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ヤンデレな妹

作者: どくた23

 私の名前は鈴木清香。とある地方都市の私立女子高校に通う2人姉妹の姉。二つ下の中学生の妹、明日香とは大の仲良し。家ではいつもいっしょにいるの。でも仲良しすぎてその、ちょっと倒錯した関係になっちゃってるんだけどね。ううん大丈夫。まだキスしたり、お互いの体をいじくったりしてるくらい。まだ、ね。そんな妹と秘密の関係を続ける普通(?)の女子高生。そのはずだったんだけど。


 その日も私はいつものように帰宅中だった。背中まで伸びた長い黒髪を揺らし、短い制服のスカートをひらひらさせながら歩く。

今日は夕飯なにつくろっかなあ。明日香はなに食べたいって言ってたっけ?

そんなことを考えていると、目の前にひとりの女の子が立ちふさがった。


「とうとう・・・見つけた!!」

肩までかかるかどうかという短めの髪に、パッチリした意思の強そうな大きい瞳。利発そうな顔。体はスレンダーでスラッとした印象を受ける。この紺のブレザーの制服は市内トップの進学校のものだろう。しかし、私には見覚えはない。


「え・・・と。どちら様でしょう?」

その私の言葉を聴いて、女の子の表情が険しくなる。

「やっぱり・・・。やっぱり記憶までいじくられていたのね。私、私よ!私の顔を良く見て!知らないなんていわせないわ!」

そんなこといわれても。確かにとてもかわいくて誰でも振り返ってみてしまいそうな女の子だけど。

「うーん?やっぱりよく思い出せないんですけど。あなたは私のことを知ってらっしゃるんですか?」


「知ってるわよ!あなたは鈴木清彦。ううん、いまは確か清香っていうんだったわね。鈴木清香。そうでしょ!?」

あ、正解だ。

「そうです。私は確かに鈴木清香ですけど。私あなたとお知り合いでしたっけ?」


「知り合いか・・・・ですって?笑わせないで!!」

女の子はすごい形相で怒鳴った。

「え、えっと。お、落ち着いてください。私がど忘れしていたんなら謝りますから!だからどうか落ち着いて。」

私はいきなり現れて怒鳴り散らすこの女の子に完全に動揺してしまった。


「ハァ?あの清彦がこんな可憐な女の子になっちゃうなんて、あの妹の歪んだ愛情にも困ったもんね。」

清彦って何だろう?

「あの・・・その・・・え・・・と。さっきから清彦って。私の名前は清香なんですけど・・・」

「ああ、そうね。あなたは今記憶がおかしくなってるんだもんね。いいわ、とりあえず説明してあげる。」

そういうと女の子はにわかには信じがたい内容を語り始めた。


「あなたはね。もとは男の子だったのよ!」

「わ、私が男の子?いったい何を言っているんですか?」

「いいから黙って聞きなさい!!」

女の子はまた一喝した。

「ご、ごめんなさい・・・」

そんなに怒鳴んないでよう・・・・

「いい?あなたは男の子だったの。鈴木清彦っていう。私と同じ高校のね。今は分からないかもしれないけど、そうだったの。背が高くて、スポーツも勉強もとてもできて、そして何より優しかった。」

「はい・・・・」

とりあえず今は黙って聞くしかないよね。

「そして私は、そんなあなたが好きになって、あなたも私が好きになってくれて、そして・・・恋人同士になったのよ!」

「あなたと、私が・・・恋人?」

そんな。なにをいっているの?私とこの女の子が・・・恋人?そう思って女の子をもう一度じっと見たとき。頭の中にふっとなにかひっかかるものを覚えた。

「でもそれをあなたの妹は許さなかった。あの超ブラコンの妹が。そしてあなたはある日突然学校に来なくなった。担任が言うのには急な両親の都合で転校した。ですって。でもそんなの信じられる?あなたは両親が転勤族だから妹とふたりで生活していたのに。そんなことありえない。そう思ってあなたの住んでいたマンションに行ったら、既にもぬけの殻になっていたの。」

