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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー03 命を賭して守るべきもの
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Scene:04 回想――初めての惑星探査――(3)

 シャミルが慌ててカーラのそばに駆け寄ろうとしたその時、カーラは両足首を後ろから誰かにつかまれて引っ張られたように、万歳ばんざいをしている体勢で、うつぶせに倒れながら、後ろに引きずられて行った。

 素早くカーラの元に駆け寄ったシャミルは、カーラが伸ばしていた右手をつかんで、綱引きのように全体重を後ろに掛けた。カーラが引っ張られるのは一瞬、止まったように思えたが、ずるずるとシャミルともどもカーラの足元に向かって、少しずつ引っ張られていた。

「カーラ!」

 少し遅れて、サーニャが駆け付け、カーラの左手をつかんで、シャミルと同じように引っ張った。カーラが引っ張られる速度は更に遅くなったが、まだ引っ張られる力の方が強かった。

 カーラの足元は、景色が不規則な渦巻き模様に乱れていて、カーラの膝から下が、その渦巻きに吸い込まれてしまっているように、消えて見えなくなっていた。

 頭の上に伸ばしたカーラの両腕を、シャミルとサーニャがそれぞれ持って、歯を食いしばり、力を込めて引っ張っていたが、じりじりとカーラと一緒に引っ張られていた。

「あんた達! 手を離しな! このままじゃ、あんた達も一緒に吸い込まれちまうよ!」

 うつぶせになっている状態のカーラが顔を上げて、シャミル達に叫んだ。

「何を言っているんですか! そんなことができる訳ないじゃないですか!」

 シャミルは、怒ったようにカーラに言った。

「あんたこそ何言ってるんだい? あんたはアタイと一緒に死んでしまう義理はないよ! これから探検家として一花ひとはな咲かせるんだろう。こんな所で死ぬ訳にいかないんだろう!」

「仲間を見殺しにしておいて、自分だけ生還をするような探検家になりたいとは思いません!」

「ウチも離さないにゃあ!」

「あ、あんたら……」

 しかし、そう言っているうちにも、既にカーラの太股辺ふとももあたりまで消えかかっていた。

 シャミルは、その時、カーラがベルトの右側に付けていた簡易酸素ボンベに気がつき、一縷いちるの望みを掛けて、迷うことなく行動に出た。

 シャミルは、左手でコト・クレールを抜き、逆手さかてで持つと、カーラの腕を放して、うつぶせになりながら、足から時空の割れ目に自ら飛び込んだ。

 シャミルの手が放れて少しだけ引き込まれる速度が上がったカーラの横を、滑るように引き込まれて行ったシャミルは、コト・クレールをカーラのベルトに装着されていた簡易酸素ボンベに突き刺した。

 大きな爆発音をとともに、破裂したボンベから超高密度に圧縮されていた酸素が一気に吹き出し、三人は、時空の割れ目の反対側に向けて吹き飛ばされた。

 十メートルほど先の草原に落ちて、地面に体を打ち付けられたカーラだったが、すぐに立ち上がって、近くに倒れていたシャミルの元に駆け寄った。

「船長!」

 カーラが、シャミルの上半身を抱え起こしながら、シャミルの体を揺らすと、シャミルは、すぐに目を開けてつぶやいた。

「カーラさん。……良かった」

「船長! 大丈夫かい?」

「ええ。……それより、サーニャさんは?」

 シャミルはそう言うと立ち上がって、あたりを見渡した。

 カーラも、サーニャの存在を忘れていたみたいに「あっ!」と言った後、あたりを見渡した。

「お~い」

 サーニャの声がした。しかし、シャミルとカーラがあたりを見渡してもサーニャの姿は見当たらなかった。

「ここだにゃあ~」

 シャミルとカーラは、上の方からサーニャの声がしていることに気がつき、あおぎ見てみると、三メートルほど上にある木の枝にローブを引っ掛けて、ぶら下がっているサーニャを見つけた。

「ははははは」

 カーラは、サーニャを指差しながら大声で笑った。

「何がおかしいにゃあ!」

「悪い悪い、でも、何かさあ……。はははは」

「笑ってないで、早く助けるにゃあ!」

「分かったよ。待ってな」

 カーラはそう言うと、サーニャがぶら下がっている木の幹に抱きつくと、雄叫おたけびを上げながら、全身に力を込めて、木を揺らした。

 振り子のように揺れたサーニャはすぐに枝から落ちたが、猫属から進化したミミル族のサーニャはくるりと回転しながら、難なく地上に舞い降りた。

「助かったにゃあ」

 シャミルもカーラとサーニャのそばに歩み寄った。

「みんな、無事で良かったです」

 その言葉を聞いて、カーラはシャミルとサーニャに頭を下げた。

「船長。本当にありがとう。あんたはアタイの命の恩人だ」

「カーラさん。頭を上げてください。私は、カーラさんに恩を売った覚えはありません。だって、私がカーラさんを見捨てていたら、私は船乗りを簡単に見捨てる薄情はくじょうな船長という烙印らくいんを押されてしまいます。そんな船長の下でなんて働きたくないって、誰だって思いますから、今のアルヴァック号のスタッフもみんな辞めてしまうでしょう。そうなったら、私は探検家を続けることができません。私は自分のために動いただけなんです」

 真剣な顔をして話したシャミルの顔を見つめていたカーラは、今にも吹き出しそうな顔に変わった。

「……へっ、へへ。船長。あんた、嘘が下手だねえ。そんな理屈、誰が信じるんだよ」

「あれっ、そうですか? 自分では良い台詞せりふだなあって自己陶酔じことうすいしてたんですけど」

「ぷっ、……ぷはははは。何だい、そりゃあ。面白れえ~」

陶酔とうすいするどころか、痛い台詞せりふだにゃあ」

「そ、そんなあ~。本気でそう思っていたんですけどぉ~」

 カーラとサーニャは、困ったような顔をしたシャミルを見て、更に腹を抱えて笑い転げていた。

「まったく、あんたのそばにいると退屈しねえな」

「本当だにゃあ。頭が良いのか抜けているのか、時々、分からなくなるにゃあ」

「まあ、紙一重って言うからな」

「どういう意味ですか!」

 シャミルは、ちょっとほほふくらませてカーラとサーニャをにらんだが、大笑いする二人を見て、何故だか自分でもこらえきれなくなり、一緒になって笑い転げてしまった。

 誰もいない惑星で笑い転げる三人を、湖畔こはんで水を飲んでいた馬のような動物達が物珍しそうな目で見つめていた。


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