Scene:06 女狼メルザ(3)
シャミルが、先に「気まぐれなキス」に行って、二人掛けの丸いテーブルに座り待っていると、待ち合わせの時間ぴったりに、キャミルがいつもの軍服のまま入って来た。
すぐにシャミルを見つけると、シャミルの前の椅子に座った。
「待たせて申し訳ない」
「いいえ、ちょうど約束の時間です」
シャミルは、久しぶりにキャミルに会えた嬉しさで、自然に満面の笑みになっていた。
「休暇中なのに軍服なのですか?」
「休暇中と言っても、寄港先であり、いつ、また緊急招集が掛かるかもしれないからな」
「大変ですね」
「シャミルほどではないさ。シャミルはこれからどこに行くんだ?」
「アスガルドの探検家ギルドで新しい依頼を受けたばかりなんですけど、惑星フレキⅣの衛星が居住可能かもしれないということで、そこの探査に行く予定にしています」
「フレキⅣ……。フレキ空域か?」
キャミルの顔が少し曇った。
「ええ、そうですよ」
「そうか。……シャミル、気をつけて行ってきてくれ」
「あっ、ひょっとして海賊が多く出没しているってことですか?」
「ああ、そうだ。良く知っているな。まだ、それほど、広く知らせていないはずだが?」
「それが……、ふふふふ」
「何だ? 何か良いことでもあったのか?」
「実は、昔、父上と一緒に航海をしていたという人と会ったんです。その人が、フレキ空域には海賊が多く出没しているってことを教えてくれたんです」
「父親と一緒に航海をしていた人? 探検家の人か?」
「いいえ、海賊って言ってましたよ」
「海賊か。…………海賊だって!」
シャミルが、何の緊張感もなく「海賊」と言ったことから、キャミルも聞き流していたようだ。
「自分で海賊だと名乗ったのか?」
「ええ、『女狼のメルザ』って言ってました」
「女狼のメルザだって! シャミル、女狼のメルザを知らないのか?」
「もちろん知ってますよ。探検家ギルドが出している要注意海賊データベースの筆頭に出ていますから」
「だったら、どうして、すぐに捕まえなかった?」
「私なんかが捕まえられるような人ではありませんでした。まったく隙がなくて、私が打ち込んでいっても、逆にやられていたはずです。それに、通報をすることも不可能だったと思います」
「そうなのか?」
「はい。それに、……そんなに酷い人だとは思えませんでした」
シャミルは、メルザの顔を思い出した。その目に狂気は感じ取れなかった。
「それは、父親と一緒に航海していたということだけで、良い人だと思い込んでしまったのではないか?」
「そんなことはないと思いますけど……」
確かに、贔屓目で見ていないと断言できるかと言われると、少し自信がなくなってきたシャミルであった。
「しかし、私達の父親は本当に探検家だったのか? 女狼のメルザと知り合いだったなんて……」
「私は、探検家だと信じています」
「……そうか」
「キャミル。メルザさんのことで訊きたいんですけど」
「シャミル。海賊に『さん』付けは不要だ。……と言っても、シャミルのことだから、すぐには直らないだろうが」
「はい。ごめんなさい」
「別にシャミルを責めている訳ではない。……ま、まあ、それはおいといて、何だ、訊きたいこととは?」
「メルザさんは、いつ頃から海賊をしているんですか?」
「はあ?」
「つまり、え~と、……賞金首になったのはいつですか? 要注意海賊データベースでもそこまでは登載されていなかったものですから」
「確か、三年ほど前だったと思うが……。それがどうしたんだ?」
「父上が音信不通になったのは四年前です。ということは、父上が行方不明になってから、メルザさんは海賊になったということです」
「そうなるな」
「さっき、キャミルが言ったことは、父上も本当は探検家ではなく海賊をやっていたのではないかという意味でしょう?」
「ああ。……まあ、そうだが」
「実は、私もちょっと自信がなくなってしまったのですけど、少なくとも、メルザさんは父上と別れてから海賊になった可能性が高いといえるのかなって思って、ちょっと安心したのです」
「そ、そうだな」
キャミルは、何気ない言葉で父親のことが大好きなシャミルを傷付けてしまったかもしれないと心配になったようだが、シャミルは、そんなキャミルの気持ちが何となく伝わってきて話題を変えた。