「確かに私、半年くらい前に引越しはしました。でも、それはあのマンションよりもっといいマンションが見つかったからで。」

「そう思い込まされているのよ!あなたがいなくなってから私、血眼になってあなたを探し回ったわ。だけど何の手がかりもない。だけど私は探したよ。そうしたら、市内の有名私立女子高に転入生がやってきたっていうじゃない。中高一貫のお嬢様学校に転入生なんて、そうはない。私はそこでなにかピンときたの。私が初めてあなたの家に行ったときのあの妹の汚らわしいものを見るような眼。そして突然の転校。そして調べたら、その転入生の名前は鈴木清香なんてふざけた名前らしいじゃない。もう確信に変わったわ。あの妹が何かしたに違いないって。そして今日、私はあなたに向き合ってみて、そこかしこに面影が残っている。とうとう見つけたわ、清彦!!あの妹に何されたか知らないけど、私が来たからにはもう大丈夫。思い出して。あたしよ。あたしは詩織よ!!」

「しお・・・り・・・。」

頭の中の引っかかるものがどんどん大きくなってくる。


しおり。詩織。シオリ。Siori。


・ ・・・しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり・・・・・


頭の中で3文字のひらがなの連続がトグロをまいて暴れまわる。


聞いたこと・・・ある・・・しおり、しおり・・・・

でも、私は清香で、小さい頃から引っ込み思案で、だから心許せる妹の明日香とことさら仲が良くて。それに学校だって、転入したんじゃない。試験を受けて、ちゃんと中学校から入学して。入学して・・・・あれ?そういえば試験、どこで受けたんだっけ?それに入学式も。なんか、その辺の記憶がすごく曖昧で。そういえば私、中学入試なんて受けてなかったんじゃあ。普通の公立中学に入学して、勉強の才能が開花して、それで、地区のトップ校を受験して。ってあれ?なんかおかしい。なんかおかしいよ?


しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、ししおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、しおり、おり、しおり、しおり・・・・



「思い出して!清彦!!私は、あなたの恋人の、詩織だよーーーー!!!」


女の子の絶叫が私の鼓膜を破らんばかりの勢いで直撃したとき、暴れまわっていたたくさんの「しおり」が、心の中心に集まり、そして・・・



爆発した。



「あ・・・・・・あ・・・・あ!!!」

私は。ううん、いや!俺は!!俺は、清彦。鈴木「キヨヒコ」。

「俺は・・・鈴木、清彦だ!!」

思い切り目の前の女の子。俺の彼女。佐藤詩織にむかって叫んだ。その途端。


「き・・・清彦ぉーーー!!」

詩織が思い切り抱きついてくる。こちらは女の子の体のままなので思い切りよろけてしまった。


「清彦!清彦!清彦ぉぉぉぉぉーーー!!うぇぇぇぇーーーーん。きよひこぉぉぉぉぉ」

詩織は俺の女の子の胸に顔をうずめて泣きじゃくる。

「ありがとな。ありがとな、詩織。お前のおかげで俺。」

「グスッ。いいの。私は清彦のこと愛してるから、そんなの全然いいの。ただ、私は清彦が、私の清彦が戻ってきてくれたのが嬉しくて。う、うぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーん。」

「ば、ばか。俺だって女の子の体のままなんだぜ。そんなに泣かれたら、うっ。ひっく。グスン。泣きたくなってきちゃうじゃないか。」


そのまま二人で抱き合ったまま、気の済むまで泣き続けた。散々泣いた後、詩織はようやく抱きつく腕を緩めた。

「グスッ。エヘヘ。清彦の制服のリボン、涙と鼻水でぐしょぐしょにしちゃった。」

詩織がふんわりとした笑顔で微笑む。

「いいさ。そのくらい。それよりこれからのことを考えないとな。」

そう。俺はまだ女の子の体のままなのだ。男のときの記憶がすべて戻って、俺はすべてを理解した。

あの日、スタンガンか何かで明日香に気絶させられた俺は、両手足を縛られた姿で眼を覚ますと、真っ暗な中にろうそくを妖しくともした部屋にいた。明日香が俺の周りになにやら魔法陣のような図形を書いた後、お兄ちゃんは永遠に私のものとか言って、何か呪文のようなものを唱えた。そこまでが男のときの記憶のすべてだった。

「そうなんだ。やっぱり、あの子が原因なのね。あの子があなたを私から遠ざけようとして。」

「ああ。しかし、いくらなんでもこれはやりすぎだ。今からすぐ家に言って、きつくしかってやらないと。それでこの魔術みたいなものを解いて、俺を元の体に戻してもらわないとな。」

