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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー03 命を賭して守るべきもの
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Scene:03 回想――出会い――(1)

 探検家ギルドとは、個人事業者である探検家達を構成員とする、連邦で唯一の互助会ごじょかい的な組織であり、ギルドに会員登録を行った探検家は、月々の会費を払い込むことによって、福利厚生事業ふくりこうせいじぎょうや探査依頼の斡旋あっせんなど、様々(さまざま)なサービスを受けることができた。

 探検家ギルドの本部はアスガルドにあり、人口規模の大きな約百箇所(かしょ)の惑星に支所が設置されていた。

 当然、テラにも支所があり、そこで会員登録や斡旋あっせんサービスを受けることができたが、シャミルは、アルヴァック号の新しいエンジンの試運転と、新たに雇用したスタッフの航海技術の習熟度しゅうじゅくどを確認するため、テラからアスガルドに向けて、新生アルヴァック号の処女航海を行うことにあわせて、せっかくの門出かどででもあるからと、アスガルドの探検家ギルド本部で登録手続を行うこととした。

 テラを出発したアルヴァック号の航海は順調に行われ、予定どおりにアスガルドに到着したシャミルは、いつでも探検航海に出ることができるという自信を持つことができた。

 アスガルドの探検家ギルド本部におもむいたシャミルは、そこで会員登録をして、早速さっそく、惑星探査依頼の斡旋あっせんコーナーに行ってみた。

 仕切りが付いた各ブースに一つずつ端末が設置され、自分でその端末を操作して、オンラインで連邦内共通の依頼データを閲覧することができるようになっており、依頼データには、探査をすべき惑星データの他、依頼主、依頼発注日、依頼締め切り日、報酬金額などが掲載されていた。

 端末を操作して、色々とデータを眺めていたシャミルは、他の依頼より倍近く高額の報酬金額が呈示ていじされている依頼データを見つけた。しかも、その依頼発注日は六か月以上前であり、何か訳ありの依頼のようだった。

 シャミルは、その依頼データが気になって、ギルドの係員に詳細を訊こうとしたが、依頼斡旋(あっせん)コーナーのカウンターの中には誰も人がいなかったことから、ちょうど、隣のブースで閲覧をしていた、体の大きな女性に訊いてみようと話し掛けた。

「ちょっと、すみません」

「あ~ん、何だい?」

 面倒臭めんどうくさそうに、仕切りから顔を出した女性は、薄緑色うすみどりいろちぢれたショートヘアにやや赤みがかった肌の筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の女性だった。

「バウギの方ですか?」

 シャミルの脳内データベースがその女性の種族名について素早すばやく答えを出した。

「ああ、そうだよ。珍しいかい? そういうあんたはテラ族だね?」

「はい」

 その時、その大柄おおがらな女性の更に隣のブースにいた人物が顔をのぞかせながら、その女性に話し掛けた。

「カーラ。何か良いのは見つかったかにゃあ?」

 顔を見せた人物は、小柄こがらな女性で、茶色のロングヘアから猫耳が出ていた。

「良いのは無いねえ」

 カーラと呼ばれた女性は、その猫耳の女性の方に振り返りながら言った。

「分かったにゃあ。もう、ちょっと探してみるにゃあ」

 猫耳の女性はそう言うと、また自分のブースの奥に向かって座り直り、端末を操作しだしたようだ。

 カーラと呼ばれた女性も、シャミルから話し掛けられたことを忘れてしまったようで、自分の前の端末に向き直り、操作を始めた。

「あの~」

 シャミルは、もう一度、カーラと呼ばれた女性に話し掛けた。

「あ~ん、何だい?」

 やっぱり、面倒臭めんどうくさそうに女性は、仕切りから顔を覗かせた。

「すみません、ちょっとお訊きしたいことがあるのですが?」

「だから、何だい?」

「この依頼は、どうしてこんなに報酬が高いのですか?」

 シャミルは自分のブースの端末の画面を指差しながら、カーラと呼ばれた女性に訊いた。

「どれどれ」

 面倒臭めんどうくさそうな顔をしながらも、女性はシャミルのブースに入って来て、シャミルが見ていた端末の画面をのぞき込んだ。

「……行き先を見たのかい?」

「行き先?」

「そうだよ。……あんた、知らないのかい? 本当に探検家なのかい?」

「あ、あの、……今日からです」

「えっ! ……へえ、そうかい。それなら、先輩として忠告しとくよ。その依頼は止めときな」

「どうしてですか?」

「そこは『魔の空域』って呼ばれている所だ。命がしかったら、依頼を受けない方が身のためだよ」

「『魔の空域』ですか。……何だか面白そうですね」

「ちょいと! 遊園地のアトラクションじゃないんだからさ。探検航海はお遊びじゃないよ!」

「あっ、ごめんなさい。茶化ちゃかすつもりではなかったのです。ご気分を害されたのならおびいたします」

 シャミルが女性に少し頭を下げると、女性もすぐに機嫌を直したようだ。

「いや、そういう訳じゃなくて、あんたのことを心配して言っているんだよ」

「はい。ご忠告ありがとうございます」

 今度は、丁寧ていねいに女性に対してお辞儀じぎをしたシャミルに対して、女性も、ちょっときつく言い過ぎたかと思ったのか、優しい顔つきでシャミルに言った。

「まあ、分かってくれたら良いって」

 シャミルは、その女性に何となく話しやすそうな雰囲気を感じて、探検家の先輩として色々と話を聞こうと考えた。

「あの、失礼ですが、あなたは、もう何回も探検航海に出られているんですか?」

「まあ、そうだね」

「そうですか。私は先ほども言いましたけど、探検家に成り立てで、最初の惑星探査の依頼を探しに来ているのです。よろしければ色々と参考になるお話をお聞かせいただきたいのですが……」

「そうだね……」

 しばし考えて、女性は、シャミルと反対側のブースにいた猫耳の女性を呼んだ。

「おい、サーニャ!」

「何だにゃあ?」

 サーニャと呼ばれた女性は、ブースからちょこんと顔を出して、カーラと呼ばれた女性を見つめると、カーラと呼ばれた女性は、肩越かたごしに親指でシャミルを指差しながら、サーニャと呼ばれた女性に言った。

「この子は今日、探検家デビューなんだってさ。それで、アタイ達の輝かしい探検航海の話を聞きたいんだとよ。話してやるか?」

「良いけど……、お腹が減ったにゃあ」

「ああ、そうだな。そういや、今日は朝飯も食ってなかったなあ」

 凸凹コンビは、愛想笑あいそわらいを浮かべながら、シャミルを見つめた。

「あ、あの、……そうですね。こんな所でお話できる訳ありませんよね。それでは、この建物の中にレストランがあるみたいですけど、そこでお話させていただいてよろしいですか?」

「おお、良いぜ。しかし、アタイ達はあいにく持ち合わせが無くてさあ」

「あ、あの、私がお願いしたのですから、私が出させていただきます」

「そうかい。何か悪いねえ、無理矢理(おご)らせるみたいで」

「いえいえ、それじゃ参りましょうか?」


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