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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー04 帝国の正義を決める者
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Scene:08 新たな依頼

 その日の夜。

 シャミルと二人の副官は、惑星シアルディの首都都市の郊外にある歓楽街に来ていた。

 既に夕闇が濃紺に空を染めており、安っぽいネオンサインに照らされ、アロマスモークのような良い香りのする淡い紫色の煙が漂う狭い裏路地うらろじには大勢の男達が行き来していた。そして、その男達にかたぱしから声を掛ける派手はでな化粧の女達とか、酔いつぶれて道端みちばたにうずくまっている男とかがいて、退廃的たいはいてきな雰囲気が蔓延まんえんしていた。

 続く内戦で人々の心もすさんできているのかもしれなかった。

 アスガルドのハニー通りに似た歓楽街を歩きながら、昼間、話題になったヒューマノイド共通起源説に、充分、信憑性しんぴょうせいを感じていた三人であった。

「船長には似つかわしくない場所だな」

 カーラは、シャミルのそばから離れずに歩きながら警戒をおこたらなかった。

「飲んだくれのカーラにはお似合いの場所だにゃあ」

 カーラとシャミルを挟むように歩いていたサーニャがお約束のごとく突っ込んだ。

「仕事が終わっていたら、繰り出していたかもな」

 シャミル達は、とある建物の地下に下る階段を降りて行き、突き当たりにあった木製のドアを開けた。

 中は、けたたましく音楽が響くホールで、大勢の男女が踊っていた。

 シャミル達はそのホールの中を通り抜け、その奥にある「関係者以外立入禁止」と書かれたドアの前に仁王立におうだちしていた大男の前まで進んだ。

「折れた剣を買いに来ました」

 シャミルが言うと、大男は無言で脇に寄り、ドアを開けた。

 シャミルと副官達がドアの中に入り、その背後でドアが閉められると、ホールの騒音はまったく聞こえて来なかった。短い廊下の突き当たりに更にドアがあり、シャミルはそのドアをノックした。

「どうぞ」

 その声を確認してから、シャミルと副官達はドアを開けて部屋の中に入った。

 窓もない部屋の中には、八人ほどが席に着くことができるミーティング用テーブルが置かれており、ドアに向かって四人の男達が並んで座っていた。その中には、アシッドもいた。