「うん。私も行く。行って明日香ちゃんとしっかり話をつける。」

「そうだな。ちゃんと話して、ちゃんと分かってもらおう。それじゃ、行こうか」

二人で歩きかけたそのとき、



「その必要はないわ」


背後から声が響いた。感情のない、冷たいような、それでいてどこか怒りのこもったような聞き覚えのあるその声。

「!!・・・明日香?きゃあ!」

俺が振り返ろうとしたそのとき、バリッとした感覚が全身を襲い、俺の意識が遠ざかる。


ドサ、ドサッ。


気を失って地面に転がった詩織と清彦を、冷たい眼をした一人の少女が見下ろしていた。手にはスタンガン。すこしウェーブがかかった栗色の髪をツインテールにした、色白でセーラー服の美少女。

「なあんだ。気付いちゃったんだ。二人とも、イケナイ子・・・・イケナイ子には、ちゃんとおしおきしてあげないとね。」


そうひとりつぶやくと、少女とは思えない強い力で、気を失ったままの二人をどこかへ引きずっていった。



・・・・・・・・・


「う・・・・ん。」

俺が眼を覚ますと、そこは以前見たことのある、暗闇とろうそくの小さな部屋だった。俺はちょうど壁にもたれて座っているような格好になっていた。体を動かそうとするが、前と同じように両手足はがっしりと縛られてしまっている。反対側の壁に同じように縛られてもたれているのは詩織だ。詩織ももう目は覚ましていた。そして部屋の中央には、腕組みをした明日香が。


「あ、眼を覚ましたんだね。お姉ちゃん。おはよう。なんちゃって」

明日香はとびきりの笑顔をこちらに向けた。それは一見とても無邪気なものに見えるが、今の俺にはとても恐ろしいものに感じられた。


「ダメじゃない、お姉ちゃん。こんな変な女に捕まっちゃ。こんな女のことなんか信じちゃだめ。お姉ちゃんは優しいから、人のいうことなんでも信じちゃいがちだけど、世の中には悪い人も大勢いるんだよ。この女もその一人。だから私がお姉ちゃんのために捕まえてあげたの。」

明日香は悪びれもせずに話す。

「やめろ!詩織をすぐに放してやるんだ!彼女はそんなお前が思っているような悪い女なんかじゃない。それに俺は、俺はお姉ちゃんじゃない。俺は、清彦だ。お前に変な魔法をかけられるまでは、俺はお兄ちゃんだったはずだ!」

そう言うと、明日香は表情を曇らせた。

「そう・・・なんだ。やっぱり、やっぱり全部思い出しちゃったんだね?この女のせいで。お姉ちゃんは、お兄ちゃんに戻っちゃったんだね。」

「なんで?どうしてこんなことするんだ?お前は分かってないんだ。詩織は、とてもまっすぐで、とても優しくて、すごくいい女の子なんだぞ?俺に悪いことなんかしない。お前だってしっかり接してみればすぐにそれが分かるはずだ。なのになんで・・」



「何にも分かってないのはお兄ちゃんのほうだっっっっっ!!!!!!!!!!」

明日香は、今まで俺に見せたことのないような、般若のような形相で吼えた。そして、肩を震わせながらしゃべり始めた。


「お兄ちゃんを一番大好きなのはあたしなんだよ?だって、世界中のどんな女より一番長くお兄ちゃんと一緒にいるんだもん。お兄ちゃんのいいところも、もちろん悪いところも一番よく分かってる。私が一番お兄ちゃんを深く理解してるの。小さい頃私が近所の子供たちにいじめられていたときに助けに来てくれたりする優しくて勇敢なところとか、本を読みっぱなしで寝ちゃったりするちょっとだらしないところとか。全部!全部知ってるの!!だからお兄ちゃんを一番深く愛してあげられるのは私なんだよ!なのに、なのに・・・」


そこで明日香は憎憎しげに詩織をにらみつけた。


「この女が現れた。確かにお兄ちゃんは高校に入って、勉強もできて背もぐんぐん伸びて、どんどんかっこよくなって言った。そんなかっこよくなってくお兄ちゃんを見て、渡しすごく嬉しかったよ。だけど、同時に不安も大きくなった。こんないい男なら、絶対女の子は放って置かないだろう。彼女が出来たらどうしようって。そうしたらやっぱり不安は適中した。ある日突然お兄ちゃんはこの女を家に連れてきた。あ、妹さん?かわいいねー。だなんて言ってさ。ふざけんじゃないわよ!そのあと二人で部屋でキスしてたでしょ?あたし、全部観てたんだから!」


