルに首を突っ込んだんだろ?」

「・・いやまぁ、そんなつもりはなかったんだけどさ」

僕は少し苦笑いをしながら頭を掻く。

「ったく、俺がいつも気がついてやれるとは限らないんだぜ?」

「はい、すみません」

言い返す事も出来ず僕は反省している。

そんな僕の肩をポンと景気良く叩いく。

「ま、俺はそんなカズの性格好きだけどな。それに俺も助けられてるからな」

僕がノブを助けたというのは小学校の時の話だ。それ以来ずっと僕の事を気にかけてくれてる。

「そんな事よりこのまま教室には戻りにくいだろ?外に飯食いに行こうぜ」

ノブが僕の肩に手を回してニッと笑う。

「えっ、でも外で食べるのは規則違反じゃ・・」

「いいじゃねぇか、いいじゃねぇか。細かい事気にするんじゃねぇよ」

こうして悪友に誘われるまま、学校の外で食事をとる事になった。

場所は学校に近いお好み焼き屋さん。

カランカラーン

「いらっしゃい」

「おばちゃん、いつもの」

ノブは気安くおばちゃんに声をかける。

「また抜け出して来たのかい?」

「ここのお好み焼きがどうしても食べたくてさ」お好み焼きのおばちゃんとノブはやたら仲が良さそうだ。そう言えば何度かノブから話を聞いた事があったかな?

「上手い事言っても駄目だよ。食べたらちゃんと学校に戻るのよ。隣の子は?」

「俺のダチでカズだよ。カズも俺と同じので頼むよ」

「ふ~ん、あんたと違って真面目そうな子だね。もしかして無理やり連れて来られたんじゃないの?」

おばちゃんが僕の方を疑わしい目で見る。

「えっいやまぁ、強引と言えば強引・・かな」

ゴツン

僕の話を聞くなりおばちゃんがノブの頭に特大のゲンコツを落とす。

「痛~~、何するんだよおばちゃん」

「それはこっちのセリフよ。こんな真面目な子を学校から連れ出して来てあんたみたいなロクデナシになったらどうすんだい」

「あ、いや、待って下さい。そういうんじゃ・・」

おばちゃんの剣幕に圧倒されつつもひとまず、止めて一から説明をする事になった。

おばちゃんがお好み焼きを焼く間、事の顛末を話してようやく納得してもらえた。

「ごめんねぇ~おばちゃん早とちりしちゃった」

ノブは頭に出来たたんこぶをさすりながらお好み焼きを食べてる。

「頭がいてぇよ」

「今日の分はおばちゃんの奢りにするからさ」

おばちゃんが両手を合わせて謝る。

「わかったよ。もういいよ」

お好み焼きをたいらげて、満腹になるとそろそろ時間が気になってきた。

僕はお好み焼きの代金を支払う為に財布を取り出した。

ノブの分はタダになったけど僕の分は支払うべきだと思ったからだ。

「ご馳走様でした」

「いいよいいよ、カズ君だっけ?人助けをしてここに来る事になっちまったんだろ?ならお金はとれないよ。でもこれからは危ない真似はしたら駄目だよ」

おばちゃんはニッコリと気さくな笑顔でそう言ってくれた。

二人揃って店を出て学校に歩き出す。

「あのおばちゃんいい人だね」

「だろ?俺の行きつけさ」

ノブは自慢そうに言っていたがノブが自慢げに言うのも違うだろうと心の中で苦笑いをする。

「オイ、隠れろ」

学校の正門が見えてきたところでノブが近くの自動販売機に身体を隠す。

何が起きたのかわからないまま僕もそれに続く。

「あれを見ろ」

自動販売機からそっと顔を出して見る。

女子生徒が正門でキョロキョロとしている。

その女子生徒には2人とも見覚えがある。

「メグじゃないか?」

正門に立っているのは山本恵、僕達と同じ小学校出身の風紀委員。仲はいいのだが、今回は敵だと判断すべきだろう。

「チッまずったな。今から裏門にまわってる時間はない」

「どうしよう」

僕は焦りを隠せずにノブの顔を見る。

「任しとけ。正門の少し離れた自転車置き場から行けばまだどうにかなる」

こういうピンチには場慣れしてるのか、ノブは自信満々に答える。

2人はそそくさと自転車置き場側に回り込む。

ここの植木を飛び越えれば学校の敷地内だ。

ノブが植木をすり抜け敷地内に入ると僕に手招きをした。

「早くこい」

僕も植木をすり抜けた。

これで一安心だとため息をついたのも束の間。

「あんた達、そこを動くんじゃないよ」

威勢の良い女生徒の声が聞こえた。

「メグだ!どうしてバレた」

「あんた達との付き合いは長いからね。さぁ、どこに行っていたのか聞かせてもらいましょうか」

ふふん、どうだといった感じの態度のメグに捕まった。

「お、俺達はちょっと自転車置き場でかくれんぼしてただけだよ。なぁ?カズ」

急に話を振られて僕の心臓はバクバクと鼓動をうつ。

「えっ、あ、ああ、そうだよ」

「本当に?」

こちらを見透かしたような視線で睨まれる。

「・・うぅっ」

僕は蛇に睨まれた蛙のように小さくなっている。

「メグ、勘弁してくれよ。後でちゃんと話すからさ。この通り」

ノブが両手を合わせて頭を下げる。

「・・わかったわよ。詳しい事情は後で聞かせてもらうわ。一般生徒からカズが不良に連れていかれたと聞いて心配したんだから」

メグはやれやれといった感じで許してくれた。

「恩にきる」

ノブが再度、頭を下げると僕達は立ち去ろうとした。

「ちょっと待ちなさい」

ビクッ

はりのある声で呼び止められる。

「まだ、何か用でしょうか」

僕達は恐る恐る振り返る。

「あなた達、顔に青海苔がついているわよ」

僕とノブの二人は顔を見合わせる。青海苔がついているのに気付くと額から冷や汗が流れる。

「ちゃんと洗って行きなさいよ。その辺の事情も後でしっかり聞かせてもらうわよ。学校が終わったら【いつもの場所】で待ってるわよ。逃げるなよ」

最後の一言には殺気がこもっていた。

「はいっっっ」

そうして僕達は逃げるようにこの場を去った。

大津の皇子山中学校のイジメ犠牲者のご冥福をお祈りすると共にご遺族に謹んでお悔やみ申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