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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー03 命を賭して守るべきもの
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Scene:04 回想――初めての惑星探査――(1)

 惑星グリンブルスⅥを含むグリンブルス恒星系には、今まで何隻かの探検船が足を踏み入れていたが、まだ帰還してきた船は一隻もなかった。その原因はまったく不明で、失踪した探検船は何の連絡もよこさずに、突然、音信不通となり、そのまま行方不明になっていた。

 空間異常があり、時空の狭間はざまに迷い込んでしまったからではないかという説を採る船乗り達からは「魔の空域」と呼ばれ、グリンブルスⅥには既に海賊達が根城ねじろとして植民しており、そこを拠点とする海賊達に襲われているという説を採る船乗り達からは「トルトゥーガ空域」と呼ばれていた。

 その空域にアルヴァック号はいた。

 アルヴァック号の艦橋かんきょうでは、シャミルが船長席に座って、船長席のすぐ前の両脇に副官席として設置されている二つの席にカーラとにサーニャが座り、その前には、航海士、通信士、レーダー担当の三名がコントロールパネルを前に並んでいた。アルヴァック号には、この六名の艦橋かんきょうスタッフの他には、エンジンのメンテナンスや調整をする機関長と機関士、乗組員の食事を担当する司厨長しちゅうちょう、看護師資格を持っており乗組員の健康管理をするとともに掃除洗濯といった雑用を担当する者の総勢十名の乗組員がいた。

 これらのスタッフも、最初こそ、年端としはもいかぬ少女であるシャミルの下で働くことに不安を覚えていたようだった。しかし、シャミルが連邦アカデミーを飛び級かつ首席で卒業していることを、シャミル自身は積極的に明らかにしなかったが、そんな評判が人口に膾炙かいしゃされない訳がなく、また、実際にシャミルがくだす指示は、いつも迅速かつ正確であったことから、今では、全員がシャミルを船長として認め、かつ信頼していた。

 そして、シャミルの温厚な性格とその丁寧ていねいな話し言葉は、年上のスタッフ達の自尊心を傷付けることなく、シャミルに忠誠を誓わせていた。今回、最初の惑星探査の航海の行き先にグリンブルスⅥを選んだときも、スタッフからは反対の声は上がらなかった。

 カーラとサーニャも、シャミルの人となりを知って、シャミルに一目いちもく置くようになり、また、アルヴァック号のスタッフ達の中に、あっという間に溶け込んでいた。

 航海は順調であった。グリンブルス恒星系の空域に入ってからも、特段の異常を示す状況は何も無かった。

「レーダー反応はいかがですか?」

「現在、半径一AU内に飛行物体はありません」

 索敵さくてき担当スタッフがヴァルプニール・レーダーシステムを見ながら即座に答えた。

「空間異常とか重力異常は探知できませんか?」

「強力な重力場も、空間のゆがみも無いにゃあ」

 今度は、サーニャが半径十AU内の空間構造を調査する機器を操作しながら答えた。

「グリンブルスⅥに着くまでに、特段の支障となるような状況は、今のところ見当たりませんね」

 シャミルは、カーラを見ながら言った。

「ああ。このまま順調に行けば良いけどな」

「そうですね。でも、ちょっと拍子抜ひょうしぬけです」

 そうしているうちに、アルヴァック号の艦橋かんきょうモニターでも、居住可能惑星に共通した外観である青く輝く大気圏におおわれた地表に浮かぶ白い雲の隙間すきまから、大洋と大陸の形が判別できるほどに、グリンブルスⅥに近づいていた。

「どの居住可能惑星も、漆黒しっこくの闇に浮かぶ青い宝石のようで美しいですね。ずっと眺めていたいくらいです」

「しかし、その外見からは思いも寄らないような危険がひそんでいるかもしれないよ」

「……そうですね」

 シャミルは、カーラの言葉に、今一度、気を引き締めて、大気圏に突入してからは、アルヴァック号の進行速度を、通常の大気圏内航行速度の約半分に落とさせた。

 艦橋かんきょうモニターに徐々に大きく映し出されるグリンブルスⅥを見つめていたシャミルは、ほんの一瞬であったが、まるでモニターの故障のように、映像が少し乱れたことに気がついた。そして、それを口にしようとした瞬間、椅子にしがみつかなければ床に放り出されかねなかったほど、アルヴァック号は大きく揺れた。

 体勢を直したシャミルが艦橋かんきょうモニターに注目すると、モニターに映し出されたグリンブルスⅥの景色が、右から左にすごいスピードで流れていた。アルヴァック号は、直進していたエンジンの推進力を打ち消されてしまって、進行方向に向かって右横から、見えない何かの力で引っ張られているみたいに、右斜めに移動していた。

「四十八−〇二−〇五に転進! エンジン全開!」

 シャミルは、すかさず方向転換の指示を出し、引かれている方向を背にして、全力で離れるようにした。

 進行方向は難なく変わったが、その後は、まるで見えない鎖でつながっているかのように、アルヴァック号はその場に留まって、グリンブルスⅥ上空に浮かんだままであった。目に見えないアルヴァック号を引く力と、アルヴァック号の推進力が均衡きんこうしているようであった。

 艦橋かんきょうの後方モニターでは、グリンブルスⅥの映像が渦を巻いているように乱れているのが確認できた。

「あれは一体?」

 カーラが誰にともなく訊くと、シャミルが即座に答えた。

「小型のブラックホールのようなものではないかと思われますね。あの部分で空間がゆがみ、割れ目ができていて、まるで空気が漏れるように吸い込まれているのでしょう」

「でも、今まで空間のゆがみは観測できなかったにゃあ!」

 今は、けたたましく警報音を鳴らしている空間構造を検査する機器を観測していたサーニャが言った。

「その警報は、アルヴァック号が揺れてから鳴り始めました。あの時空の割れ目は、突然、現れたのでしょう」

「そんなことより、今はこの危機的状況からどうやって抜け出すのかを考えるべきだろう!」

 カーラの言うとおり、アルヴァック号のエンジン推進力と時空の割れ目の吸引力との均衡きんこうが少しでも崩れると、アルヴァック号は一気に吸い込まれてしまうだろう。

「もっとパワーは出ないのかい?」

「これ以上は無理です!」

 カーラの問いに航海士が答えた。

 しかし、シャミルは、慌てふためくことなく、船長席に備え付けの船内無線機を取り上げ、機関室に指示を出した。

「リミッターを解除してください!」


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