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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー04 帝国の正義を決める者
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Scene:09 身分を越えて(1)

 惑星ソウラには、両陣営の衝突による戦火で家を失った帝国市民達が、難民となって、次々と避難をして来ていた。

 連邦の支援で仮設住宅が建てられていたが、とても間に合うものではなく、テントや粗末そまつなバラックで雨露あめつゆをしのいでいる者もいた。

 仮宮殿となっている総督府そうとくふの建物のまわりにも多くの人々がたむろをしていた。

 窓から外の様子をうかがっていたキャミルのそばに、侍女長じじょちょうが近づいて来て、キャミルに言った。

「キャミル少佐。何やら物騒ぶっそうな雰囲気でございます。あの者どもをこのまわりから遠ざけていただけませんか?」

「それは殿下のお言い付けですか?」

「いいえ。しかし、殿下の身の安全をお守りするのが私やあなたに課された使命でありましょう。危険は除いていた方が良いと考えますが」

「あの者達がここを襲うとお思いか?」

「あの中に反体制派の刺客しきゃくまぎれていないとも限りますまい」

「確かにそうですな。しかし、武器は一切持てないように、治安維持派遣軍がチェックしております」

「しかし……」

 そこにセルマがやって来た。

「キャミル少佐」

「はい」

「あの者どもには食料は行き渡っておるのか?」

「殿下。ご心配には及びません。住居についての支給はとどこおっておりますが、食料については治安維持派遣軍が十分な量を提供しております」

「そうか。……それにしても情けないことじゃ。我が帝国市民であるにもかかわらず、我が帝国自体は何もできず、すべて銀河連邦におんぶに抱っこなのじゃからな」

「殿下のその市民を思うお心、私も感服かんぷくいたしました」

「キャミル少佐。住居が足りないと言っておったが、この建物の一部をあの者達に使ってもらったらいかがじゃろう?」

「なりません、殿下! 仮とはいえ、ここは殿下が鎮座ちんざされておられる宮殿ですぞ!」

 侍女長じじょちょうが反対をしたが、セルマは譲らなかった。

「いくつか部屋が余っておるであろう! キャミル少佐、どうじゃ?」

「警備上の問題がなければ可能でしょう。殿下のお許しがあれば、司令部に掛け合ってみますが?」

「良い! ぜひ、そうしてたもれ」

「分かりました」

 そこに総督府そうとくふの警護をしている惑星軍の兵士がやって来た。

「キャミル少佐にお客様です」

「私に? 誰だ?」

「シャミル・パレ・クルスと名乗られている女性のかたです」

「ああ、着いたか」

「いかがいたしましょうか?」

「会う。私のしょに通してくれ」

「分かりました」

 キャミルは、セルマの方に向いて言った。

「殿下。申し訳ありません。以前にお話しした私の姉妹がやって来たようです。少し席を外させていただきます」

「キャミル少佐の姉妹じゃと! ぜひ、わらわも会いたいものじゃ」

「シャミルがわざわざこんな所まで来るなんて、何か重要な話があるのかもしれません。その話が終われば、殿下にご紹介させていただきます」


 キャミルが、しょとして使用している部屋に行くと、シャミルと二人の副官、そして見慣れぬ青年が立って待っていた。

 シャミルはキャミルの顔を見ると、いつもどおり自然に顔がほころんだ。

「キャミル!」

「シャミル、一応、司令部に働き掛けて許可は取ってもらったが、ここは物見遊山ものみゆさん気分で来るような所じゃないぞ」

「ありがとう、キャミル。確かに最初は物見遊山ものみゆさんが目的だったんですけど、ちゃんとお仕事で来たのです」

「仕事? 惑星探査の?」

「いえ、今回のお仕事は星間タクシーでした」

「はあ?」

「こちらが乗客の方です」

 シャミルは、両掌りょうてのひらを上にして、アシッドに向けた。

「このかたを私達がお運びして来たのです」

「……で、この方は?」

「アシッド・ミルドさんとおっしゃいます」

「アシッド・……ミルド?」

「ふふふ。さすが、キャミル。何か思いつきましたね」

「ミルドと言えば、反体制派リーダーのファミリーネームだ。まさか……」

「ええ、そのミルドさんの息子さんです」

「……どうして、ミルド氏のご子息しそくがここに?」

「その前に、キャミルを紹介させてください」

 そう言うと、シャミルは、アシッドの方を向いた。

「アシッドさん。私の姉妹のキャミルです」

「初めまして。アシッド・ミルドと申します」

「連邦宇宙軍少佐キャミル・パレ・クルスです」

 キャミルはいつもどおり敬礼をしながら自己紹介をした。そして、シャミルに同じ質問を繰り返した。

「シャミル。なぜ、ミルド氏のご子息しそくをシャミルが運んで来て、なぜ、ここにいる?」

「まあ、立ち話できる内容ではないですから座りましょうか?」

「ああ、そうだったな」

 まるで自分の部屋のように、アシッドを簡単な応接セットのソファに座らせたシャミルは、対面たいめんするソファにキャミルと並んで座った。カーラとサーニャは少し離れた会議用のテーブルに座った。

