Scene:01 統合参謀本部(2)
連邦としては、反体制派、すなわち連邦加入推進派を支援したいところであるが、表立って活動すると内政干渉と言われ兼ねないことから、帝国市民の保護を名目にして、皇帝派と反体制派の両勢力に働き掛け、期限を区切っての停戦締結にまでこぎ着けたところであった。
そして、その停戦期間中に、連邦の特使が仲介役となり、アルダウ帝国の首都惑星アルダウで、両勢力の代表者達を集めて和平交渉を進める手筈となっており、その交渉が行われている間、両勢力の軍隊を首都に駐留させると不慮の衝突が起き兼ねないことから、第三者である連邦が治安維持のため、軍を派遣することになったのだ。
「和平交渉は、連邦の標準暦で一週間後から約一か月間行われる。諸君達には、その間、主に首都惑星アルダウの治安維持を担当してもらう。この任務の成否は、アルダウという国家の命運のみならず、我が連邦にも多大な影響を及ぼすものである。本日、集まってもらった諸君らは精鋭と評判の者ばかりと聞いている。必ずや今回の任務を成功させてくれるものと期待している」
議長は、会議室に集った士官達を見渡して満足そうに微笑んだ。
「では、具体的な作戦内容については、今回の派遣軍の総司令官を務めるコンラッド惑星軍中将から説明をする」
パメラ議長が右を向き無言でうなづくと、右隣に座っていたテラ族の白人であるコンラッド中将が話し出した。
「コンラッドである。今回のミッションを成功させるために全力を尽くす所存である。諸君らの協力をお願いしたい」
コンラッド中将は、軽く頭を下げた後、円形テーブルに座った士官達を見渡してから、話を切り出した。
「今回のミッションには、惑星軍第六軍団所属第三師団、宇宙軍第二「牡羊座」師団、そして増援として宇宙軍第七十七師団第二艦隊が参加して行われる。惑星軍の諸君らは、首都惑星アルダウに上陸し、惑星内の治安維持に当たる。そして、和平交渉中は、惑星アルダウへの入港を禁止する措置を採ることになっており、宇宙軍の諸君らには、アルダウに不法に近づいてくる艦船の取り締まりを担当してほしい」
第二「牡羊座」師団は、いわゆる攻撃師団の筆頭であり、圧倒的な攻撃力を持った、宇宙軍のエースと言える師団である。それに、キャミルが所属する第七十七師団第二艦隊まで増援として参加するのであるから、連邦を上げて対応していることをアルダウ帝国に対してアピールする目的とともに、今回のミッションに対する連邦政府の並々ならぬ意気込みが伝わってくるものであった。
「とりあえず、アルダウ帝国における現在の情勢を説明しよう」
コンラッド中将がそう言うと、会議室の照明が落とされ、上座の背後にスクリーンディスプレイが降りてきた。
「現在、アルダウ帝国は、皇帝派と反体制派とに分裂して内戦状態であることは諸君らも承知しているとおりである。まず、皇帝派は、皇帝メヒトス九世を擁する元老院、枢密院、そして貴族院のメンバーが中心となっており、その実質的なリーダーとなっているのが、カリアルディ公爵である」
スクリーンディスプレイに、豪華な衣装を着ている、初老でやや太めの男性が映し出された。
「カリアルディ公爵は、皇帝メヒトス九世の実弟であり、皇帝の娘に次いで、皇位継承順位第二位の人物だ。皇帝派は、主に首都惑星アルダウと、隣の空域にある開拓惑星アンナルを実効支配しており、その所持軍事力は帝国の正規軍が主力となっている」
コンラッド中将は、一度、言葉を切ると、すぐ前に置かれていたボトルからコップにミネラルウォーターを注いで一口飲んだ。
「一方の反体制派勢力であるが、こちらのリーダーとなっているのが、マリアル・ミルドという男で、元々は帝国正規軍の将校であったが、反体制運動に感化され、軍の一部隊を寝返らせた男だ」
スクリーンディスプレイに、アルダウ帝国軍の軍服姿の精悍な顔つきをした壮年の男性が映し出された。
「しかし、現在は、病に伏せっているという情報もある。ミルド氏のカリスマ性は相当なもので、反体制派の勢いをここまで大きくしたことには、ミルド氏の個人的力量によるところが大きかったと言えよう。このミルド氏の病状が、今後の情勢に影響を与えることは必至であろう」
コンラッド中将は、更にコップに口を付けた。重要任務の司令官を任されたことで、気負っているのかもしれなかった。
「反体制派には、市民達の中にも、かなりの数の協力者がいるようで、資金は潤沢にあり、兵力は主に傭兵によっており、武器や戦闘艦の調達にも不便はしていないようだ。反体制派は、惑星シアルディと惑星グロックを実効支配している。この二つの惑星は、惑星アンナルに次いで開拓された惑星で、自主独立の気風がもともと高く、反体制運動は、この二つの惑星から発生したと言われている」
スクリーンディスプレイの画面が変わり、アルダウ帝国の各惑星の位置がデフォルメされて記された空域図が映し出された。
「もう一つ、もっとも最近、入植を開始したソウラという惑星があるが、こちらはまだ開拓も緒に就いたばかりで、また、このように帝国内の他の惑星から若干離れた位置にあることから、両陣営とも、この惑星の攻略にはそれほど力を入れておらず、戦火を逃れてきた難民達の避難所となっている状態だ。このように、両陣営は、それぞれ二つの惑星を勢力下において、軍事力も均衡しており、まだ、どちらが優勢とかの判断はできかねている状況である」
コンラッド中将は、再びミネラルウォーターを一口飲むと、大きく息を吐いた。




