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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー02 ヴァルキュリアの嘆き
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Scene:08 ニズヘッグⅦ再び(3)

 キャミル達は思わず絶句した。

 星間飛行技術を持ちながら、トカゲそのもののような容姿はもちろんであるが、ブロイラーの産卵場のような場所で子孫の繁殖をさせていることも、まったく理解の域を超えていた。

「あのつながれているのは、ヘグニ族のめすなのかい?」

 さすがのカーラも気持ち悪そうに、キャミルに訊いた。

「おそらく、そうだろう」

 キャミルはそう言うと、その部屋の中に入り、通路を真っ直ぐ歩いて行った。

 つながれているめす達は、まるで鳥のような甲高かんだかい鳴き声をあげていて、よく見ると、目からは涙のような液体が流れ出ていた。

「ヘグニ族のめすにとって、産卵は苦痛なのでしょうか? 何だか可哀想かわいそうです」

 キャミルに続いて通路を歩きながら、シャミルは、ヘグニ族のめす達があげている鳴き声に苦しさや悲しさを感じ取った。ラタトスクを用いても意思疎通はまったくできなかったが、生命への危険信号は、生物である以上、共通しているのかもしれなかった。

 通路部分にもいくつか卵と思われる物体が転がっていた。にわとりの卵をそのままバスケットボールほどに大きくした形状であったが、その表面は紫色の斑模様まだらもようになっていた。

「あっ、あの卵が孵化ふかしかかってます!」

 シャミルが指差した先に転がっていた、既にひび割れていた卵が真っ二つに割れると、中から粘液におおわれたトカゲの赤ん坊が出て来た。すぐには立ち上がることはできないようで、「ギャオ」と鳴きながら体をねじっている身長二十センチメートルほどの姿はトカゲにしか見えなかった。

「ヘグニ族の卵は一週間ほどで孵化ふかするらしい。また、ヘグニ族のめすも一週間もあれば、次の卵を産むことができるようだ。それだけのペースで繁殖をしていけば、この星もすぐに植民地とすることができただろう」

 キャミルが、ヘグニ戦線司令本部からレクチャーされた内容をシャミル達に紹介すると、シャミル達も目の前の光景から納得してしまって、うなづくことしかできなかった。

「本星の方で持ちこたえているうちに、その背後にあるこの惑星を密かに植民地化して、反攻をくわだてていたっていうことかい?」

「おそらくそうだろう。こんな利用価値がありそうもない惑星を探査しようと思うのは、一攫千金いっかくせんきんを夢見ている馬鹿な商人くらいのものだからな」

 カーラの問いにキャミルが答えた。ハシムを馬鹿呼ばわりできるのも、幼馴染みのキャミルならではであろう。

「でも、いつの間に? ヘグニは包囲されていたのでしょう?」

「そうだな。私が敗走した時のように、何回かは包囲網が突破された時があった。しかし、その時もヘグニ艦隊はヘグニに戻っていた。……確かにシャミルが言うように、いつの間に、この星にたどり着いたのだろう?」

 キャミル達は立ち止まってしばらく思案に暮れていたが、シャミルの頭の中に一つの仮説が浮かんだ。

「キャミル。キャミルがヘグニ上空でヘグニの艦隊に突然襲われた時には、ヘグニ艦隊はワープ航法を利用したのではないかということでしたね?」

「ああ、そうだ」

「ヘグニ族は、惑星ヘグニの大気圏内でワープ空間に入り、アルスヴィッドの目の前の空域でワープ空間から出たということですね」

「ああ、そうなるな。我々の技術では、ワープ空間に入るためには、その時点で相当な加速がされている必要があるそうだが」

「ヘグニは、その加速を大気圏内だけで行うことができるということになりますね」

「あるいは、加速を要せずにワープ空間に入る技術を確立させているかもしれないな」

「もし、その技術が実現されていたら、テレポーテーション、つまり瞬間移動技術を実現しているということになりますね」

「うむ……」

「そうだとすれば、ワープの出口となる空域をもっと遠くにすれば、包囲網に掛からずに惑星ヘグニから脱出できるということではないのですか?」

「……! 確かに。どうして、そんなことに気が付かなかっただろう。シャミルの言うとおりだ。奴らは自由自在にワープすることができると考えれば、ヘグニ包囲網は意味が無いということになる」

