Scene:01 統合参謀本部(1)
惑星スヴァルトヘイム。
ユグドラシル恒星系第四惑星であるが、人工的に公転軌道と周期を修正させて、常に第三惑星である首都惑星アスガルドと隣接して公転するようにされている惑星であり、宇宙軍と惑星軍の最高司令本部ともに、統合参謀本部が設置されている、連邦における軍事の中心である。
そのスヴァルトヘイムにおいて首都防衛を担う宇宙軍第一師団のメインベースにアルスヴィッドを停泊させて、キャミルは、マサムネとビクトーレを引き連れて、統合参謀本部の建物に入り、約三メートルおきに警備兵が立ち並ぶなど、厳重な警戒がされている廊下を、幹部専用の特別会議室に向かっていた。
「しかし、宇宙軍の最高司令部からではなく、統合参謀本部からの呼び出しとは一体何でしょうな?」
キャミルの後ろを歩いているビクトーレが小さな声でキャミルに話し掛けた。
「分からん。しかし、事前に聞いている出席者によれば、かなり重要な案件のようだな」
入り口の左右にも警備兵が立っている特別会議室のドアを入ると、広い室内には円形のテーブルがあり、既に何人かの軍服姿の士官と思われる男達が座っていた。
キャミルが、円形テーブルの指定された席に座ると、その後ろに用意された椅子席に二人の副官達が座った。
会議室の上座に当たる背後の壁には、銀河連邦の国章と、その左右に宇宙軍と惑星軍の軍旗が掲げられており、キャミルの席は、それを正面に見る末席であった。
まだ、三分の一ほどの空席がある円形のテーブルを何気なく見つめていたキャミルに、左隣に座っていた惑星軍大佐の階級章を付けた男が、体を寄せながら話し掛けてきた。
「失礼ですが、宇宙軍第七十七師団のキャミル少佐殿ですか?」
「はい、そうです」
キャミルは立ち上がろうとしたが、男が広げた手をキャミルに示してそれを制した。
「惑星軍情報部のヒエリ・レンドルと言います。初めまして」
「初めまして。キャミル・パレ・クルス少佐であります」
レンドル大佐のラフな敬礼に、キャミルも座ったまま敬礼を返した。
テラ族のようで、短く刈り上げられてセットされた黒い髪に黒い目、やや浅黒い肌の体格の良い体をしていたが、良い感じに笑い皺が入った顔は、まだ40歳代前半と思われ、キャミルほどではないにしろ、かなり昇進スピードが速いといえよう。
惑星軍情報部は、連邦内で唯一の諜報機関、すなわち、スパイ機関である。したがって、その所属軍人は、身内である惑星軍や宇宙軍の軍人に対しても、素性を明らかにしないことが多いことから、キャミルも、情報部に所属しているという人間と会ったのは初めてであった。
「お噂はかねがねうかがっておりますよ。本当にまだお若いのですなあ」
「まだまだ若輩者です」
「いやいや、士官学校を卒業して中尉に任官したことだけでもすごいのに、ごく短期間に二階級昇進されているのですからな。将来、元帥になることは、もう約束されていると言って良いでしょう。今からゴマをすっておきますかな。はははは」
「い、いや」
一歩間違うと嫌みに聞こえる台詞であったが、その屈託のない笑顔は、キャミルにそんな感情を抱かせなかった。
「今回のミッションでも、是非ご一緒したいものですなあ。その節には、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
キャミルが持っていた情報部所属の軍人のイメージを覆すレンドル大佐に、キャミルは親しさを覚えた。
キャミルがレンドル大佐と話している間にも、特別会議室には、どんどんと人が入って来て、円形テーブルの上座を除いて出席者は揃ったようだった。
間もなく、招集者側の出席者が揃って会議室に入って来た。
統合参謀本部議長パメラ元帥、最高執政官府首席補佐官、外務省条約局長、国防省長官官房長などなど、政府と軍のトップレベルの要人が丸いテーブルの上座に座った。
会議室が静まりかえった中、司会役のパメラ議長が重々しく口を開いた。
「本日は、急な招集にもかかわらずご苦労だった。本日、諸君らを招集したのは、重要な任務を言い渡すためである。おおよその予想は付いていると思うが……」
議長は一旦、言葉を句切ると、目だけを動かして会場内を見渡した後、真正面を向き、話を続けた。
「諸君らはこれからチームを組んで、アルダウ帝国に向かってもらう」
政府の要人も出席して来ているということで、ある程度、予想が付いていたとはいえ、出席者の間からは、小さなどよめきが起きた。
アルダウ帝国とは、銀河連邦と国境空域を接しているアルダウ恒星系を含め、五つの恒星系を領土空域とする国家であり、その国民は、ヒューマノイドであるアルダウ族と呼ばれ、銀河連邦とのファーストコンタクト時から友好関係にある国家である。
しかし、アルダウ帝国は、その名のとおり、皇族、貴族、平民といった身分制度に基づく帝政を敷いており、その点においては、連邦市民の自由と平等を保証している銀河連邦とは相容れない国体であった。
そして、自由と平等の国である銀河連邦とのコンタクトにより、もともとアルダウ帝国内にくすぶっていた反体制運動が大きく燃え上がり、帝政廃止と民主主義国家樹立を求める勢力が、銀河連邦加入をも求めて立ち上がり、現在、アルダウ帝国は内戦状態にあった。




