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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー04 帝国の正義を決める者
83/234

Scene:05 追われていた依頼人

 連邦の首都惑星アスガルド。

 政治の中心アスガルド首都特別区と経済の中心ミッドガルド市をようして、連邦中の富と人が集まって来ていた。人が集まれば、様々な欲望がうごめき、その欲望を買い取ることを商売とするやからも現れる。

 アスガルド第二宇宙港の近くの歓楽街には、久しぶりにおかに上がった船乗り達が、溜まった欲望をはき出す歓楽街がいくつもあり、中にはいかがわしい店もあった。

 隣接して公転している惑星スヴァルトヘイムが満月のように煌々(こうこう)と夜空に輝いて、それほど暗くない夜に、更にネオンサインが通りを明るく照らしている歓楽街の一つ、通称「ハニー通り」には、酔った船乗りの集団や、それに声を掛ける濃い化粧をして露出の多い衣装を着た女達で雑然ざつぜんとしていたが、一つ通りを入った路地裏ろじうらは、建物でスヴァルトヘイムの光もさえぎられて、暗闇が居座っていた。

 そんな迷路のような狭い裏路地うらろじを、一人の青年が、追っ手から逃れるように、時々、後ろを振り返りながら、必死に走っていた。しかし、駆け込んだ路地が行き止まりだった青年が振り返ると、そこには、黒ずくめの衣装に身をくるんだ三人の男達がナイフを持って迫って来ていた。

 息を切らしながら立ち尽くしていた青年の近くまで近づいた男達は、その手にしたナイフを無言で若い男に突き付けた。

 男達がナイフを突き刺そうとしたその時、男達の背後から、軌跡を描きながら飛んで来た青い光が、男達のナイフをはじき飛ばした。


 その少し前。

 シャミルと二人の副官は、ハニー通りを第二宇宙港に向けて歩いていた。

「ったく、あの親父! 下心が見え見えだったぜ!」

「何ですか、下心って?」

 カーラの台詞せりふの意味が分からなかったシャミルはきょとんとしていた。

 シャミルは惑星探査を終えて、いつもどおり、依頼主の商人にじかに探査結果を報告するため、その商会を訪れていたが、報告を終えた後、その商会当主が、ぜひ慰労会いろうかいをしたいと申し出たため、シャミルと二人の副官は、ハニー通りにある高級レストランで食事をご馳走ちそうになった。

 食事中、その商会当主は、シャミルを隣に座らせ、手を握ろうとしたり、顔を近づけようとしていたが、シャミルは久しぶりに食べた高級料理に夢中で、無意識で華麗にスルーしており、その様子をテーブルの前に座ったカーラとサーニャも小気味こぎみ良く笑いながら見ていたのだ。

「でも、美味おいしかったですね。あんな高級な料理は久しぶりです」

「確かに美味うまかったけど、アタイ達は、それ以上に面白いものを見せてもらったけどな。なっ、サーニャ!」

「本当に船長といると退屈しないにゃあ」

「何ですか、私といると退屈しないって? 教えてくださいよぉ~」

「こんな面白いことを言ってたまるか!」

「そんなあ!」

 その時、シャミル達が歩いて行っている方向から、一人の青年が全力疾走して来て、そのまますれ違うと路地ろじに入って行った。そして、少し遅れて走って来た三人の黒ずくめの男達が、その青年を追いかけるように同じ路地ろじに入って行った。

