Scene:14 惑星軍情報部
スヴァルトヘイムにある惑星軍情報部。
その中の一室に二人の男がいた。
大きな執務机に座った男の前に置かれた簡単な応接セットのソファに、その男と向き合うように座っているレンドル大佐が口を開いた。
「まあ、結果オーライということでお許しください」
「まったく運の良い奴だ。今頃、身元の分からない死体となって、アルムフレイム湾に浮かんでいたかも知れんところだったのにな」
レンドル大佐の口調は、真に謝罪を乞うているというよりも、冗談でも言っているようであり、男も真に責めているようではなかった。
「しかし、私は本当に運の良い男のようですよ」
「ほう、どんな良いことがあったのだ?」
「今回の任務で『リンドブルムアイズ』に関する情報を得ることができたのです」
「何! それは本当か?」
「はい。宇宙軍少佐のキャミル・パレ・クルス。彼女がジョセフの娘であることが分かりました」
「ファミリーネームが同じだったから、もしやと思っていたが……。しかし、軍籍データベースには、父親の情報は入ってなかったぞ」
「はい。どうやら申告をしていなかったようですな」
「ならば、なぜ分かった?」
「今回、キャミル少佐には、シャミル・パレ・クルスという姉妹がいることが分かり、そして、そのシャミルの父親がジョセフであることが、シャミルの生まれ故郷であるテラ周辺の聞き込みで分かったのです。二人は異母姉妹と言っていましてな」
「と言うことは、同じ父親の娘だと?」
「そう言うことになります」
レンドル大佐は立ち上がると、その男が座っている執務机の近くに立った。
「二人には、色々と共通点があることも分かりました」
「共通点?」
「はい。シャミルは惑星探検家をしていますが、飛び級で連邦アカデミーに入学し、連邦アカデミーも飛び級かつ首席で卒業している天才です」
「キャミル少佐と同じような……」
「はい。この姉妹の並外れた知能や能力は、リンドブルムアイズに関係しているのではないかとも考えられます」
「その二人は既にリンドブルムアイズを手に入れているというのか?」
「そういう訳ではないようです。しかし、何らかの関係があるのではと考えています」
男は机に両肘を付き、顔の前で手を組んだ。
「しかし、よく分かったな?」
「私の部下が、アスガルドでアシッド・ミルドを捕らえようとしていた時に、シャミルに邪魔されたのです。それで、そのシャミルについて調査をしたところ、予想外の収穫があったのですよ」
レンドル大佐は、執務机の側から離れて、部屋の中を歩き回りながら話した。
「シャミルにも、すぐに同じステージに上がってもらえるようにと、シャミルが出したアルダウ帝国行きの許可申請について、裏から手を回して、すぐに出させました。その甲斐もあって、シャミルはアルダウ帝国に来て、キャミル少佐と同じステージに立ってくれましたよ」
「二人が揃った時には、何か変わったことは起きなかったか?」
「残念ながら何も。しかし、あの二人が宮殿で戦っているところを見ましたが、二人が持っている剣とナイフは不思議な青い光を放っておりましたな。あの剣とナイフにも何か意味があるのかもしれませんな」
「その宮殿の刺客達もお前か?」
「いえいえ、あれはカリアルディ公爵が集めた兵士達ですよ。まあ、私も、宮殿の警備を少し薄くする手助けはしましたがね」
執務机に座った男は背筋を伸ばして、椅子に深く座り直した。
「レンドル大佐」
「はっ」
レンドル大佐もその場で立ち止まり、ラフな敬礼を返した。
「そなたに新たな任務を命じる。キャミル少佐とシャミルの二人の周りを徹底的に洗え!」
「お任せください。リンドブルムアイズの手掛かりを必ず手に入れて見せましょう」
「うむ」
男は右手を上向きに広げて呟いた。
「リンドブルムアイズ。……必ず、この手に」