そこまでいうと、明日香は再び俺に向き直った。

「それでね。私、考えたんだ。どうやったらお兄ちゃんをずーっと永遠に私のものにして置けるか。私、考えたよ。いっぱい考えた。それで、思いついたの。」

明日香の声が、瞳が、再び冷たく、抑揚のないものに変わった。

「お兄ちゃんを、女の子にしちゃうの。黒魔術で。まえ、偶然黒魔術書をみつけていたの。図書館の本棚の隅の隅の、めったに人が来ないような薄暗い棚で。黒魔術でお兄ちゃんが女の子になっちゃえば、他の女がよってくる心配なんてない。そして、性格もおとなしくて百合っ気たっぷりの性格に矯正してあげれば、お兄ちゃんも私を愛してくれる。私の大好きだったお兄ちゃんとは外見も中身も少し変わっちゃうけど、魂はお兄ちゃんのものだもん。相思相愛だよね?理想的な関係。うふふ・・・」


「そんなの、間違ってる!!」

それまで黙って話を聞いていた詩織が、声を上げた。

「そんなの間違ってるよ。明日香ちゃん。いくらお兄さんが大好きだからって言って、そんなお兄さんを無理やり変えてしまうなんて、そんなこと・・」


「うるせぇよ!!!!この泥棒女があァ!!!!!!」

明日香の眼には怒りの灼熱の焔が燃え盛っていた。


「もともとお前なんかがお兄ちゃんをたぶらかさなかったらこんなことにはならなかったんだァ!全部お前の責任なんだよ!少しは理解しやがれこのォ!」

明日香は詩織の顔を蹴り飛ばす。


「明日香!やめろ!もうやめるんだ!」


明日香はこちらを振り向くと、再びニコッとした笑顔になって言った。

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。この女を処刑したら、すぐお兄ちゃんもお姉ちゃんにもどしてあげるからね。私、あれからずっと黒魔術を練習してるから、前の魔術みたいにこんな女の言葉で簡単にとけやしない。これからもずっと、お兄ちゃんは私と幸せに暮らすのよ。」


そういうと、明日香は詩織の周りの床に魔法陣を書き始める。

「な、何をするつもりなの?」

詩織が尋ねると、明日香は、楽しそうに答える。

「処刑するって言ったでしょう?本当は八つ裂きにでもして海にまいてやりたいくらいだけど、人殺しはさすがにまずいもんね。私も気分が良くないし。だから、あなたのその今の人格を破壊してあげるの。」

「人・・・・格?」

「そう、罪深いあなたにふさわしい人格へと生まれ変わらせてあげるのよ。もちろんお兄ちゃんの記憶は完全に消去して・・・ね☆」

魔法陣を書き終えると、明日香は詩織の正面に立つ。

「私は慈悲深いから、2択で選ばせてあげるわ。引っ込み思案で、地味で、おとなしくて、おくてで、本だけが友達で、恋愛なんてとても出来ない図書室文学少女か。品性なんてかけらもなくて、常に遊びのことばかり考えていて、チャラくて、ケバくて、頭の悪いヤリマンなコギャルか。好きなほうを選びなさい?10秒以内。うふふ。選べないなら・・・コイントスでもして決めようかしら?うふふ。私ったら、常盤台のレールガンさんみたいね」


「そ、そんなの選べるわけ」

「はい10、9、8」

「やめろ明日香、馬鹿なことはよせ!」

「7・・・6・・・5・・・」

明日香は冷静に数え続ける。

「やめて、ねえお願いだから、明日香ちゃん。もう一度話を聞いて!」

「4・・・3・・・2・・・」

「明日香、やめろーーーー!!」

俺は甲高い声で力の限り叫んだが、無常にも

「1・・・0。はい、タイムオーバー☆じゃあ、コインを投げるわよ。えい」

明日香の指から銀色のコインが放たれる。それはいびつな放物線を描いて床に転がった。

「裏・・・か。じゃあコギャルのほうね。文学少女になって挙動不審でびくびくしてるところも見たかった気もするけど、まあいいや。それじゃいくよ。バイバイ、詩織オネエチャン☆」

明日香が呪文を唱えると同時に、詩織の回りに黒い靄がかかりはじめる。

「やめて!なにこれ。なんか、とても気持ち悪い。いや、やめて。私の心を歪ませないで。いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー。」

詩織の体が黒い靄で見えなくなると同時に、詩織の声も途切れた。


「あ・・・ああ・・・」

俺は何も出来ずにただ驚愕しながら見ているしかない。


しばらくすると、すーっと、靄は引いていき、変わり果てた詩織が現れた。髪はケバケバしいほどの金髪で、肌は浅黒く、顔には濃いメイクが施されている。制服も着崩されており、超ミニのスカートとはだけた胸元が眼を引く。詩織はときおりいびきをたてながら眠っていた。

