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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー03 命を賭して守るべきもの
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Scene:08 海賊船フェンリスヴォルフ号(1)

 海賊船に乗り込んだシャミルは、そのままメルザに手を引かれて廊下を歩いて行った。後ろには数人の護衛らしき男達がついて来ていた。

 左手首に付けた情報端末もコト・クレールも取り上げられなかったことに、シャミルは少し不気味さを感じたが、それをあえて、メルザに確認することはしなかった。

 シャミルは、廊下を歩きながら、船内を観察していたが、海賊船のわりには、清潔にされているようで、乗組員達もよく訓練されているようだった。

 あるドアの前まで来ると、メルザがてのひらをドアの取っ手部分にかざしてロックを解除すると、ドアは音もなく横にスライドして開いた。

「お入り」

 メルザに軽く背中を押されて、シャミルは部屋の中に入った。

 そこは豪華な調度品で飾り立てられた部屋で、大きな執務机と応接セットが置かれていた。そして、壁の一面は、酒と思われる様々(さまざま)びんが、バーのように並んで陳列されている棚となっており、その手前にはちょっとしたカウンターも備え付けられていた。また、カウンターの反対側に立てられている衝立ついたての向こうには大きなベッドも見えた。

 高級客船の船長室も色褪いろあせて見えるほど豪華な部屋だった。

 シャミルの後に続いて、メルザもその部屋に入ると、ドアは静かに閉まった。

「そこにお座り」

 メルザは、応接セットのソファに座るようにシャミルに勧めた。シャミルが部屋を見渡しながら、ソファに座ると、メルザはカウンターに向かいながら、シャミルに訊いた。

「あんた、お酒は飲めるのかい?」

「いいえ、まったく」

「そうかい。それは人生の半分を損しているねえ」

 メルザは、カウンターの下にある冷蔵庫から氷を取り出して、二つのグラスに入れ、それぞれのグラスに別のびんから液体を注いだ。

 両手でグラスを持って、シャミルの対面のソファに座ったメルザは、右手に持ったグラスをシャミルの前のテーブルに置き、左手に持ったグラスを右手に持ち替えると、一口飲んで、ため息のように息をいた。

「どうぞ。心配いらないよ。毒なんて入れてないからね。それは、最近、見つかったボージョという柑橘かんきつ系果実の百パーセントジュースだよ。飲んでごらん」

 シャミルがグラスを手に取って、よく見てみると、ミルクのような色をした液体だったが、ミルクよりはさらさらとしているみたいだった。鼻を近づけて、においをいでみると、オレンジに似た良い香りがした。

「いただきます」

 シャミルは、メルザに少し頭を下げてから、一口ひとくち、口に含むと、すぐに飲み込んだ。

 オレンジジュースよりも濃厚な味わいだが、意外とさっぱりとしていて美味おいしいジュースだった。

「どうだい? 美味うまいだろう?」

「はい。すごく美味おいしいです」

 シャミルは正直に感想を述べた。

「その果実は、まだ発見されたばかりで、しかも、それほど収穫量も多くないから、そんなに出回ってないんだよ。あと一年くらいしたら、商品として出回るかもしれないね」

 メルザは、足を組み、左手をソファの背もたれの後ろに回し、やや上半身をるようにしながら、穏やかな表情でシャミルを見ていた。

 シャミルは、グラスをテーブルに置いて、背筋せすじを伸ばしてから、メルザを真正面から見つめた。

「メルザさん。私をこの船に呼んだのは、美味おいしいボージョジュースをご馳走ちそうしていただくためだけではないですよね?」

「もちろん、そうさ。アスガルドで会ってから、あんたのことを色々と調べさせてもらったよ。本当に頭の良いお嬢さんなんだね」

 そう言ってグラスをテーブルに置くと、メルザはソファから立ち上がり、テーブルを回って、シャミルの座っているソファの左隣に座った。

 右腕をシャミルの肩に回して、抱き寄せるようにシャミルを近づけると、自分の顔をシャミルに近づかせた。シャミルは思わず、顔を右にそむけたが、メルザは左手でシャミルのあごつかんで、強引ごういんに自分の方を向かせた。

「もう一度、その可愛い顔をじっくりと見せておくれよ」

 メルザは、鼻が触れ合うくらいにシャミルの顔の真ん前に自分の顔を持ってきて、じっとシャミルの目を見ていた。

 シャミルは、顔をそむけようとしたが、つかまれているあごを動かすことができなかった。

「やっぱり間違いない。あんたは間違いなく、ジョセフの娘だね」

 アスガルドで会った時と同じことを言われて、シャミルは、恐怖心よりも好奇心の方が大きくなってきた。顔をそむけようと力を入れていた首から力を抜くと、メルザがすかさずあごから左手を離した。

「ごめんよ。可愛い顔なのに強くつかんじゃって。でも……」

 メルザは、右手でシャミルの肩を抱いたまま、左手で優しくシャミルのほほあごをさすってきた。

「傷やあざにはなってないから安心しな」

「私の顔に、ジョセフの娘だということが書いてあるのですか?」

「ああ、そうだよ。あんたの目の中にね」

「私の目の中に?」

「そうさ」

「どういうことなのですか?」

「あんたが、それを知る必要はないだろう。だって、あんたが鍵そのものなんだからさ」

「鍵?」

「そうさ。あんたは、リンドブルムアイズを探し出すために必要な鍵の一つなんだからさ」

「……!」


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