Scene:01 運命の出会い(3)
遙か後方の空域に一つの光点が見えたと思うと、その光は、流れ星のように煌めきながら、どんどんと大きくなり、たちまち巨大な球形の宇宙船の姿となって、停船していた二隻に近づくと急停止した。そして、警告もなく、いきなりレーザー砲を一門放ってきた。
レーザービームが海賊船のエンジン部分を正確に貫くと、海賊船のエンジン部分は大破して、一目見て航行不能になっていることが分かった。
しかし、アルヴァック号にも相当な衝撃が襲って来て、艦橋スタッフ全員が座っていた椅子から床に放り出されてしまった。
「こんな近くにアタイらがいるのに、いきなりレーザー砲撃かよ!」
カーラが怒るのも無理はなかった。一歩間違えば、海賊船ではなくアルヴァック号にレーザービームが当たらないとも限らない距離にいたのだから、相当、無茶な攻撃であることは確かだ。
「あの船は?」
椅子に座り直したシャミルがカーラに訊いた。
「連邦艦隊のギャラクシー級戦艦だね」
「とりあえずは助かったみたいだにゃあ」
直径二千メートルはあろうかという巨大な球形戦艦は、ゆっくりと二隻に近づいて来た。近くで見ると、まるで小惑星のようだった。
まもなくアルヴァック号に通信が入ってきた。
「こちらは連邦宇宙軍第七十七師団所属戦艦アルスヴィッド。貴艦の船籍情報を申告されたい」
「こちらはアルヴァック号。探査船承認番号〇〇〇一三二六五四五」
シャミルがヴァルプニール通信システムに向かって話し掛けると、まもなくして返信があった。
「確認完了。貴艦を収容の上、事情を伺いたい。よろしいか?」
「了解」
すぐ近くまで接近して来た巨大戦艦は壁にしか見えなかったが、その一角が扉のように開き、二本の巨大なアームが伸びてきて、まず、海賊船を掴んで、その扉の中に収容していった。
いったん、その扉が閉まった後、すぐに開き、二本の巨大アームが伸びてきて、今度は、アルヴァック号を掴んで扉の中に収容した。
扉の中は小型艇収容のための密閉ハッチのようで、外側の扉が閉まった後、少し時間をおいてから内側の扉が開き、まるでベルトコンベアに乗せられているように、アルヴァック号はその扉の向こう側にゆっくりと移動していった。
そこは、小型艇搭載甲板のようで、広大な空間が広がっていた。そして、先に入って行った海賊船の周りには、既に多くの武装した連邦軍の兵士が海賊船を取り囲むようにして立っていた。
海賊船とやや距離を置いて停まったアルヴァック号に、武装した兵士や士官らしき軍人が近づいて来ているのがモニターで確認できた。
「搭乗ゲートを開いてください」
シャミルがそう指示すると、アルヴァック号の船腹の扉が開き、階段状のタラップが甲板の床にまで伸びた。
シャミル達が艦橋で来訪者がやって来るのを立って待っていると、ほどなく三名の士官らしき軍人が、護衛の二名の兵士を従えて、アルヴァック号の艦橋に入って来た。
その先頭にいたのは、豪華な金糸で刺繍が施された黒い軍服の上下に、同じく黒いブーツ状の軍靴を履き、腰に付けたベルトの右には銃を、左にはサーベルのような剣を帯びており、詰め襟と肩に少佐の階級章を付けた若い女性だった。
身長はシャミルより若干高いくらいで、セミロングの赤毛の髪を首の後ろで一つに束ね、色白な肌に、長い睫毛に縁取られた切れ長の目には赤く輝く瞳。薄い唇を固く結んで、精悍な雰囲気を醸し出していた。
おそらく異種族とテラ族とのハーフだと思われる女性士官は、船長は誰かと判断をつけかねているようで、艦橋スタッフを見渡しながら敬礼をした。
「連邦宇宙軍第七十七師団所属戦艦アルスヴィッド艦長キャミル・パレ・クルス少佐です」
わざと低い声を出しているようであったが、まぎれもなく女性の声であった。
「公認探査船アルヴァック号船長シャミル・パレ・クルスです」
シャミルが一歩、前に進み出て、いつもどおりの涼やかな声で名乗った。
「ほう、あなたが船長ですか?」
キャミルと名乗った赤毛の女性士官は驚いていたが、シャミル達にしてみれば、この若さで戦艦の艦長を任されている方が不思議だった。
「はい。私もあなたのような若い女性の司令官には初めてお目に掛かりました。しかし、ファミリーネームも同じとは奇遇ですね」
「そうですね」
キャミルは、士官として兵士達に余計な動揺を与えることのないように、その表情をほとんど変えることがないように訓練されているようであったが、シャミルには、ちょっとはにかんだような表情が見て取れた。