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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー03 命を賭して守るべきもの
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Scene:06 女狼メルザ(2)

 カーラは、係留けいりゅうさせているアルヴァック号の近くにエアカーを止めると、後ろを振り向いて言った。

「船長。船長は先に降りときなよ。色々と準備もあるだろうだからさ。アタイとサーニャは、このエアカーを返して、今晩のつまみを買ってから帰るよ」

「そう、……ありがとう。それじゃあ、お先に」

 シャミルが一人、エアカーから降りると、エアカーは、第二宇宙港近くのレンタカー会社に向けて走り去って行った。

 シャミルがアルヴァック号に向けて歩いて行くと、一人の女性がアルヴァック号の船首付近に立って、その船名が書かれている所をあおぎ見ているのに気づいた。

 女性としては身長が高く、そのプロポーションも目を見張るものがあり、紫色の髪は、大きなウェーブを描きながら背中の中程なかほどにまで伸びていた。そして、白いシャツの上に黒いロングコートのような服を羽織はおって、幅広の黒いベルトには銃と剣がぶら下がっていた。下半身はぴっちりとした白いズボンに濃い茶色のブーツを履いていた。大きく開いたシャツの胸元からは、窮屈きゅうくつそうなバストが見えていた。

 シャミルが近づいて行くと、女性は、視線をアルヴァック号からシャミルに向けた。シャミルから見ても、目を見張るほどの美人で、色白な肌に切れ長の目、瞳はサファイヤブルーに輝き、通った鼻筋の下には薄い唇が冷笑しているかのように見えた。

「こんにちは。この船に何かご用でしょうか?」

 シャミルもいつもの笑顔で女性に訊いた。

「あんたは? この船の乗組員かい?」

「あっ、はい。あの、この船の船長をしてます」

「あんたがアルヴァック号の船長だって?」

 船名がボディに書かれているとはいえ、女性が「この船」と言わず「アルヴァック号」と言ったことに、シャミルは違和感を覚えた。

「あの、ひょっとして、このアルヴァック号を以前にご覧になったことがあるのですか?」

 自分の父親が乗っていた船であるから、ひょっとしたら、この女性は、その時のアルヴァック号を見ているのでは、そして、父親のことを知っている人間ではないかと、シャミルは期待をした。

「あるよ。この船に私は乗っていたのさ」

「えっ! 本当ですか?」

 シャミルの余りの驚きように、女性も少し驚いていた。

「そんなにびっくりしなくても良いじゃないか。それより、あんた、この船をどこで手に入れたんだい? どこかの中古船市場に出ていたのかい?」

「いいえ。これは、私の父親が乗っていた船で、私が受け継いだものです」

「えっ!」

 今度は、女性の方が相当驚いていた。

「あんた、名前は?」

「シャミル・パレ・クルスと言います」

「シャミル・……パレ・クルス」

 女性は、シャミルの顔をじっと見つめながら、シャミルの名をつぶやいた。

「あの、あなたは?」

 女性はふとわれに返ったように、視線をシャミルに戻した。

「ああ、そうだったね。まだ名乗ってなかったね。私は、メルザ・シグルッドと言うんだよ」

「メルザさんですか。……あの、私の父上と一緒に航海されていたということでしょうか?」

「あんたの父親って、何て名なんだい?」

「ジョセフ・パレ・クルスと言います」

「ジョセフ・……パレ・クルス。……そうかい」

「あの、私の父上と一緒に……」

「ああ、そうだよ。ジョセフと一緒に航海をしていたよ」

 自分の母親以外に父親のことを知っている人間と初めて会ったシャミルは、嬉しさのあまり、飛び跳ねながら、メルザに言った。

「あの、あの、メルザさん。もし、時間があれば、アルヴァック号の中でお話をさせていただくことはできませんか?」

「残念ながら、今日はこれからすぐに行かなきゃいけないところがあってね」

「そうですかぁ~」

 一気いっき意気消沈いきしょうちんしたシャミルを見て、メルザは、微笑みながら近づいて来た。

「シャミルさん、ちょっと顔を見せておくれよ」

 そう言うと、メルザは少し前屈まえかがみになって、シャミルの顔に自分の顔を近づけて来た。

 吐息といきが掛かるほど近くにメルザの顔が近づいて来たが、顔をそむけることを忘れるくらいに、美しい顔立ちだった。

 しばらく、シャミルの顔を近くで見つめていたメルザは、満足げに微笑みながら顔を遠ざけた。

「その目……。間違いないね」

「あ、あの、メルザさん。今日、お話できないのなら、後日、ぜひお会いしたいのですが。連絡先をお訊かせいただくことはできないでしょうか?」

「それより、アルヴァック号に乗っているということは、あんたも探検家なのかい?」

「はい」

「これから探検に行く所は決まっているのかい?」

「はい。これからフレキ空域に行く予定にしています」

「フレキ空域。……そうかい。今、フレキ空域には海賊が多く出没しているようだから、気をつけなよ」

「そうなのですか?」

「ああ、私もこれからフレキ空域に向かう予定なんだよ。残念ながら、連絡先を教えてあげることはできないけど、あんたとは必ず会えるさ」

「メルザさんも探検家なのですか?」

「私かい? 私は海賊さ。あんたも、とっくに気づいていただろう?」

「……」

「ふふふふ。私以外の海賊につかまるんじゃないよ。それじゃあね」

 メルザは、そう言って振り返り、後ろ姿で手を振りながら、少し離れた所に停めていたエアカーに向かって歩いて行った。その背中に向かってシャミルは言った。

「メルザさん! 本当に、本当に会えるのですか?」

「ふふふふ。面白い子だね。私は海賊って言っただろう? 『女狼めろうのメルザ』で調べてみな。ねらった獲物は逃がさないからね」

 メルザは、振り向くことなく話すと、エアカーに乗り込んで、去って行ってしまった。

 父親を知っている人物に会ったことで、頭の中が一杯だったシャミルは、しばらく経ってから、メルザの言葉が頭の中に入ってきた。

「……ねらった獲物?」


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