Scene:12 剣戟の晩餐(2)
シャミルを先頭に、サーニャが続き、セルマを挟んで、最後にカーラが四方を見渡しながらしんがりを務めて、廊下を音のする方に歩いて行った。音は一階から聞こえていた。
二階の回廊から一階の大広間を見てみると、宮殿の近衛兵達と、不揃いの服装の兵士達が剣を振るって戦っていた。
長く平和な時代が続いたからか、近衛兵達は侵入して来ていた賊達に押されていたが、キャミル一人の活躍でなんとか互角の状態であった。
「キャミルがいても、すぐに決着が付かないということは、あの賊達もかなりの訓練を積んでいる精鋭のようですね。どうですか、カーラ?」
シャミル達は、二階の回廊の手すりの陰に身を潜めて、下の大広間を見下ろしていた。
「ああ、間違いないね。かなりの剣の使い手を集めてきているな」
「あの者達は? まさか反体制派の連中が?」
セルマの疑問をシャミルが打ち消した。
「そんなはずはありません。アシッドさんが率いている反体制派が奇襲を掛けるようなことをする訳がありません。もし、反体制派の強硬派が暴発した可能性を考えても、アルダウ空域の制圧もできていない反体制派が、これほどの兵士達をどうやって送り込むことができるでしょう」
「すると、こやつらは?」
シャミルは、セルマの問いには答えず、コト・クレールを抜いて、カーラの方を向いた。
「私もキャミルの助太刀に行きます。カーラは、その命に替えて、セルマ殿下を守ってください」
「えっ、しかし」
「これは命令です!」
「……りょ、了解した!」
カーラの返事を聞くと、シャミルは、二階の回廊の手すりを乗り越えて、一階の大広間に飛び降りた。そして、着地するとすぐにコト・クレールを投げ、賊の持つ剣を弾き飛ばした。
「シャミル!」
キャミルがすぐにシャミルの側に駆け寄って来た。
「ここは危ない! 避難していろ!」
「最近は、コト・クレールの扱いにもずいぶん慣れてきたんですよ。その練習の成果をキャミルにも見てもらおうかと思って」
緊迫した場面なのに、脳天気とも取れるシャミルの台詞に、キャミルも苦笑するしかなかった。
「それでは、私の側にいて、存分に成果を見せてくれ」
「はい!」
近衛兵達は逃亡してしまったのか、既にほとんど残っておらず、キャミルがエペ・クレールを振り回して賊を切り、シャミルがコト・クレールを投げて、キャミルを援護していた。
シャミルは、賊の一団が階段を登って行っているのを見つけた。
「キャミル! 二階に賊が!」
「何!」
すぐにキャミルとシャミルも襲い掛かって来る賊をなで切りながら、賊を追って、二階への階段を登った。
二階の回廊では、カーラが賊の前に立ち塞がり、サーニャの後ろに隠れているセルマを守っていた。
カーラの振り回す百キロを超える太刀の一撃を食らうと、セルマに迫っていた賊達も回廊の手すりを飛び越して、一階の大広間まで落とされていた。
しかし、カーラ達が前から来ていた敵に気を取られている隙に、後ろから一人の刺客がセルマに迫っていた。どうやら、反対側の階段から二階に登って来たようだ。
足音を出さないように、回廊の壁際に背を向けて座り込んでいるセルマの背後から近づいていた賊が、剣を水平に構えて、そのままセルマに突進したその時!
その賊に、後ろからタックルをかましてから、その賊がよろけた隙に、セルマの前に立ち塞がった人物がいた。
「アシッド!」
振り向いたセルマが叫ぶ。
賊は、すぐに体勢を立て直して、セルマの前に立ち塞がるアシッドに剣を突き付けた。
アシッドは逃げもせず、両手で賊の剣を持った手を握って防ごうとしたが、賊の剣は浅くではあるが、アシッドの腹に突き刺さっていた。
「アシッド!」
思わずアシッドの背後から駆け付けたセルマに向けて、アシッドは後ずさりするようによろけて、尻餅をつくように崩れた。
反対側の廊下から駆け付けたシャミルがコト・クレールを投げて、刺客が右手に持った剣を弾き落とすと、キャミルが突進して、その賊を切り捨てた。
「アシッド!」
仰向けに倒れたアシッドを抱きかかえるようにしてセルマが叫んだ。
すぐにキャミルとシャミルも駆け寄る。
「アシッドさん! 気を確かに!」
「大丈夫だ! 傷は浅いぞ!」
「アシッド! アシッド! そなたはわらわの側にいるのじゃ! ずっといるのじゃ!」
剣戟の響きが収まった宮殿に、セルマの悲痛な叫びが響いた。




