Scene:12 剣戟の晩餐(1)
セルマは、キャミルに守られて、密かに宮殿に戻った。
キャミルとシャミルは、皇女として最後の晩餐に招待された。
「殿下。今日は、アシッド殿と思う存分お話ができましたか?」
相変わらず、変な遠慮ということに無縁なシャミルだった。
「うむ。これも二人のお陰じゃ。礼を申す」
「それで、殿下の結論は出されたのでしょうか?」
「わらわの中では結論は出た。もっとも、アシッドには話しておらぬがな」
「えっ、どうしてでございます? 殿下が決断されたことは、当然、アシッドさんにも関係することでございましょう?」
「それは、そうじゃが」
「今、これからアシッドさんをお呼びくださって、ちゃんとお伝えくださりませ」
「シャミル、殿下にも殿下の考えがあってのことだ。私達がとやかく言うことではないぞ」
「……いや、シャミル殿の言うとおりじゃ。正直に言って、わらわ自身、迷いがあったのじゃ。しかし、今、じっくり考えてみると、不意打ちのようにアシッドに告げることになってしまうの。アシッドに今日のうちに伝えようぞ」
「善は急げと申します。すぐにご使者を出されませ」
「そうじゃな」
「私の副官をやらせましょう。口の堅い者ですので、ご安心ください」
キャミルは、セルマの許可を得てから、マサムネとビクトーレに、アシッドを迎えに行かせた。
その用件がすむと、セルマはグラスを掲げた。
「アシッドには悪いが、せっかくのご馳走が冷めてしまう。いただこうではないか。二人とも」
シャミルとキャミルもグラスを掲げた。
「明日には、この国の未来が決まるかもしれませんね」
「でも、殿下とアシッドさんの間で合意されたとしても、すんなりと行くだろうか?」
「皇帝派の重鎮達は黙っていないかもしれないですね」
シャミルの言葉にセルマは思い出したかのように言った。
「そう言えば、昨日、叔父のカリアルディ公爵から摂政の話があっての」
「摂政ですか?」
「そうじゃ。わらわはまだ政務を執れないだろうと、即位とともにカリアルディ公爵に全権を委任せよと言うのじゃ」
「……」
「しかし、断った。わらわがこの国を変えようという意志があったからの。それに、そもそも、わらわは公爵を信頼しておらぬ」
「公爵閣下は何と?」
「かなり不機嫌になっておったが、わらわも心の中でアカンベーをしてやったわ」
キャミルは、その話を聞いて不安を感じた。そしてすぐにその不安はすぐに現実のものとなった。
奥の院の裏庭で突然、爆発がした。
キャミルとシャミルはすぐに立ち上がり、庭に面した窓の側に寄ろうとしたが、すぐにキャミルがシャミルの手を引いて、窓から遠ざけた。
「あぶない! シャミル!」
「えっ?」
右手でシャミルの手を引いてテーブルの所まで戻って来たキャミルは、左手でセルマの手を引いて、部屋から出て行こうとした。
「この部屋は危ない。早く!」
キャミルのその言葉が終わらないうちに、何かが飛んで来る音がしたと思えば、窓が爆発をした。
「伏せろ!」
その場でしゃがんだセルマとシャミルを庇うように、咄嗟に窓に背中を向けたキャミルにガラスの破片が襲いかかった。
「キャミル! 大丈夫?」
シャミルがキャミルを見てみると、右頬に小さな切り傷がある他に、体中にガラスの小さな破片が突き刺さっているようだった。
「心配いらない。それより早く、この部屋から出るんだ!」
そうしているうちに、爆発音を聞いて、控えの間から、カーラとサーニャがセルマの部屋に飛び込んで来た。
「船長!」
無事なシャミルを見て、安堵したかのように大きく息を吐いたカーラとサーニャがすぐに近くに寄って来た。
「私は大丈夫です。それよりキャミルが」
「私のことも心配いらない。それよりカーラ! 陛下とシャミルの側にいてくれ!」
「もちろんだ! キャミルはどうするんだ?」
キャミルがその質問に答える前に、廊下の方から、どよめきと剣戟の響きが聞こえてきた。
「カーラ! 二人を頼むぞ!」
そう言うと、キャミルは、廊下を音のする方に向かって走って行った。
「シャミル殿! キャミル少佐を一人で行かせるでない!」
セルマが心配そうな顔をしてシャミルに訴えた。
「はい! 我々も行きましょう!」




