Scene:03 回想――出会い――(3)
三人は、先ほどの依頼斡旋コーナーに戻り、今度は、一つのブースに三人が座り、依頼内容を確認していった。
シャミルが次々に画面を切り替えて、依頼内容を表示させると、カーラとサーニャは、労力に比して報酬が安いだのと色々と文句を言い、なかなか決まらなかった。
そのうち、先ほど、カーラが「魔の空域」と言った依頼内容が画面に表示された。
「ああ駄目駄目。これは駄目だ」
カーラが即座に否定した。
シャミルがその依頼を再度じっくり見てみると、探査対象は、グリンブルス恒星系第六惑星グリンブルスⅥとされていた。
連邦領土空域内外にある恒星は、望遠鏡などの天文学的観測や、探検家達の視認により発見された都度、惑星開発省に届出がされ、そこで個別名が付される。
一方、惑星については、優先利用権取得の届出が出されて、それが認められると、その権利者が必要に応じて惑星開発省に届出をすることにより、個別名が付され、それまでは恒星名に惑星順位を付した名前で呼ばれることとなっている。つまり、グリンブルスⅥも、シャミル達の探査の結果、依頼主が優先利用権をそのまま維持するだけの価値がある惑星だと判断をして、届出をすれば、個別名を持つ惑星になるということである。
「カーラさん。先ほど『魔の空域』っておっしゃっていましたが、『魔の空域』って何なんですか?」
「その惑星がある空域で、探検船が何隻も行方不明になっているんだよ」
「どうしてでしょう?」
「行方不明になって帰って来た船はいないから、はっきりとした原因は分からないけど、海賊にやられたんじゃないかとか、空間の歪みがあって異次元に飛ばされてしまったのではないかとか、色々と噂はあるけどねえ」
「そうなのですか」
「そんな危険な空域にある惑星探査だから、これほど高額な報酬でも依頼を受ける奴がいないんだろう。誰だって命は惜しいからねえ」
「そんな危険を冒してでも探査をすべき理由が、この惑星にはあるのでしょうか?」
「居住可能惑星だとすれば、その報酬の何百倍の利益が転がってくるんだ。普通の商人なら、せっかく確保した優先利用権を金に換えたいと思うだろうからな」
グリンブルスⅥは、望遠鏡観測によるデータでは、居住可能惑星である可能性が高いとされていた。実際に探査をして居住可能であることが確認できれば、優先利用権を持つ依頼主は、新たな開拓惑星として移住する連邦市民に、惑星上の土地を分譲販売することで莫大な利益を得ることができる。多少、探査費用を上乗せしても、何倍もの見返りが期待できるのだ。
左手で右の肘を抱え込みながら、右手で頬杖をつくようなポーズで、しばらく考えていたシャミルは、カーラとサーニャを見渡しながら言った。
「……この依頼を受けてみませんか?」
「ちょいと! アタイの話を聞いてなかったのかい? 最初の探検航海が最後の航海になっちまうなんて洒落にならねえだろう!」
「そうですね。そんなことになったら、ちょっと残念ですね。でも、そういう所に行くからこそ、探検家と胸を張って言えるのではないでしょうか?」
「えっ?」
「誰も降り立っていない惑星に降り立って探査をすることも勇気が必要ですが、誰も行きたがらない所に行って、そこにある不安という霧を晴らすということこそ、探検家らしい仕事だと思いませんか?」
「まあ、そりゃあ、そうだけどさ……」
「私、この依頼を受けてみようと思います」
「えっ?」
「カーラさんとサーニャさんに危険な航海のお付き合いをしていただく訳にはいけませんから、今回は、私だけで行ってきます」
「あんた……」
「大丈夫です。危険だと感じたら、すぐに逃げ帰って来ますから」
まだ、探検航海の危険を実際に経験していないから言える台詞かもしれなかった。
しかし、シャミルには、目の前にぶら下がっている誰も行って帰って来たことがない空域と惑星を自分の目で確かめることができるという誘惑に打ち勝つことはできなかったし、これから探検家として生きる自分の決意を、後戻りできない形で明らかにしておきたかった。
危険な航海に臨もうとしているのに、悲壮感を微塵も見せずに、むしろ期待と自ら課した使命感とに、何故か嬉しくなったシャミルの笑顔に、戸惑った表情を見せていたカーラとサーニャだったが、しばらくすると、サーニャが笑いながら言った。
「本当に面白い人だにゃあ。何だか一緒に航海していると楽しそうだにゃあ」
「サーニャ?」
「決めたにゃあ! ウチはこの人の船に乗って行くにゃあ!」
「お、おい。本気か?」
「本気だにゃあ。今のままでいたって仕方が無いにゃあ。この人に賭けてみるにゃあ」
「サーニャさん」
「……わ、分かった! サーニャが行くんならアタイも行くよ。サーニャに置いて行かれて後悔したくないからな」
「カーラさん」
「とにかく、今回の航海は、あんたの船を使うんだから、あんたが船長だ」
「ウチらが特別顧問ってところだにゃあ」
「……それでは一緒に行っていただけるのですね?」
「しゃーねえだろ。もう約束しちまったからな」
「しゃーねえにゃあ」
「お二人とも……。どうか、よろしくお願いします」
シャミルは嬉しくなって、ニコニコと笑いながら、二人に頭を下げた。