「こんな夜中に鬼ごっこですか」

「見るからに楽しそうじゃなかったな」

 男達が走り込んで行った路地ろじからカーラ達に視線を戻したシャミルは、悪戯いたずらっ子のように笑った。

「私達も入れてもらいましょうか?」


 路地ろじの行き止まりで、黒ずくめの男達が青年に突き付けていたナイフをコト・クレールではじき落としたシャミルは、男達に近づいて行った。

「こんな暗い所でナイフを振り回していたら、怪我けがしちゃいますよ」

 シャミルのすぐ後ろに控えたカーラも太刀を抜いて構えた。

「警察に一緒に行ってやろうか?」

 同じくシャミルの後ろに控えたサーニャが言った。

「でも、そっちのお兄さんが、警察に来られると困るって言うのであれば、見なかったことにしてあげても良いにゃあ?」

「どうしますか?」

 シャミルは、黒ずくめの男達越しに、壁を背にして立っている青年に訊いた。

「できれば、来てくれない方がありがたいです」

「だとよ。どうする、お前達?」

 カーラが三人の黒ずくめの男達に訊くと、男達は、無言で走り去って行った。

「大丈夫ですか?」

 シャミルが青年に近づいて、顔を見てみると、黒い髪と黒い瞳、そして褐色の肌をしたテラ族とまったく同じ容姿のヒューマノイドであった。

「はい。……どうも、ありがとうございました」

「……何族の方でしょう?」

「……」

「話したくなければ仕方が無いですね。それではお気を付けてお帰りください」

 シャミルと副官達が回れ右をして歩き出すと、すぐに青年が話し掛けてきた。

「お待ちください!」

 シャミル達がゆっくりと振り向くと、青年は深々と頭を下げた。

「これは私の国で感謝を表す行為です」

「ここでも同じ意味ですよ。……と言うことは、あなたは連邦の方ではないということですか?」

「はい。……私はアルダウ帝国市民で、今は、アシッド・サルードと名乗っていますが、本名はアシッド・ミルドと言います」

「私は惑星探検家をしています、テラ族のシャミル・パレ・クルスと申します」

 副官二人についても紹介をしたシャミルが続けてアシッドに話した。

「アルダウ帝国の方ですか。……それで、先ほどの鬼さんとはお知り合いですか?」

「鬼……ですか?」

 さすがにシャミルの天然ボケは通じなかったようだ。カーラが、通訳よろしく付け加えた。

「さっきのナイフを持った男達だよ。まさか本当に鬼ごっこをしていた訳じゃないだろう?」

「誰かは分かりません。でも、……心当たりはあります」

「あんたは人からねらわれるような危ないことをしている奴なのかい?」

「別に犯罪に手を染めているという訳ではありません」

「アルダウ帝国は内戦中で、今は、連邦の仲介で和平交渉中ですよね。そのことと関係があるのではないですか?」

「……はい」

「偽名を使っていることも?」

「はい」

 アシッドは、少しの間、思案するように目を伏せていたが、顔を上げるとシャミルに尋ねた。

「あの、惑星探検家ということは、シャミルさんは、自分の船をお持ちなんですね?」

「ええ。一応、商売道具ですから」

「それでは、お願いがあります。いえ、商売道具を使わせていただくのですから、仕事の依頼と言った方が良いでしょうか?」

「どのようなことでしょうか?」

「私をアルダウ帝国の惑星シアルディまで運んで欲しいのです」

「おいおい、今、アルダウ帝国には入れないんじゃないか?」

「いえ、首都惑星アルダウと惑星ソウラの周辺には、銀河連邦の治安維持派遣軍が展開しており航行禁止空域とされていますが、それ以外の惑星の空域は航行禁止とされていません」

「それって、逆に言うと、治安が維持されていなくて、いつ攻撃を仕掛けられてもおかしくないってことじゃないのかい?」

「それは、……そうなのかもしれません」

「でも、アルダウ帝国市民のアシッドさんが、何故、アスガルドにいらっしゃるのですか?」

「連邦アカデミーに留学をしているのです」

「それじゃあ、船長の後輩じゃないか」

「えっ、後輩?」

 どう見ても自分より年下にしか見えなかったシャミルが先輩に当たると言われて、アシッドも驚いていた。

「ま、まあ、私のことは良いですから、……もう少しアルダウ帝国の情勢が落ち着いてから帰られても良いんじゃないですか?」

「いえ、父親の具合ぐあいが悪いみたいで、すぐに帰るようにと、家族から連絡があったのです。でも、アルダウ帝国行きの定期便は、帝国が内戦状態になってから、ずっと運休となっていて、帰るに帰れないのです」

「それはお困りですね」

「船長、ちょっと」

 カーラとサーニャが手招てまねきして、シャミルをアシッドからちょっと離れた場所まで来させると、耳元でささやいた。

「まさか、船長。あいつの依頼を受けるつもりじゃないだろうな?」

「えっ、受けてあげようかと思っていたのですが」

「やっぱり。……でもさ、アタイ達は探検家であって、運び屋じゃないんだぜ。しかも、ドンパチやってる空域に行くなんて、自殺行為だぜ」

「でも、アシッドさんはお困りじゃないですか。お父上と会いたいという、その気持ちにこたえてあげたいじゃないですか」

「まあ、船長なら、そう言うと思ったけどさ。でも、危険すぎるぜ」

「相手は、未知の空域でも、超常現象でもなく、ヒューマノイドですよ。話せば分かる相手じゃないですか」

「そうだと良いがな」

 シャミルがいったん言い出すと聞く耳を持たないことは、カーラとサーニャも知っているから、これ以上の反論はしなかった。

 シャミルは、またアシッドの方に振り向くと、微笑みながら近づいて行った。

「アシッドさん。ご依頼、お受けします。ただし、連邦の領土空域外に出る許可と外国の空域を航行する許可を得なければいけませんので、出発するまでに若干じゃっかん、お時間が掛かります」

「分かりました。ありがとうございます」


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