Scene:11 幼き日の絆(2)
ウィンクをしてシャミルが出て行くと、会議室のドアは静かに閉まった。
「本当に変わったお人じゃなあ、シャミル殿は」
「そうでございますな。しかし、異国である我が帝国のことを真剣に考えてくれている方でございます」
「そうじゃな。キャミル少佐もな」
「はい」
その後、しばらく二人の間に沈黙が訪れた。お互いに何から切り出して良いのか、見当をつけかねている様子であった。
先に沈黙を破ったのは、セルマの方だった。
「アシッド。銀河連邦の大学はいかがであった?」
「大学というか、銀河連邦という国の形には感動いたしました」
「感動?」
「はい。本当に私は感動したのです。身分制度など無く、誰もがどんな職業にもなれる、誰とでも結婚できる、自由と平等が保証されていることに、私は感動をして、学友にそのことを言ったのですが、連邦市民である学友からは笑われてしまいました」
「笑われた?」
「連邦市民にとっては、何ら不思議なことではない当然のことなのです」
「アシッド。なぜ、我が国は、その民主主義とやらにならなかったのじゃろうな?」
「……おそらく、これまでの皇帝陛下が善政を敷かれていたからではないかと存じます」
「では、なぜ、今、民主化運動が盛り上がっておるのじゃ?」
「それも銀河連邦のことを帝国市民が知ったからでしょう。私が感動したことが銀河連邦市民にとっては当然のことだったことと逆で、我々がそれまで当然と思っていた帝国という国の形が、銀河連邦を見て、そうでもなかったと皆が気づいたのでしょう」
「隣の家のようになりたいと言って、家族同士で争いをしてまですることであろうか?」
「皇帝陛下の存在自体はそれほど重要ではありません。無くさなければいけないのは、身分制度です。職業や結婚が身分に縛られるような世の中は自由な国とは言えません」
「身分制度を全廃するのであれば、皇族についても同じであろう?」
「……そうです。殿下は、皇族のままでおられたいのですか?」
「わらわはそのようなことは思っておらぬ!」
「……」
「アシッド」
「はい」
「すまなかった」
セルマは、はにかんだような顔をして、少し頭を下げた。
「はい?」
「学校で、そなたのことを『馬鹿』じゃと言ったことを詫びておる」
「……どうしてでございます? それに今頃なぜ?」
「そなたは『馬鹿』ではなかったと、今になって分かったからじゃ」
セルマは遠くを見るような目をして話を続けた。
「学校でいつも一人じゃったわらわに話し掛けてくれたのも、そなたが馬鹿だったからではなく、……優しかったからじゃの」
「……殿下」
「……わらわは、ずっと一人じゃった。あの広い宮殿の中でずっと一人じゃった。陛下が学校に行くことを許してくれた時は、本当に嬉しかったのじゃが、いざ学校に行ってみると、誰もわらわに話し掛けてくれなかった」
「将来の皇帝陛下には、恐れ多くて、親からも話し掛けてはいけないと言われていたのでしょう」
「でも、そなたはわらわに話し掛けてくれたの」
「馬鹿だったからでしょう」
「何じゃ! 人がせっかく馬鹿ではないと言ってやったのに」
「はははは。そうでしたな」
「ふふふふ」
アシッドも、最近はずっと忘れていた穏やかな顔を自分がしていることに気づいたようだった。そしてセルマも。
「久しぶりに殿下の笑顔を見た気がします」
「そなたの前ではいつも怒っていたからのう」
「そうでしたな。殿下を怒らせることばかり言ったりしたりしておりましたからな」
「まったくじゃ。でも……楽しかったぞ」
「はっ?」
「そなたがいてくれて楽しかったと言っておるのじゃ!」
「……」
「あの頃に戻りたいのう」
「……そうでございますね」
「アシッド。わらわはの、……そなたのことがずっと」
「はい?」
「…………何でもない! アシッドは誰か将来を約束した女性はできたのか?」
「おりません。父からは色々と紹介されたりしていましたが、すべて断っております」
「なぜじゃ?」
「父にも話しておりませんが、私には、心に決めた方がいます」
「……そ、そうなのか」
「はい。その方は、私がいくら想っても、手の届かない所にいる人です」
「……」
「しかし、私は、その人を自分の立っている所まで引きずり降ろそうとしているのです。酷い男です」
「……アシッド」




