Scene:01 運命の出会い(4)
シャミルは、キャミルとは、今日、初めて会ったはずなのに、以前にどこかで会ったような気がしてならなかった。同じ気持ちはキャミルも感じていたようで、シャミルに問い掛けてきた。
「以前に、どこかでお会いしたでしょうか?」
「私もそんな気持ちになりましたが、……おそらく初対面だと思います」
「そうですか。……そうですね。あなたと以前にお会いしていたら、必ず記憶に残っているはずです。しかし、その記憶が無いということは、あなたの言うとおりなのでしょう」
キャミルは、いったん艦橋の中を見渡してから、再び、シャミルに問い掛けてきた。
「ところで、どちらに向かわれていたのですか?」
「惑星探査を終え、これからアスガルドの依頼主に報告に行くところです」
「依頼主とは?」
「ボルディン商会のアントニオ・ボルディン会長です」
「ボルディン商会……。そうですか。ところで、奴らはご存じですか?」
キャミルが指差した艦橋のモニターには、武装した兵士に囲まれながら、海賊船から連行される海賊達の姿が映し出されていた。
「いいえ。まさか、この空域で襲われるとは思いも寄りませんでした」
「小さな船でちょこまかと動き回り、我々の目を盗んでは、小さな商船などを襲うネズミどもですよ」
「首都空域といえども油断してはいけないということですね。肝に銘じておきます」
シャミルは本当に反省をして、キャミルに軽くお辞儀をしたが、キャミルはそのシャミルの仕草が面白かったようで、くすりと笑った。
できるだけ感情を表に出さないようにしていると思われるキャミルだったが、微笑んだ顔は、自分と同じくらいの年齢の女の子としての顔だったことで、シャミルも何だか嬉しくなってきて、キャミルに微笑みを返した。
「あなたは本当に興味深い人だ」
そう言うと、キャミルは穏やかな顔つきのまま、しばらく、シャミルをじっと見つめていた。
「それにしても見事な砲撃だったねえ。まるで、アタイ達の船が見えてなかったみたいにね」
その間の沈黙に我慢ができなかったのか、カーラが皮肉たっぷりに独り言のように呟いた。
しかし、キャミルは皮肉とは取らなかったようだ。連邦艦隊士官の顔つきに戻り、カーラに答えた。
「もちろん確認していた。我がアルスヴィッドの砲撃手は、もっと小さな標的であっても確実に打ち抜くことができる」
「さすが連邦艦隊の精鋭様だ」
カーラの重ねての皮肉も意に介せず、キャミルは、再び、シャミルを穏やかな顔つきで見つめながら言った。
「シャミル殿。後は、担当の者が調書を取らせていただく。お手数をお掛けするが、これも規則ゆえご容赦願いたい」
「分かりました」
キャミルは、少し名残惜しそうにシャミルの顔を見た後、振り返り、艦橋から出て行こうとした。
キャミルの気持ちが伝わってきたのか、シャミルももっとキャミルと話がしたいという気持ちが湧きあがり、思わずキャミルに声を掛けた。
「キャミル殿!」
キャミルは、呼び止められることを予想していたかのように、ごく自然に振り向いた。
「キャミル殿は、アスガルドに駐留されているのですか?」
「第七十七師団は、いわば遊撃艦隊。担当空域を持たず、無法者がたむろしているという噂を耳にすれば、どこにでも出撃します。もっとも、本日はアスガルドに停泊しますが……」
「キャミル殿。私は、あなたともっとゆっくりと話をしたいと思っています。私も今夜はアスガルドに停泊する予定にしています。よろしければ、どこかでお会いできませんか? 今日のお礼かたがた歓談をしたいのですが?」
「今日の礼など不要です。これが職務ゆえ。しかし、私もあなたと話をしたいと思っていた。そうですね……」
キャミルは、束の間考えた後、微笑みながらシャミルに言った。
「アスガルド第一宇宙港の近くに『サラバニ』という酒場があります。そこに連邦標準時午後八時に待ち合わせでいかがですか?」
「分かりました。この二人の副官も同席させていただいてよろしいですか?」
「結構です。私の方もこの副官達を連れて参ります」
キャミルの二人の副官は、それぞれ一歩進み出て、シャミル達に敬礼をしながら自己紹介をした。
「連邦宇宙軍第七十七師団所属戦艦アルスヴィッド副艦長マサムネ・オサダ大尉であります」
テラ族の平均的身長の男性で、やや長めの黒髪に、つり上がった細い黒目をしており、骨董商から「日本刀」と呼ばれている一風変わった刀をベルトに下げていた。
「連邦宇宙軍第七十七師団所属戦艦アルスヴィッド副艦長ビクトーレ大尉であります」
スクルド族の男性で、カーラよりさらに高い身長のスマートな体形で、茶色の髪に褐色の肌。そして、スクルド族独特の三つ目の目が額からシャミル達を見つめていた。
「口が堅く信頼できる副官達です」
キャミルは、マサムネとビクトーレを見ながらシャミルに言った。
一方、カーラとサーニャもキャミル達に自己紹介をすると、シャミルがニコニコと笑いながらキャミルに言った。
「口は悪いですが、心を許し合った副官達です」
「それは素晴らしい。……それでは、アスガルドにて」
キャミルと二人の副官は揃って敬礼をして、艦橋を出て行った。
その後、調査担当の軍人から、ひと通り事情を聴取されてから、シャミル達は解放された。
アルヴァック号は、戦艦アルスヴィッドの搭載甲板から宇宙空間に放出されると、アスガルドに向かって、エンジンを全開にした。