「詩織さん。起きてください、起きてください。」

「う・・・・ん?」

詩織は眠そうに目をこすりながら眼を開ける。そのいかにもめんどくさそうなその表情を見たとき、ああ、詩織は変えられてしまったんだと直感的に感じた。

詩織は明日香を見ると、第一声をあげた。

「誰あんた?てかなんであたしこんなとこで寝てんの?うっわ、なにこの部屋。ろうそくが気持ち悪う。あんた、あたしになんかする気なの?」

金髪をかきむしりながら詩織は立ち上がる。過剰にふられた香水の匂いが、こちら側にまで漂ってきた。

「いえ。町で調子悪そうにしてたあなたを見かけたもので。こちらでしばらく休んでもらってたんですよ。」

先ほどとはうって変わって、至極丁寧な対応をする明日香だが、眼は勝ち誇った微笑を浮かべていた。

「はあ?まじあたしそんなこと頼んでねーし。よけいなことすんじゃねーよ、中坊が。うわ、もうこんな時間!?見たいテレビがあんだよ。まったくどうしてくれんだよ。」

「よけいなことしてすいませんでした。ほら、出口はそこにありますから、ご自由にお帰りください。」

「ちっ。ったくよー。こんなとこで時間つぶしちまうなんて・・・」

ぶつぶついいながら詩織はドアへと向かっていく。


「し、詩織!!」

俺はたまらず声を上げるが、こちらを向いた詩織の返答は、

「は?誰あんた。あんたみたいな女、あたしは知らないよ。てかなにそれ。何で縛られてんの?なんかのプレイ?まじウケるんだけどー。あはははははは」

そういいながらドアを開けて出て行ってしまった。


「くそっ。詩織が。詩織が。」

絶望する俺の前に、明日香が立つ。


「さあ、これでお兄ちゃんを救いにくるような女はいなくなったね。あの堕落っぷりったら。あーーー、スッキリした。」

「お前。お前!!」

俺は明日香を思いっきり睨みつけるが、

「あーあーお兄ちゃん。可愛い顔が台無しだよ?もっと笑顔にならなくちゃ。それに女の子なんだからそんな汚い言葉遣いしちゃだめ。じゃないとあの女みたいなダメ女になっちゃうぞ☆」

「お前が、詩織を!!」

「ね。お兄ちゃんもそろそろお姉ちゃんにもどろ?もうお夕飯の時間だもんね。あたしお腹すいちゃった。」

明日香は呪文を唱え始める。

「やめろ、やめろ。やめろおおおおお!!!」

俺は最後の叫びを上げるが、黒い靄は容赦なく俺の体を包み込んでいき・・・・


そして、なにもわからなくなった・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・



「あ・・・・れ?」

私は、ゆっくりと目を開けた。ここは、私たち姉妹の住んでいるマンションの、私の部屋。そして寝ているのは私のベッド。

「お姉ちゃん。眼が覚めた?」

目の前には明日香が立っている。

「ごめんなさい。私、寝ちゃってた・・・の?」

「うん。お姉ちゃん。今日は体育があって疲れたって言って、帰ってきてすぐ寝ちゃったんだよ。」

そう・・か。そう言われてみればそんな気もしてくる。でも、うーん。

「どうしたの?お姉ちゃん」

「うん。なんだか変な夢を見ていた気がするの。内容はよく思い出せないんだけどね。」

「そうなんだ。お姉ちゃん、うなされてたもん」

「そう?やっぱりそうだった?今日やったマラソンがすごくきつかったからかなー。」

「あはは。お姉ちゃん、運動は大の苦手だもんね。それよりお姉ちゃん。お腹すいたよー。早くなんか作って食べよ?」

そういわれて時計を見る。

「あ。もうこんな時間。そうね。お夕飯つくりましょ。今日は明日香も手伝うんだぞー☆」

そういって私は明日香を抱き寄せてキスをする。

「ひゃん。もう、お姉ちゃんたら、不意打ちは禁止ー。」

そういいながらも明日香は頬を赤らめる。もう、なんて可愛いんだろう。

私はエプロンをしにキッチンへ向かう。



その後姿を見ながら、明日香はあの冷たい微笑を浮かべていた。



「うふふ・・・これですべては元通り。私の望んだとおり。これでお兄ちゃんはもうずっと、私のもの。ふふ。うふふふふふ。あっははははははははははは!!」


その笑い声が清香に戻ってしまった清彦の耳に届くことはなかった・・・・・



~END~

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