 シャミルは、アスガルドで最初の依頼を受けてからの顛末てんまつ簡潔かんけつにキャミルに話した。

 シャミルの話を最後まで聞いたキャミルは、アシッドに言った。

「司令部にアポは?」

「明日の午前十時に、コンラッド中将という司令官とお会いする約束が取れています」

「そうか。ぜひ、私も同席させてくれ」

「私達の方は、まったく差しつかえがありません」

「キャミル。この内戦をなんとか止めたいというアシッドさんの気持ちに私はすごく感動したんです。皇帝派の方々は、再度の講和交渉のテーブルに着いてくれるでしょうか?」

「それは何とも言えないな。皇帝派のリーダーであるカリアルディ公爵は好戦派のようだからな」

 キャミルは少し声をひそめて話した。

「しかし、皇帝派の中にもアシッドさんと同じ考えの方もいらっしゃる」

 そう言ったキャミルの脳裏には、セルマが浮かんでいた。

「そ、それは誰ですか?」

 キャミルが、アシッドの質問に答えようとした時、しょのドアがノックされると、キャミルの返事も待たずに、侍女じじょが開けたドアからセルマが入って来た。

「キャミル少佐。まだ、お話中か?」

 セルマもしびれを切らしたようだ。

「……!」

 しかし、セルマは、キャミル達の近くに寄って来るなり、固まってしまったように、立ち尽くした。

「……アシッド」

 信じられないという面持おももちでセルマはつぶやいた。

「セルマ……殿下」

 アシッドは、ソファから立ち上がり、数歩進んでから、ひざまづいて臣下しんかの礼を取った。

「セルマ殿下におかれましては」

「こんな所で何をしているのです? あなたは銀河連邦に留学中ではなかったのですか?」

 アシッドの言葉をさえぎるようにセルマが強い調子で言った。

 アシッドは、ひざまづき、下を向いたまま答えた。

「我が祖国がこのような状態になっている時に、おちおち勉学をしておられましょうか」

「それでは、銃を持つために帰国したと?」

「祖国に平和をもたらすためであれば、銃も持ちましょう。しかし、今の私には銃は不要です」

「どういう意味じゃ?」

「……今、殿下にお話すべきことではございません」

「いつまでも、わらわを子供扱いするのじゃな」

「……」

「アシッド・ミルド! なぜ、ここにいるのか知らぬが、反体制派の指導者の息子がこんな所にいると知れたら、お互いに面倒めんどうなことになろう。早々(そうそう)に立ち去られよ!」

「……もう、懐かしい話もできぬのですな」

「…………」

 アシッドの言葉を聞いて、しばらくの間、セルマはうつむいて、握った両手を振るわせていた。キャミルは、セルマが泣いているような気がしたが、セルマが顔を上げた時には、その目には涙は見えなかった。

「キャミル少佐。わらわは自分の部屋で待っておるので、こちらの話が終われば、シャミル殿と一緒に来てたもれ」

 セルマは、少し肩を落として、キャミルのしょから出て行った。

 シャミルとキャミルは、アシッドにどのような声を掛ければ良いのか分からずに、しばらく立ち尽くしていたが、立ち上がったアシッドは、二人に声を掛けた。

「シャミル殿。本当にお世話になりました。色々とご面倒めんどうをお掛けして申し訳ありませんでした。でも、殿下も言われたとおり、私がここにいることは、あらぬ誤解を招いてしまうでしょう。早々(そうそう)に立ち去ることとします」

「宿舎まで、お送りしましょうか?」

「いえ、治安維持派遣軍の方が護衛をしていただけるようですので」

 キャミルもアシッドを見ながら言った。

「私の方からも申し添えておこう」

「ありがとうございます。それでは明日、司令部でお会いいたしましょう」

 アシッドから差し出された右手を握り握手をしたキャミルは、しょの外で護衛をしていた兵士に命じて、アシッドと一緒に行かせた。


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