Scene:02 歓迎レセプション
アルダウ帝国の首都惑星アルダウ。
連邦の平均的居住惑星より年間平均気温が三度ほど高いが、湿気はそれほどなく、カラッとした気候が特徴の惑星であった。
アルダウ族は、黒髪に黒目、褐色の肌をした単一容姿の種族であり、生活様式としては、かつてのテラにおけるオリエンタル調の服装や住居に近いスタイルであった。
惑星軍第六軍団所属第三師団の兵士達を分乗させた六隻の輸送艦は、宇宙軍第七十七師団の増援艦隊を加えた宇宙軍第二「牡羊座」師団の大艦隊に守られて、アルダウ帝国領域に入り、首都惑星アルダウの宇宙港に着陸した。そして、それと同時に、アルダウに駐留していた帝国軍の兵士や艦船は、皇帝派のもう一つの拠点である惑星アンナルに向けて飛び去って行った。
アルダウの宇宙港では歓迎式典が執り行われ、栄誉礼を受けた後、治安維持派遣軍の司令本部として使用する第二師団の旗艦であるコスモス級戦艦エアリーズがそのまま宇宙港に停泊したまま残り、それ以外の艦船は、空域警備のため、交代でアルダウ上空に飛び立って行った。
また、惑星軍第六軍団所属第三師団のうちの二個旅団は惑星ソウラの警備に向かい、残りの所属旅団の兵士達は、惑星アルダウの拠点となっている各都市に展開していった。
和平交渉は、皇帝が通常居住し執務を執っている宮殿から少し離れた場所にある貴族院議事堂で行われることとなっていた。そして、その隣には、主に皇族方の静養のために使用される離宮があり、自然が豊かな広大な敷地に、数多くの荘厳な建物が建っていた。
連邦からの治安維持派遣軍が到着した日の夜、その離宮において、アルダウ帝国政府主催の歓迎レセプションが開催された。当日の警備担当を除いて、治安維持派遣軍の士官以上が参加し、アルダウ帝国側からは、皇帝派と反体制派のそれぞれの交渉団代表も参加していた。
キャミルも二人の副官を引き連れて参加していたが、十代の少女でありながら少佐の階級を有しているキャミルは、その軍服姿も凛々しくある一方で、キャミル自身はあまり触れられたくないことだが、シャミルに負けず劣らない美少女であることは間違いなく、アルダウ帝国側のみならず、普段それほど頻繁に会うことのない連邦軍の人間からもひっきりなしに話し掛けられていた。
お陰で二人の副官は手持ちぶさたで壁の花状態であった。
「しかし、艦長の人気は、相変わらずすごいな」
ビクトーレは、自分のことのように嬉しそうに笑いながら、隣に立っていたマサムネに言った。
「そうだな。参列者の中では異彩を放っているからな」
いつもどおり真顔のマサムネが言うとおり、参列者はほとんどが中年以上の男性であり、給仕をしている女性以外では若い女性のいないレセプション会場では、いくら軍服を着ているとはいえ、やはりその華やかさを覆い隠せるものではなかった。
「ご歓談中の皆様。ご静粛にお願いいたします」
立食の会場では、あちらこちらで話の輪ができていたが、司会者が話し出すと、みんなが一斉に話を止め、ステージの方に注目した。
「我がアルダウの治安維持のため、はるばるお越しいただいた銀河連邦の友人への感謝の意を表するため、アルダウ帝国政府を代表し、皇帝陛下のご名代として、セルマ皇女から感謝の言葉を申し述べさせていただきたいと存じます。殿下、お願いいたします」
ステージ奥にある両開きの扉がスライドして開くと、腕の部分がシースルーになり、胸の部分には豪華な刺繍が施されたオリエント調ドレスを身にまとった若い女性が、その裾を引きずりながら、しずしずとステージの中央に進み出てきた。
アルダウ族共通の褐色の肌と黒い目をして、その頭にはシンプルな形のティアラが輝いており、ややウェーブがかった黒髪ロングヘアは腰の辺りまで伸びていた。小柄であったが、気品溢れる姿は、キャミルから見ても見目麗しかった。
セルマ皇女はステージの真ん中に立つと、会場をゆっくりと見渡した後、小さいがはっきりとした声で話し始めた。
「陛下の名代として参りましたセルマと申します。銀河連邦の精鋭の皆様、はるばるアルダウの地までようこそ。今回の和平交渉における皆様のご尽力に深く感謝申し上げます」
その後、皇帝からの挨拶文を代読してから、ステージを降りたセルマは、侍従らしき男の案内で、順次、会場を回りながら参列者と歓談をし始めた。まずは、派遣団の司令官クラスと歓談をした後、キャミルのいるテーブルまでやって来た。