「突然、現れて攻撃を仕掛けたと思えば、またヘグニ本星に戻って行ってたことは、それをカムフラージュするためだったのかもしれませんね」

「ワープ航法を包囲網からの脱出のために用いているということをさとられないように、ワープ航法をわざと効果的に奇襲に利用しているということか? そうだとすると、まんまと引っ掛かったということになるな」

 そうしているうちに、サーニャが、産卵場の向こうがわにある壁に開いた穴を指差して言った。

「あの向こうからも、鳴き声が聞こえるにゃあ。もっと甲高かんだかい声だにゃあ」

 キャミル達は、通路を通って、反対側の壁まで行き、その穴の向こうにある部屋に入った。

 そこは卵から孵化ふかしたばかりの子トカゲが無数にたむろしており、ベビールームと言った所であった。

「この部屋だけで既に二百匹はヘグニの子供がいるな。ヘグニ族は一か月もあれば大人と同じ体格になるらしい」

 キャミルが再びレクチャーの内容をみんなに説明をすると、カーラがキャミルに訊いた。

「ママと別に部屋にいるこの子供達は、いったい何を食べているんだい?」

「あれを見ろ」

 キャミルが指差した先には、複数の子供トカゲ達から襲われている一匹の子供トカゲがいた。

「ヘグニのような惑星に生物が誕生したのは奇跡に近いらしい。ヘグニ族は他に生物のいない星で生き延びてきた。敵がいないということで、発展も早かっただろう。しかし、他に生物がいないということは食物連鎖が構築されていないということだ」

「……ということは?」

「ヘグニ族は他のヘグニ族を喰らっているのさ」

「共食いということかい?」

「そうだ。力の弱い者が餌食えじきとなって力の強い者に食われる。十分な食料を供給するためにも、繁殖力を大きくしておく必要があるということだ」

「……本当に我々の理解の域を超えているな」

 さすがのカーラも色を失ったようだ。

「艦長。この基地を焼き払いましょう」

 キャミルのそばに寄って来たマサムネが冷静な口調で言った。

「……そうだな。やむを得ない。ハイパーフレイムフロワーを準備しろ」

 ハイパーフレイムフロワーは、炎の代わりに熱光線を照射する兵器で、酸素がない大気中でもターゲットを焼き払うことができた。

「キャミル。あの子供達を焼き払うのですか?」

 シャミルは、いくら銀河協約第二項の生物だといっても、無抵抗の子供を焼き殺すことには抵抗を感じた。

 シャミルは、キャミルの側に近寄り、その右腕を掴みながら言った。

「何とか、助けてあげることはできないのですか?」

「シャミル。ヘグニ族は、連邦が様々な手段を用いてコンタクトを取ろうとしたが、コミュニケーションすら取れなかった銀河協約第二項該当種族なんだ。そして、彼らは攻撃的な行動指向で、我々が望まなくとも、奴らは我々に襲いかかってくる。軍は連邦市民の安全と平穏を守らなければならない。そのためには、こうするしかないんだ。これは戦争なんだ!」

 ――――戦争!

 シャミルは、銀河協約について理解をしていたつもりだった。第二項該当生物と連邦が多方面で戦争をしていることも知っていた。しかし、今、戦争の現実をの当たりにして、そんな自分の知識の上だけの理解が、いかにあさはかであるのかを思い知らされた。優しさを振りまけば、世の中全て丸く収まる訳ではなく、その優しさが凶器となって、自らに襲いかかってくることもあるのだ。

「……ごめんなさい。私も初めて戦争の現場に居合わせたから、動揺してしまって……。そうですね。彼らが生き残っていたら、その生き残りのヘグニ族は、我々に復讐を誓うでしょう。そしたら、また、無駄な血が流される。尊い命が奪われる。その繰り返しです。フェンサリルで会ったあの家族のように悲しい想いをさせるのは、もう嫌ですよね」

「ああ、ヘグニ族には悪いが、この他に選択肢はないんだ」

「分かりました。もう、キャミルの邪魔はしません」

 シャミルはそう言うと、カーラやサーニャがいる所まで下がった。

 そうしているうちにも、ハイパーフレイムフロワーを背負った兵士が五人、キャミルの前に出て来た。

 キャミルが発射の合図をしようとした、その時、最後尾に立っていた兵士が悲鳴を上げた。全員が後ろを振り向くと、そこには大人のトカゲの一団がいた。


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