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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー02 ヴァルキュリアの嘆き
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Scene:08 ニズヘッグⅦ再び(5)

「分かりました」

 そう言うと、シャミルは、部屋に入る穴の横の廊下でひざをつき、目を閉じて、胸の前で両手を組み、祈るように精神を集中させた。

 すると、ほのかに青白く光っていた、キャミルのエペ・クレールがみるみると輝きを増して、まるで光の剣のようになった。

 キャミルは、光の剣を振りかざし、小型ワープ装置がある部屋に突入して、立ち塞がるトカゲ達を滅多切めったぎりにしながら、その装置に向かって突進をして行った。光の剣と化したエペ・クレールには切れないものはないようで、一振ひとふりで二、三匹のヘグニ族が倒されていた。

 一方、ひざまづいて、目を閉じて集中していたシャミルのそばに立っていたサーニャが、ふと気づくと一匹のヘグニ族がじりじりと迫って来ていた。

「船長! トカゲが来たにゃあ!」

 サーニャがシャミルの肩を揺さぶったが、シャミルはまったく反応しなかった。

「せ、船長に寄って来るんじゃないにゃあ!」

 戦闘が苦手なサーニャもシャミルを見捨てて逃げることはできなかった。精一杯の勇気を振り絞って、両手を広げてシャミルの前に立ち塞がった。

 しかし、そんなことで宥恕ゆうじょしてくれるヘグニ族ではなかった。巨大な牙をむき出しにしながら、シャミル達に飛び掛かって来た。

 思わず目を閉じたサーニャが、恐る恐る目を開けると、シャミルとサーニャの前にカーラが立ち塞がり、渾身こんしんの力を振り絞りながら、その太刀でトカゲの首筋を押さえ付けていた。そして、いったん太刀を少しだけ引いて、トカゲが前のめりになった時にすばやく振り上げた太刀でトカゲの後頭部を強打し、たまらず、り返ったトカゲの無防備となった腹部を、思いっきり太刀で横に払った。トカゲは腹部から緑色の体液をき散らしながら、後ろに吹っ飛んで行った。

「うちの船長に気安く寄って来るんじゃないよ!」

「カーラ! た、助かったにゃあ~」

 その間も、シャミルの集中力は切れることはなく、微動びどうだにせず、念をキャミルに送り続けていた。

 キャミルは、シャミルの力を得て光の剣となっているエペ・クレールで、その部屋の中にいたヘグニ族をほとんど切り倒して、床はヘグニ族の死骸で足の踏み場もないくらいであった。そして、階段を上って、ワープ装置の所までたどり着いたキャミルは、その三つあるカプセルの前に設置されている、黒いボックスを全体の制御装置だと判断して、その黒いボックスに向かってエペ・クレールを突き刺そうとした。しかし、その黒いボックスは相当固い金属でおおわれているようで、光の剣であるエペ・クレールでもはじかれてしまった。

 その間にも、ワープ装置から出て来るトカゲどもを、その都度つど、切り倒しながら、キャミルは、何度も黒いボックスをエペ・クレールで壊そうとしたが、まったく歯が立たなかった。

「シャミル!」

 キャミルが振り返り、大声でシャミルを呼ぶと、今まで微動びどうだにしなかったシャミルがぱちりと目を開けて立ち上がり、出入り口の穴から部屋の中にいるキャミルを見た。

「シャミル! もっと力を! もっと力を私に分けてくれ!」

 キャミルの叫びを聞いたシャミルは、キャミルに向かって走り出した。

「船長!」

 カーラとサーニャが呆気あっけにとられている間にも、シャミルはキャミルのそばに走って行き、エペ・クレールをキャミルと一緒に握った。

「二人なら絶対できます。そう言っています」

 シャミルがキャミルに静かに言うと、キャミルも無言でうなづいた。

 二人が一緒に目を閉じて集中すると、エペ・クレールの光はますます大きく、そして明るくなり、その余りのまぶしさに、シャミルを追って部屋の中に入っていたカーラやサーニャは、まともに二人を見ることができないくらいだった。

 シャミルとキャミルは見つめ合いながら、息を合わせて、恒星のように輝くエペ・クレールを振りかぶり、渾身こんしんの力を込めて黒いボックスめがけて振り下ろした。

 エペ・クレールの光が、一瞬、黒いボックスの中に吸い込まれたかのように見えた後、黒いボックスは爆発をして、シャミルとキャミルの二人は後ろに吹っ飛ばされてしまい、階段を転げ落ちて、そのまま床にたたき付けられてしまった。

「船長!」

 カーラとサーニャが、急いでシャミルとキャミルの近くに走り寄ると、仰向あおむけに倒れているキャミルの上に、シャミルが抱き合うようにして倒れていた。

「船長!」

 カーラとサーニャが再び、シャミルを呼んで助け起こそうとした時、キャミルが目を覚ました。そして、ちょうど、自分の胸に頭を乗せた格好で、シャミルが横たわっていることに気がついて、横になったまま、首だけ下を向いて、シャミルを揺さぶった。

「シャミル! シャミル!」

 すると、シャミルは目を閉じたまま、クスリと笑った。

「シャミル?」

 シャミルは、目を閉じたまま、少し微笑みながら小さな声でキャミルに言った。

「キャミルと一緒に天国に行っちゃったかと思いました」

「……シャミル」

 シャミルは、目を開けて、キャミルの胸元からキャミルの顔を見ながら言った。

「でも、この宇宙服の上からでも、キャミルの鼓動こどうが聞こえてきて、生きているんだなあって……」

「良かった」

 キャミルも力が抜けたように、頭を床に付けてつぶやいた。

「ふふふふ」

「何がおかしい?」

 再び、キャミルが顔だけ下を向いて、シャミルを見ながら尋ねた。

「だって、キャミルって、もっと筋肉質で固い体なのかなって思っていたけど、柔らかくて気持ちが良いんですもの」

「なっ、何を言っているんだ、こんな時に!」


 シャミルとキャミルが立ち上がって、その部屋から出ようとすると、マサムネ率いる兵士達がやって来て、ワープ装置からの兵力補充が無くなったヘグニの兵士達を全滅させたことを報告した。

「艦長、十分に艦長の護衛ができずに申し訳ありません」

 生真面目きまじめなマサムネがキャミルにびたが、キャミルはそんなことはまったく気にしていなかった。

「私には、シャミルがついていてくれたから大丈夫だ。マサムネこそご苦労だった」

 マサムネはキャミルに敬礼をした後、この基地内をくまなく調査をするために、兵士達を率いて、その部屋から出て行った。

 あらかじめ、サーニャが耳を澄まして聞いたところでは、キャミル達が踏み込んだ産卵場とベビールーム以外では、ヘグニ族の気配は感知できなかったから、奇襲を受けるようなことはないだろう。


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