Scene:06 女狼メルザ(1)
依頼主に対する惑星探査の結果報告を終えたシャミル達は、アスガルド第二宇宙港に向かっていた。
大手民間旅客会社が運行する恒星間旅客定期便がひっきりなしに発着する第一宇宙港の隣に併設された第二宇宙港は、探検船や商船、クルーザーのような個人用宇宙船などが係留されるハーバーを兼ねた、旅客用以外の宇宙船が発着する宇宙港である。
カーラが運転するレンタル・エアカーには、助手席にサーニャが、後部座席にシャミルが座っていた。
シャミルは、エアカーの窓越しに何気なく見ていた第二宇宙港のターミナルビルの向こうに、威容を誇っている巨大な黒い球を見つけた。直径二千メートルを超えるギャラクシー級戦艦は、手前にあるターミナルビルを模型の建物のように見せていた。
アスガルドのすぐ近くには、軍事の中心であるスヴァルトヘイムが控えていることから、アスガルド自体には宇宙軍の基地はなく、宇宙軍の戦闘艦も、アスガルドに着陸する時には、この第二宇宙港を利用していた。
「キャミルだわ!」
この距離では、その船体に記載されている師団章と船名は判別できなかったが、見慣れた船体は、紛れもなく、それがアルスヴィッドであることを示していた。
しかし、「アルスヴィッド」という船名ではなく、「キャミル」の名前が出たことがおかしかったようで、カーラとサーニャも思わず笑ってしまっていた。
シャミルは、すぐに左手首に付けた多機能端末で、シャミルの携帯通信端末を呼び出した。
「まだ、任務中じゃないのかい?」
カーラの予想に反して、すぐにキャミルが出た。
「どうした、シャミル?」
「何か用事がないと連絡してはいけないのですか?」
シャミルが、ちょっと拗ねたように言うと、通信機の向こうのキャミルは少し慌てているように返事を返してきた。
「い、いや、そう言う訳ではない。シャミルは、いつでも連絡してもらって良い」
「ふふふふ。キャミルは今、アスガルドにいるのですか?」
「ああ。近くの空域で任務を終了した後、一日だけ休暇をもらったので、アスガルドに寄ったんだ。スヴァルトヘイムには、乗組員達の娯楽施設があまりないからな」
「今、休暇中なのですか?」
「ああ、そうだ」
「もう! どうして私に連絡をしてくれないんですか!」
通信機の向こうのキャミルが、汗をかいている様子が浮かぶようだった。
「い、いや、シャミルも忙しいと思って……」
「キャミルが休みの時には、惑星探査を途中で放り出しても会いに行きますよ」
エアカーの前の座席で、カーラとサーニャが「おいおい」と呟いた。
「でも今日は、私もアスガルドに来ていて、ちょうど、お仕事も終わったところなんです。キャミル、これからどこかで会えますか?」
「ああ、大丈夫だ。今、どこにいるんだ?」
「第二宇宙港に向かっています」
「私は、まだ、アルスヴィッドにいる。……そうだな、午後四時頃であれば、確実に外に出られると思う」
「今、午後二時ですから、……それでは、第二宇宙港のターミナルビルの中に『気まぐれなキス』という可愛い名前の喫茶店があります。そこで、午後四時に待ち合わせでいかがですか?」
「分かった」
「キャミル、遅れないでくださいよ」
「わ、分かっている。それでは『気まぐれなキス』で」
「はい」
通信機を切ったシャミルは、上機嫌で、前の座席のカーラとサーニャに話し掛けた。
「カーラとサーニャはどうします? 一緒に行きますか?」
「遠慮しとくよ。どうせ、お邪魔虫だろうからな」
姉妹水入らずの時間を邪魔するつもりはないカーラが言うと、サーニャもうなづいた。
「えっ、そんなことはないことはない……ですけど」
「相変わらず嘘が下手だな、船長は」
「本当だにゃあ」
「そ、そうですか? ……よ~し! もっと大人の駆け引きができる女になれるように頑張ります!」
「良いよ、船長は今のままで」
「そうだにゃあ」
「そ、そうですかぁ」
何だか、それは無理と言われたみたいで、ちょっと落ち込んだシャミルであった。




