Scene:07 フレキ空域(1)
アルヴァック号は、キャミルの助言もあったことから、フレキ空域内の航行時間を少なくするため、惑星ゲルズ、すなわち、オレイハルコン鉱脈といった利用価値がある惑星として、惑星開発省に届出をして「フレキⅤ」から「ゲルズ」へと改名されている惑星から一番遠い方向から迂回をして、フルパワーでフレキⅣに向かっていた。
途中、レーダーにいくつか宇宙船が捉えられたが、アルヴァック号に向かってくる船はなく、アルヴァック号は、無事、フレキⅣに接近して行った。
フレキⅣ自体はガス惑星であるが、その斑模様の円弧の向こう側からフレキⅣの衛星が見えてきた。白い雲と青く輝く海を持つ美しい衛星だった。おそらく、フレキⅣの重力に捉えられた彷徨い惑星だったのだろう。
「見たところ、居住可能っぽいな」
「そうですね。着陸してみましょう」
アルヴァック号は、高度を下げていき、周回軌道を回り始めた。くまなく地表の画像を記録すると、艦橋モニターにウィンドウが開き、自動で作成された、簡単だが立体的な地図が表示された。
「思ったより陸地の割合が少ないな。それに緑の範囲も狭い」
カーラが言ったとおり、陸地の割合は二割程度しかなかった。
「大きな河川も見当たりませんね。雨が少ないのかもしれません」
衛星ということは、主惑星の陰に位置することによって、恒星の光が届かない時間が、主惑星よりも長いことが予想された。そうすると、恒星からの距離に比して、その平均的気温が低く、水が蒸発して雨として循環するサイクルが十分機能していないのかもしれなかった。
「では、この位置に着陸してみましょう」
シャミルが地図上にポインタで示した場所は、もっとも大きな陸地にある河川の河口付近だった。
高度を下げていったアルヴァック号は、着陸予定地点の上空をしばらく周回してみた。
砂浜らしき海岸には波が打ち寄せており、幅が二キロメートルほどの河口から蛇行して、それほど流れが急ではないと思われる河川が奥地の方に伸びていた。
森というほど生い茂った樹木は見当たらなかった。
また、地表を動き回る動物も見あたらなかった。
アルヴァック号は、さらに高度を下げて、河口から五キロメートルほど上流に遡った地点に着陸した。
観測スティックを伸ばして、気温、湿度、大気成分、放射線量、紫外線量その他、ヒューマノイドが生存するについて有害となる物質の有無などを検査したが、特に問題はなかった。
「カーラ、サーニャ。行きましょう」
シャミルと二人の副官は、搭乗ゲートから外に出た。もちろん、マニュアルどおり、簡易酸素ボンベをベルトに装着していた。
やや肌寒い気温ではあったが、風は無く、凍えるほどではなかった。
シャミルが空を仰ぎ見ていると、恒星フレキが輝いている反対側の空に、恒星フレキの三倍ほどの大きさの惑星フレキⅣが、ガス惑星特有の絵の具を流したかのような表情を見せながら、ぽっかりと空に浮かんでいた。
重力は、平均的居住可能惑星の約八割くらいで、体が軽く感じられた。
「マイホームを作るには最適とは言えないが、鉱山従事者の寄宿舎くらいなら建てられるんじゃないかい?」
「そうですね。水や土地については、都市を造るほどのキャパシティは無いですけど、その程度であれば十分利用価値はあるでしょうね」
「ゲルズの重力は約二Gあるけど、この衛星に帰ってきたら〇.八G。仕事も終わって、身も軽くなってということだにゃあ」
「そうですね。その重力差への人体への影響は少なからずあるかもしれませんね」
「それじゃあ、船長。とっとと探査を終えてしまおうぜ」
「そうしましょう」
カーラとサーニャが、アルヴァック号から運んできた検査機器を操作して、大気、地中、河川、海からサンプルを取り込み、様々な検査を行っていた。
一方、シャミルはあちこちと移動しながら、手に持った小型ビデオカメラで、映像記録を撮っていた。
「船長。この地点の探査は終わったぜ」
カーラが検査機器を片付けながらシャミルに言った。
「ご苦労様。それじゃ、次の地点に行きましょうか」
シャミル達が移動しかけた時、左腕に付けた小型情報端末から呼び出し音が鳴り、通話状態にすると、アルヴァック号の索敵係の緊張した声が響いた。
「上空から飛行物体が降下して来ています! 当船からの呼び掛けに返信がありません!」




