Scene:01 運命の出会い(2)
シャミルは、急いで船長室から出ると、艦橋に向かって走った。狭い船内で、全速力だと艦橋まで十秒と掛からない。
シャミルが艦橋に入ると、五名の艦橋スタッフが前面のモニターに見入っていた。
「何事ですか?」
艦橋の後部にある船長席に座りながらシャミルが問うと、副官のカーラが振り向きながら答えた。
「敵襲だよ。どうやら海賊のようだ」
バウギ族であるカーラは、縮れた薄緑色のショートヘアに青い瞳、赤みがかった肌のマッチョな体型で、身長二メートルを超える大女であり、それ以外は特にテラ族と体型的な違いはなかった。
体にぴっちりとフィットしているため、筋肉とともにバストも強調されて見える、半袖で黒色の上着に、大きな剣を帯びている黒い幅広のベルトの下にも、タイツのような黒いズボンに黒のブーツという格好のカーラは、船長席に近づきながら、話を続けた。
「普通の商船の振りして近づいて来て、いきなり『停船しろ』って言ってきやがった」
「もう既に首都空域のはずでは?」
シャミルの疑問はもっともだった。
辺境空域や未探査空域といった、いわゆる危険空域と呼ばれるエリアであれば、海賊達のような無法者が出没しても不思議ではないが、今、シャミル達がいる空域は首都惑星アスガルドに近い、連邦の中でも最も治安の良い空域のはずである。
「相手の船も超高速船タイプだにゃあ。どうやら連邦軍の警備網の隙間を縫っては、小銭稼ぎをしているジャンキーって呼ばれている海賊達だにゃあ」
もう一人の副官であるサーニャも船長席に近づきながら言った。
ミミル族であるサーニャは、猫耳と細い尻尾を持ち、身長一メートルほどの幼女のように見えるが、れっきとした大人の女性だった。
三つ編みにして後ろで一つに束ねている茶色のロングヘアーに茶色の瞳。色白の肌に、いつも悪戯っ子のように微笑んでいる唇からは小さな牙に見える八重歯が左右両方に出ていた。ちゃんと尻尾用の穴が空いた、ゆったりとした薄水色のローブを着て、足下は折り畳んだような形をした茶色のショートブーツを履いていた。
「逃げられますか?」
部下に対しても敬語を使うシャミルの口調は冷静だった。
「やってみないと分かんないよ」
「とにかく全力で逃げるにゃあ」
逆に上司であるシャミルにも敬語を使わない副官達であった。
アルヴァック号は、船体を反転させると、メインブースターを全開にして逃走態勢に入った。
しかし、既にアルヴァック号に接近して来ており、全速で向かって来た相手の船にたやすく追いつかれてしまった。
アルヴァック号をひと回り大きくしたくらいの高速船タイプの海賊船がアルヴァック号と併走し始めると、まもなく、ヴァルプニール通信システムに着信があった。
シャミルが通話モードにすると、海賊の声が船内に響いた。
「停船せよ! さもなくば攻撃する!」
アルヴァック号にもビーム砲が搭載されていたが、既に砲門を開いている海賊船のビーム砲の数や口径を見ると、撃ち合ったとしても敵わないことが明らかだった。
シャミルも、ヴァルプニール通信システムを使って海賊船に話し掛けた。
「この船は探査船です。あなた方の利益になるような物は何も積んでいません!」
「それは我々が判断する! 早く船を停めろ!」
シャミルは、ヴァルプニール通信システムをいったん切ると、艦橋スタッフを見渡しながら言った。
「仕方がありません。停船しましょう」
「そうだね。乗り込んで来やがったら反撃できるかもしれないしね」
カーラは白兵戦に持ち込めば、反撃のチャンスが十分あると判断したようだ。シャミルもその判断に賛成だった。
「みんな、パーソナルシールドを装着してください」
パーソナルシールドとは、個人用のエネルギー遮断型バリアシステムのことで、ビーム銃や拳銃のように、高速で高密度の破壊力を持つエネルギーを反射する性質を有するシールドを発生させるものである。このシステムが発明されてからは、銃撃戦は効果的な戦闘ではなくなり、剣や槍を用いての白兵戦が再び陸戦の主体となっていた。
シャミルは、艦橋スタッフが全員、卵大の大きさのパーソナルシールド発生装置をベルトに装着したことを確認してから、再びヴァルプニール通信システムのスイッチを入れて海賊船に話し掛けた。
「分かりました。停船します。その代わり、乗員全員の保護を申し入れます」
「それはお前達次第だ」
シャミルは、再びヴァルプニール通信システムのスイッチを切って、艦橋スタッフに指示を出した。
「エンジン停止! ブレーキブーストレベル三!」
航海士がシャミルの指示を復唱して操作を行うと、アルヴァック号は速度を落とし、ゆっくりと停船した。
併走していた海賊船も同じように減速をして、ぴったりと船腹をアルヴァック号に向けて停船をした。そして、海賊船が補助ブーストを点火させて、ゆっくりとアルヴァック号にドッキングしようとした、その時――!