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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー03 命を賭して守るべきもの
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Scene:07 フレキ空域(2)

 索敵係さくてきかかりからの連絡が終わらないうちに、ほぼ真上の空から黒い宇宙船が舞い降りて来た。

 大きさはアルヴァック号の約十倍。全長五百メートルほどの流線型をし、船体には、その大きさに比して多すぎるほどのビーム砲が搭載されている戦闘艦であった。

 アルヴァック号のすぐ隣に着陸したその宇宙船から、銃と剣で武装した男達がぞろぞろと降りてきて、あっという間にシャミル達を取り囲んでしまった。

 男達は、一人一人バラバラの服を着ており、持っている武器も様々さまざまだったが、一糸乱いっしみだれれず整列して武器を構えた姿からは、よく訓練されていることが明らかだった。

「な、何だい? お前達は?」

 カーラが太刀を抜いて問い掛けたが、誰も返事をしなかった。

 そのうち、その兵士達の壁の中から、シャミルの記憶も新しい一人の女性が前に進み出てきた。

「メルザさん」

「こんにちは、シャミルさん。約束どおり、会いに来たよ」

 メルザは、左手を剣のつかに掛けながら、その美しい顔に冷たい笑みを浮かべて、シャミルを見た。

「事前にご連絡をいただいたら、お茶の用意もしていましたのに」

「ほほほほ。それは残念。シャミルさんの入れてくれたお茶は、さぞかし美味おいしいだろうにね」

 シャミルとメルザの、腹のさぐり合いのような会話にしびれを切らしたかのように、カーラが太刀でメルザをしながら叫んだ。

「あんたが女狼めろうのメルザかい?」

 メルザは面倒臭めんどうくさそうに、視線をカーラに向けた。

「そうだよ。あんたがた二人はシャミルさんの副官かい? なかなかたのもしいじゃないか?」

「何だよ、この男どもは? アタイ達をどうしようというのさ?」

「あんたがどうなろうと、私は興味は無いね。私が欲しいのは……」

 メルザは、ゆっくりとシャミルを指差した。

「シャミルさんだけさ」

「メルザさん。私は、海賊にとって価値のある宝物でも商品でもありませんよ」

「いいや、シャミルさんは私にとって、オレイハルコンよりも、ずっとずっと価値があるんだよ。さあ、私の船に招待するよ。私からシャミルさんにお茶をご馳走ちそうしようじゃないか」

「ふざけるな! 船長は渡さないよ!」

 カーラが太刀を構えてメルザに突進しようとすると、メルザの左右にいた兵士達が素早くメルザの前に移動して、メルザを護衛するような体勢を取った。

「お前ら! 怪我けがをしたくなかったら、そこをどきな!」

 カーラが立ち止まって兵士達に怒鳴どなると、メルザがその兵士達をどかせて、前に進み出てきた。

「元気の良い副官さんだね。シャミルさんのことが大好きとみえる。でも、私もシャミルさんが大好きなんだよ。良いだろう。私が相手をしてあげるよ。この女狼めろうメルザ様直々(じきじき)にね」

 そう言うと、メルザは、さらに前に進み出て、少し湾曲わんきょくした片刃の剣を抜いた。

「さあ、おいで。副官さん」

「しゃらくせえ!」

 カーラは、メルザにその百キログラムを超える太刀を打ち込んでいった。

 しかし、メルザは難なく、カーラの太刀を跳ね返すと、まるで舞っているような美しい動きで、カーラに息を継がせるひまもなく剣を打ち込んできた。カーラは防戦一方となり、じりじりと後ずさりしていった。

 メルザは、剣を打ち込むのを一旦いったん止め、冷笑れいしょうしながらカーラに言った。

「私にこれだけ剣を振らせるなんて、あんたもなかなかやるねえ。でも、もう遊びは終わりだよ」 

「なんだと! これからだ!」

 珍しく息が切れていたカーラだったが、その士気は下がっていなかった。太刀を構え直して、メルザに打ち掛かっていった。しかし、メルザは、すばやく横に移動し、カーラの太刀を逃れると、剣を横に払った。

「ぐっ!」

 カーラはうめき声を上げて太刀を落とした。そして、その右手首からは赤い血がしたたり落ちていた。

「カーラ!」

 シャミルとサーニャが同時に叫んで、カーラの元に駆け寄った。

「心配いらないよ。手首の筋をちょっと切っただけさ。血もすぐに止まるだろう」

 まったく息も切らしておらず、顔色一つ変えないまま、メルザは剣をさやに収めると、シャミルに近づいて来た。

「さあ、シャミルさん。私の船においで」

「嫌です! 確かに、あなたとは色々とお話をうかがいたいと思っていましたが、今は、カーラの手当の方が先です!」

「あんたが来ないと、そもそも手当自体が不要になるかもしれないよ」

 メルザがそう言うと、取り囲んでいた男達が一斉に剣を構えた。

 カーラが剣を持てなくなった今となっては、これだけの海賊達を相手に戦って、勝ち抜くことは不可能なことは明らかだった。

 シャミルは、メルザを真正面からにらみつけながら、毅然きぜんとした態度で言った。

「分かりました。私があなたの船に乗ったら、この副官達やアルヴァック号の乗組員達の命は保証していただけますか? 保証していただけるのであれば、喜んでご招待をお受けします」

「保証しないって言ったらどうする?」

 シャミルは、コト・クレールを抜き、逆手さかてに持って、剣先を自分ののどに当てた。

「自分の部下達の命も守れない船長なんて、一人のうのうと生きている資格などありません。自ら命を絶つまでです!」

「……あんたは、やると言ったら、やる人みたいだね。その剣先に迷いがない。……分かったよ。女狼めろうメルザ様が襲った相手を生かして帰すことは滅多めったにないが、あんたに死なれると、私も困るからねえ」

「部下達の命の保証をしていただけるのですね?」

「約束するよ。まあ、私も極悪非道ごくあくひどうなんて呼ばれているけど、約束は破ったことはないよ」

「船長! 船長を一人で海賊達の手に渡したりしないよ!」

 左手で右手首を押さえながら、カーラが苦しそうに言ったが、シャミルは、カーラの右手首をさすりながら、優しい笑顔を見せた。

「ちょっと話してくるだけです。心配はいりません」

「船長」

 シャミルは、もう一度、カーラとサーニャを微笑みながら見つめて、つぶやいた。

「キャミルに……」

 小さい声だったため、最後まで聞き取れなかったようだが、カーラとサーニャはシャミルの言いたいことは、すぐに理解できたようだった。

 シャミルは、視線をメルザに戻した。

「さあ、まいりましょう」

「物わかりの良い子だね。大好きだよ」

 そう言うと、メルザはシャミルに近づいて来て、左手でシャミルの右手をにぎった。

「ついといで」

 メルザは、まるで結婚式の新郎のように、シャミルをエスコートしながら、海賊船に連れて行った。その搭乗ゲートを登りきった所で、シャミルは後ろを振り向いて、カーラとサーニャを見た。小さくうなづいたシャミルは、再び前を向いて、メルザとともに、海賊船の中に消えていった。

 カーラ達を取り囲んでいた男達が、すばやく海賊船に乗り込み終えると、海賊船はすぐに飛び立って行ってしまった。


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