Scene:01 統合参謀本部(3)
「今回のミッションにあたっては、首都惑星アルダウから帝国軍に退去してもらい、我々が駐留する。しかし、帝国軍が退去しているうちに、反体制派が首都惑星を攻略しようと停戦協定を反故にして軍を進めて来ないという保証はない。一方で、帝国軍は、首都惑星を我々に守ってもらうことを利用して、その『浮いた』軍事力を惑星ソウラの攻略に向ける可能性もある。しかし、それでは、停戦協定の意味が無くなってしまう。そこで、惑星ソウラにも治安維持派遣軍の一部を駐留させて、現状維持を図る」
会議室内の明かりが点くと、コンラッド中将はテーブルを見渡した。
「私からの説明は、簡単だが以上だ。何か質問はあるかな?」
コンラッド中将から見て左手に座っていた宇宙軍大佐が挙手をして、立ち上がり、所属、氏名、階級を名乗った後、発言をした。
「今のお話だと、首都惑星アルダウと開拓惑星ソウラの二箇所に我が軍を展開するとのことですが、他の空域における監視は必要無いのですか?」
「必要無いという訳ではなく、できないと言った方が正確だろう。両陣営とも末端の戦闘集団まで統制が取れている訳ではないようで、実際には帝国領域内全般で小競り合いが生じている状況であり、今回の治安維持派遣軍のみで対応できるものではない。今回の停戦協定は、現在の勢力範囲を変えないということで成り立っており、形勢に影響を及ぼさない小競り合いにまで面倒は見切れないということだ」
別の士官から、続けて質問がされた。
「両勢力は、今回の和平条約を本気で締結する気はあるのでしょうか?」
コンラッド中将に代わって、外務省の条約局長が苦笑しながら答えた。
「厳しい質問ですな。最高評議会で、そのような質問をされると、答弁に困ってしまいます」
会場からは笑い声が漏れた。
「しかし、この場は非公開の会議ということで、オフレコでお願いします。国家機密管理は十分心得ておられる方々でしょうから」
条約局長は、若干、声を潜めて話し出した。
「今回の和平交渉中の停戦期間は、両陣営にとっては渡りに船というところだったのです。最近は、やや押され気味であった皇帝派にとっては、態勢の建て直し、若しくは戦力補強の好機と捉えているでしょう。一方の反体制派にとっては、先ほども述べたように、リーダーのミルド氏の健康状態が優れずに陣頭指揮が執れない状況であるため、停戦期間中に、ミルド氏亡き後の指揮体制を再構築しておきたいという思惑があったと思われます。そういうことで、両陣営とも我が連邦の停戦の提案にすんなりと乗ってきたという訳です」
条約局長は、一旦、言葉を切ると、若干、躊躇するような表情を見せたが、そのまま話を続けた。
「それと、今のアルダウ帝国の内戦は、国を真っ二つに割って争っているという訳ではありません。現在の帝政も圧政を敷いていた訳ではなく、帝国市民の生活がそんなに苦しいということはありません。身分や職業、言論などに制限はありますが、少なくとも一般の帝国市民達は平穏な毎日を送ることはできていました。一方で、反体制派の方は、自由と民主主義を掲げる一部の思想家達が中心となって活動をしており、帝国市民のすべての支持を得られている訳ではありません、大多数の帝国市民達は、正直言って、どちらが勝利してもらっても良いから、早く平和になってほしいと考えているはずです。つまり、皇帝派も反体制派もいずれも、帝国市民達からの圧倒的な支持を取り付けておらず、逆に言うと、どちらの勢力が優位に立っても、帝国市民から不満の声が出ることはないということです。したがって、両陣営とも、現在の優先事項は、少しでも戦況を有利にすることですから、自ら矛を収めることはしないでしょう」
体を乗り出すようにしていた条約局長が椅子に深く座り直したことを確認したコンラッド中将が、続けて発言した。
「お立場上、言いづらいこともあるでしょうからな。諸君、はっきり言って、和平が成る可能性は少ないようだ。停戦期間が過ぎれば、再び、戦火が開かれるだろう。しかし、一つだけハッキリしていることがある。束の間でも、平和をもたらすことになる我が連邦に対して、アルダウ帝国市民は良い印象を抱いてくれるはずということである」
まさしく、連邦が介入する真の狙いはそこにあった。イデオロギーの争いよりも、自由と平等が保証されている銀河連邦への加入という道が魅力的に見えるように、アルダウ帝国市民に対してイメージ付けることができるのだ。
今まで黙って聞いていたパメラ議長が最後に口を開いた。
「先ほども説明があったように、両陣営とも末端の組織まで統制し切れているとは言い難いようだ。停戦協定を破っても、一気に相手方の軍勢を叩いて、その勢力を削いでおこうと考える、浅はかな考えの輩がいないとも限らない。諸君らに念を押しておくが、今回のミッション、決して油断をすることのないようにな」