キャミルを見たセルマは、少し驚いたようで、自分の方からキャミルに話し掛けてきた。
「そなたは、まだ若いようじゃが、士官なのか?」
「はい。銀河連邦宇宙軍第七十七師団所属戦艦アルスヴィッド艦長キャミル・パレ・クルス少佐と申します」
キャミルは直立不動の格好で敬礼をした。
「そなたは幾つじゃ?」
「十七歳でございます」
「十七歳! わらわと同じじゃ!」
セルマは途端に満面の笑みになったが、すぐに不思議そうな顔をしてキャミルを見つめた。
「しかし、十七歳で士官とは、そなたは何者じゃ?」
「何者と申されましても……、若干、人より早く学校を卒業しただけのことでございます」
「女性……であるよな?」
「は、はい」
「銀河連邦では女性でも軍隊に入れるのか?」
「さようでございます。当人が望めば、軍人でも、それ以外のどんな職業にでもなれるチャンスがあります」
「どんな職業でも……、羨ましいの」
「はい?」
「……何でもない。わらわの独り言じゃ」
セルマは、キャミルの全身を見渡してから、再び、キャミルに言った。
「キャミル少佐とやら」
「はい」
「明日、宮殿の方にまいれ」
「はい?」
「だから、明日は宮殿に来て、わらわの話し相手になれと言っておるのじゃ!」
「殿下の仰せではありますが、私は連邦宇宙軍の軍人として、アルダウの警護を仰せつかった身なれば、明日からは我が戦艦アルスヴィッドに乗り込み……」
少しイライラとした様子で、セルマはキャミルの言い訳を遮った。
「誰に言えば良いのじゃ?」
「はい?」
「そなたを警護の任から解かせて、宮殿に来させるのには、誰に言えば良いのじゃ?」
「そ、それは……」
「もう良い! わらわが派遣軍の司令官と直に話をする!」
セルマはそう言うと、ぷいと踵を返して、先ほどまで歓談していた司令官クラスが立っているテーブルに向かった。
次の日の早朝。
キャミルは治安維持派遣軍の総司令官コンラッド中将から呼び出しを受けた。
総司令部は、警護の万全を期すためと、盗聴などを防止するため、アルダウ側が用意した施設を使わずに、アルダウの宇宙港に停泊させた、コスモス級戦艦エアリーズの中に設置されていた。
キャミルが、総司令部として使用されているエアリーズ内の会議室に入ると、コンラッド中将が一人でいた。
「キャミル少佐、ごくろう。そこに座りたまえ」
中将は、執務机から立ち上がり、質素な応接セットにキャミルを促した。
「失礼します」
キャミルが敬礼をしてソファに座ると、中将は、苦笑いをしながら、対面のソファに座った。
「おそらく、君も、今日、呼び出されたことの理由は、推測が付いていると思うが?」
「もしや、宮殿から何か?」
「そうだ。セルマ皇女が、どうしても君と宮殿で会いたいと、ごねているそうだ」
「確かに昨日、そのようなことを言われていましたが……」
「セルマ皇女は本気だったようだ。私の所に来た側近の話によると、セルマ皇女のお側には、歳の近い娘がいないらしい。更に、この内戦状態で、通っていた学校にも行けなくなり、今は、宮殿で籠の鳥状態のようだから、話し相手が欲しいのだろう」
「そう言われましても、私には任務がありますので……」
「まあ、君の言うことはもっともなのだが……。しかし、連邦政府としても、今の段階では、皇帝派側とも反体制派側ともパイプを通じておかなければならない状況であることは間違いない。皇女の我が儘とはいえ、皇帝派側との関係に亀裂が入ることだけは、何としても避けたいところだ」
「はあ」
「そこでだな、非常に言いづらいが、君には今日、宮殿に行ってもらいたい」
「し、しかし、私にはアルスヴィッド艦長という責務が」
「やむを得ない。アルスヴィッドの指揮は副官達に任せて、君は宮殿に行ってくれ」
「そ、それは命令ですか?」
「そうだ。皇帝とその家族の機嫌を損ねないことも、今の状況では大事なことなのだ」
「……命令であれば仕方がありません」
「キャミル少佐、頼む。しかし……」
中将は身を乗り出してきて、声を細めてキャミルに言った。
「あの姫君はかなりの気分屋のようだから、扱いには十分気を付けてくれ」
「は、はあ」
まさかの展開に戸惑うキャミルであった。