「こんにちは」

 この空間にも似つかわしくないシャミルであったが、おくすることなく、いつものシャミルであった。

「いらっしゃい、シャミルさん」

 アシッドが立ち上がって、シャミルに近づいて来た。

「私をシアルディまで運んで来てくれた、惑星探検家のシャミルさんと、その副官のみなさんです」

 アシッドがシャミル達を、その部屋にいた男達に紹介すると、シャミル達はそれぞれ簡単に自己紹介をした。

 一方、その部屋にいた男達も順次、自己紹介をした。彼らは反体制派の幹部達で、ここはいわば反体制派の本部と言える所であった。

「アシッドさん。お父上のご容態ようだいは?」

「残念ながら意識が戻りません。明日明後日あすあさってまでの命かもしれませんし、このまま一年くらいは植物人間状態で生き長らえるかもしれません」

 自分の父親のことを話しているにもかかわらず、アシッドの心配の種はそれ以外のことのように冷静だった。

 シャミルと副官をミーティング用テーブルに座らせると、アシッド達も対面たいめんに並んで座った。

「それで、私に再度のご依頼というのはどういうことでしょうか?」

 シャミルが、単刀直入たんとうちょくにゅうたずねた。

「まず、現在のアルダウ帝国の状況をお教えしましょう。シャミルさんならご存じだと思いますが、念のために」

 アシッドは、現在の皇帝派と反体制派の勢力や状況を簡潔かんけつに説明した。

「和平交渉が不成立となり、停戦期間も過ぎて、また、帝国内は内戦状態となっています。帝国市民にも多くの犠牲をいています」

「そのようですね」

「しかし、一般市民に犠牲をいるのは我々の本意ではありません。ここに集っているのは、反体制派の中でも、穏健派と呼ばれるグループの幹部達です。実は……」

 アシッドは、いったん言葉を切って、このまま話して良いものかどうか、躊躇ちゅうちょしているようであったが、踏ん切りを付けるために大きく息をいた後、話を続けた。

「私の父は、強硬派と呼ばれるグループの筆頭で、今まで皇帝派との戦闘を積極的に推進してきました。私は、そんな父親の意向に反対で、いつも異議をとなえていたんですが、受け入れてくれませんでした。それどころかアルダウから遠ざけられてしまったんです」

「どういうことでしょう?」

 アシッドの隣に座った、初老の男がシャミルの問いに答えた。

「マリアルはカリスマ性を持った男でしたが、その息子であるアシッドも、そのカリスマ性を受け継ぎ、将来は反体制派のリーダーになるべく嘱望しょくぼうされていたのです。しかし、その次代のリーダーが自分のし進める方針に反対していると、反体制派自体が分裂してしまうと危惧きぐしたのでしょう。もちろん、父親として、息子を安全な場所に避難させておきたいという気持ちもあったでしょうが」

「だからアスガルドに留学を?」

「はい。私も銀河連邦という国を見てみたいという思いもあり、父親の指示に従って、留学していたのです」

 アシッドは、ぐ、シャミルを見つめながら話を続けた。

「しかし、その父が倒れ、意識不明となってしまったことで、強硬派は、いわば頭を失い、更に好戦的な傾向けいこうを示すかもしれません。そんな時、父を見舞った私の元に、この穏健派と呼ばれる幹部達がやって来たのです」

 アシッドの隣の男が再度、話した。

「先ほどまで、反体制派全体の幹部会を開催して、アシッドを臨時代表代行に選出しました。少なくとも、現在、アシッドは、反体制派を代表する立場にあります」

「まあ、お父上のご容態ようだいすぐれないのに」

「いや、だからこそです。和平交渉が決裂した今、せっかく父がここまで推し進めてきた反体制運動を後退させる訳にはいきません」

 アシッドの表情には並々ならぬ決意が現れていた。そして、隣に座った男が補足した。

「アシッドは、マリアルの息子として、そのカリスマ性を引き継ぐとともに、アシッド自身も、強い意志と揺るぎない信念を持つ指導者としての素質を持っています。我々は、アシッドの元で結束して、反体制運動を引き続き推進することで意見の一致を見たのです」

「すると、強硬派と呼ばれる方々(かたがた)了承りょうしょうを得られていると?」

「少なくとも表向きは、臨時代表代行のアシッドの指示には服してもらえるはずです」

「ご事情は分かりました。それで私に対するご依頼とは?」

「私を、またアルヴァック号に乗せて欲しいのです」

「行き先は?」

「惑星ソウラです。現在、銀河連邦の治安維持派遣軍の司令部はそこに駐留しています。我々としては、再度、和平交渉のテーブルに着く用意があることを伝えたいのです」

「なるほど。穏健派の皆さんとしては、くまで穏便おんびんに事態の解決をはかりたいご意向なのですね」

「それもありますが、我々が一番(つら)いのは、市民達に犠牲をいていることです。少しでも話し合いで解決できる道があるのであれば、その道を探ってみたいのです」

「それで、私の船をご利用される理由は?」

「アスガルドから帰って来る時に、外国船舶であるシャミルさんの船で行くことが、今の状況では、一番、安全に航行できると思ったからです」

「ふふふふ。確かにそうかもしれませんね。分かりました。今回のご依頼もお受けいたします」

「ありがとうございます、シャミルさん。惑星ソウラへの航行許可は、早速さっそくに申請します」

「いえ、その必要はありません」

「はい?」

 シャミルは手首の端末を見せながら言った。

「既に許可は下りました」


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