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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー05 機械人形の国のアリス
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Scene:01 開拓惑星ピクル(3)

 食堂を出た四人は、相変あいかわらず多くの種族が行き交う通りのん中で立ち止まった。

「しかし、意外に美味うまかったな」

 ハシムの言葉に、みんながうなづいた。

「そうですね。一口目は勇気がいりましたけど、食べてみると、あぶらの乗った極上ごくじょう牛のような味でしたね」

「でも、あの姿はちょっとだにゃあ。今度からは切り身で出してほしいにゃあ」

「はははは、確かにな」

 他の三人の二倍の量を食べたカーラも満足げだった。

「アルヴァック号の補給はもう終わっている頃か?」

「たぶん。ハシム殿はこれから取引ですね」

「ああ、ちょうど良い時間だ。正直、引き渡しの時間まで、どこでひまをつぶそうかと思って通りをぶらついていたんだが、シャミルに会って、時間が経つのが早すぎるくらいだったぜ」

「それは良かったです」

「シャミル達はアルヴァック号にまだ帰らないのか?」

「明日の出発にしてますので、もうちょっとこの惑星を見て回ります」

「そうか。それじゃあ、今晩も一緒にどうだ?」

「惑星探査に向かう前の夕食は、アルヴァック号のスタッフ全員でることにしていますので……」

「そうなのか? 結束けっそくを確認し合うってことか?」

「はい」

「そりゃあ、邪魔できないな。それじゃあ、俺はここで。また会おうぜ、シャミル」

「はい。どうもご馳走ちそう様でした」

 ハシムはシャミルに手を振ると、シャミル達に背を向けて、宇宙港の方向に歩き出した。

「さあて、お陰で腹も張ったし、これからどうする、船長?」

「そうですね。エアカーでもレンタルして、郊外にでも出掛けてみましょうか?」

 歩み去って行くハシムの後ろ姿を何となく見つめながら話していたシャミル達は、同じ通りをシャミル達の方に近づいて来ている三人の女性達に気がついた。

 ちょうど、その三人の女性達とすれ違う直前、ハシムは、その三人のん中にいた、見るからにスタイルの良い女性に見とれるようにして、立ち止まった。

 一方、その女性も一旦いったん立ち止まって、ハシムを見つめたが、すぐに前を向いて歩き出した。ハシムは、ちょっと考え込むような様子だったが、すぐに前を向いて歩き出した。

「ったく、ハシムの野郎! 船長への愛を語っておきながら、他の女に見とれやがって!」

 カーラが悪態あくたいいている間にも、その三人の女性達はシャミル達の方に近づいて来た。

 そのん中にいる女性が誰かが分かったシャミル達は、ぐにその女性を見つめるように向き直り、カーラは太刀たちつかに手を掛けた。

「久しぶりだね。シャミルさん」

 メルザだった。その左右に立っている女性には見覚えはなかった。

「こんにちは。お久しぶりです」

 シャミルも警戒をしながらも、ちゃんと挨拶をした。

「こんな辺境の惑星に海賊が何の用だい?」

 カーラが不機嫌な声で訊いた。

「辺境の惑星空域こそが海賊のまりだよ」

 ハシムが言ったように、辺境空域は、連邦宇宙軍の警備網もそれほど整備されておらず、一方で、開拓のための資材や様々(さまざま)な商品がどんどんと輸送されて来るのであるから、海賊達にとって、実入みいりの良い場所と言うことは確かであろう。

「ふんっ! また罪もない商人達を襲ってきやがったのかい?」

「私は海賊だからね。それを生業なりわいにしているんだよ」

「そんなことは分かってるよ!」

「大きな声だねえ。耳が痛いよ」

 メルザは苦笑しながら耳をほじくる仕草をした。

「大きな声は生まれつきだ! それより、なぜ、ここにいるんだよ?」

「シャミルさんに会いに来たのさ」

 カーラがすかさず太刀たちを抜いて構えた。それを見て、メルザの左右の女性達もすかさず身に付けた武器に手をやった。しかし、メルザはあくまでも冷静であった。

「待ちな!」

 大きな声ではなかったが、気迫きはくがこもったメルザの言葉は、連れの女性達だけではなく、カーラの動きも停止させた。

 いつもの冷たい微笑みを浮かべながら、メルザは、一歩、シャミルに歩み寄った。

「ここの宇宙港に停泊すると、商船の中に混じって、アルヴァック号が停泊していることに気づいてね。シャミルさんがいるかなと思って街をぶらついていたら、こうやって、運命的な再会を果たしたってことさ」

「ふんっ! 何が運命的だ!」

 メルザに突き付けた太刀たちを持つカーラの右手を優しく降ろさせながら、シャミルも一歩、メルザに歩み寄った。

「メルザさん。堂々と宇宙港に停泊するなんて、さすがですね」

「ふふふふ。船籍せんせき情報なんていくらでも偽造できるよ。今、ここの宇宙港に泊まっている私の船は、民間護衛船『ナグルファル号』って言うんだよ」

「まさか、海賊から商船を守ってくれるはずの護衛船が海賊船そのものとは誰も思わないでしょうね」

「ふふふふ。どうだい、シャミルさん。立ち話も何だ。そこらの酒場にでも入って、ゆっくり話をしないかい?」

「私の方は特にお話したいことはありませんが」

「つれないことを言わないでおくれよ。それじゃあ、こう考えたらどうだい? 私がシャミルさんと話している間、私に襲われる罪もない商船がそれだけ少なくなるとね。私と話をすることは、人助けになるんだよ」

 シャミルは、一瞬、今すれ違ったハシムのことを言っているのかとかんぐったが、メルザはハシムのことをまだ知らないはずと思い直した。

「脅迫ですか?」

「事実さ」

「……分かりました。少しであれば」

「船長!」

 カーラがシャミルを見たが、シャミルはきびしい顔つきでうなづいた。

「うれしいねえ。また、シャミルさんの顔を見ながら酒が飲めるなんて」

 メルザは本当にうれしそうだった。

「こっちに酒場があったね。ついといで」

 そう言うと、メルザは振り返って、二人の女性を従えて、背中を向けて歩き出した。

「船長、行くのかい?」

「ええ」

 シャミル達は無言でメルザの後をついて行った。


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