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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー05 機械人形の国のアリス
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Scene:01 開拓惑星ピクル(1)

 恒星オルタナが雲一つ無い青空に輝く惑星ピクルの午前。

 シャミルと二人の副官は、その惑星ピクルの「できかけ」の繁華街を歩いていた。

 惑星ピクルは、まだ連邦構成国家として発足する前の建国準備委員会が執政を担当している、最近、開拓が始まったばかりの惑星であり、シャミル達が歩いている通りも繁華街とは言え、あちこちで木造の低層建物が建築されている状態で、また、移住者や建築業者と思われる雑多な種族が往来を行き来しており、雑然とした雰囲気をただよわせていた。

 シャミルが今回、惑星探査の依頼を受けた惑星ハーナルは、その先には未探査空域が広がる辺境の空域に位置していることから、アルヴァック号は、最終的な補給と点検をするため、その手前の空域にある、ここ惑星ピクルに停泊していたのだ。

 補給や点検は航海スタッフ達に任せて、シャミルと二人の副官は、探検家としての好奇心にられて、いずれは惑星ピクルの首都となるはずの地区である繁華街にくり出していた。

「私達がいくつか探査をしてきた居住可能惑星も、数年後にはこんなに活気溢れる街ができるんだと思うと、ちょっと感慨深いですね」

 カーラとサーニャに挟まれて歩いていたシャミルが、二人を見渡しながらつぶやいた。

「へへへ。船長、これからだぜ。居住可能惑星のほとんどは、シャミル・パレ・クルスのチームが発見したなんて言われるようになるからよ」

「これまで良いペースで探査ができているからにゃあ」

「そうですね。でも、……今回の探査は、ちょっと時間が掛かるかもしれませんね」

「ああ、いつもの勢いで船長が依頼を受けちゃったからな」

「依頼を見つけた時の船長は嬉しそうだったものにゃあ」

「そ、そうですか? ……何か最近、二人には私の考えていることが筒抜けのような気がしますけど」

「それだけ付き合いが長くなったってことじゃないのかい?」

「ああ、ふふふ。そうかもですね」

 まだ車道と歩道の区別もできていない通りには、建築用資材を満載したエア・トラックが行き交い、また、建物の骨組みを建てている区画の隣には、内装工事をしている洋装品店らしき建物もあった。

「この建築ラッシュで、多くの職人や大工が来ているな」

「ええ、開拓が続く限り、連邦の経済は発展し続けるでしょうね」

「でも、前から思っていたけど、いちいち人がしなくても機械に建てさせたら速いと思うけどにゃあ」

「ああ、そうだな。アタイも、常々(つねづね)、そう思っていたんだ。建築業者の組合がロボット導入に反対でもしているのかね?」

「あれっ、二人とも『アンチ・ロボット・ルネサンス』のことを知らないんですか?」

「何だい、そりゃ?」

「新しいお菓子の名前かにゃあ?」

「……本当に知らないのですかぁ?」

 シャミルは、ジト目でカーラとサーニャを見つめた。

「ど、どっかで聞いた記憶が有るような無いような……」

「そ、そうだにゃあ。かすかに……」

「探検家として、と言うより一般常識ですよ」

 シャミルの言葉遣いは優しかったが、大好きなシャミルからしかられたような気がしたのか、カーラとサーニャはしょんぼりとしてしまった。

「かいつまんで言うとですね……」


 その昔、銀河連邦でも、市民達の生活全般において徹底したオートメーション化、ロボット化がし進められた。社会のあらゆる作業がロボットにより行われる社会が実現された。

 しかし、ある事件をきっかけにして、行き過ぎたロボット社会の危険性が明らかとなり、危険な作業や不衛生な作業以外はヒューマノイドがやるべきであるという運動が巻き起こり、当時、悪化していた雇用情勢の改善要請ともあいまって、その運動は連邦中に広がっていった。

 そして、連邦では、現在でもその思想が息づいており、自律的思考回路を有するロボットは製造や所持が禁止されていた。

 そして、この「アンチ・ロボット・ルネサンス」と呼ばれる思想が生まれる元となった事件というのが、サリド事件と呼ばれる出来事である。

 銀河暦百五十六年、ロボット工学の専門家だったアルフレッド・サリド博士が早世そうせいした娘の脳を取り出し、子供型ロボットに移植をしてサイボーグ化を図った。

 当時の法律は、自律的思考回路を持ったロボットの製造はまだ禁止されていなかったが、ヒューマノイドのサイボーグ化は既に禁止されており、サリド博士の行為は法律違反であった。そのため、博士は人目を避けるため、開拓惑星リリスの孤島に移住して、サイボーグ化した娘と暮らしていたが、娘の遊び友達を造ろうと、自律思考回路を持った子供型ロボットを立て続けに造った。しかし、これらの自律的思考回路を持ったロボット達は、勝手に博士の名義でロボット製造のための材料を買い付けた上、島に運輸させ、自分達で製造機器を操作して、次々に新しいロボットを誕生させていった。博士が死んだ後も、その行為は続き、島はロボット達の王国となった。博士の娘はロボット達の女帝となり、ロボット達を従えて、手狭てぜまになった島を飛び出し、惑星リリスの他の地域に侵攻し始めた。ヒューマノイドとロボットとの最初で最後の戦争であった。

 このロボット達の攻撃により、惑星リリスの住民一万人以上が死亡する大惨事となり、銀河連邦惑星軍が出動してやっと鎮圧された。

 惑星軍の攻撃により、ロボット王国の島はまるごと爆破されたが、ロボット達の首領である博士の娘の残骸ざんがいは発見できなかった。しかし、島から脱出したことは確認されなかったことから、島とともに端微塵ぱみじんに破壊されたものとして、事件は終結とされた。

 この事件を受けて、自律的思考回路を持つロボットの製造・所持を禁止する法律が制定され、過度かどのオートメーション化も抑制よくせいされた。

 その結果、今までロボットがしていた仕事も再びヒューマノイドがしなければならなくなり、その反面、雇用情勢が改善され、その後も惑星開拓による市場拡大が続く連邦経済にとって、好ましい循環が生じているのである。


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