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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー02 ヴァルキュリアの嘆き
44/234

Scene:08 ニズヘッグⅦ再び(2)

「やった!」

 艦橋スタッフの誰とも無く叫んだが、まだ戦いは終わっていなかった。

「敵駆逐艦を順次撃破する! まずは〇八−十二−十七にいる奴からだ!」

 キャミルが指定した敵駆逐艦に向かって、再び全砲門が開かれた。こんどは焦点を集中しなくても、アルスヴィッドの圧倒的な火力の前に、敵駆逐艦は次々に撃沈されていった。

 最後の駆逐艦を撃沈したアルスヴィッドに艦載機が次々と帰還して来た。

「艦載機を収容後、あの地下基地に入る!」

 キャミルの指示どおり、アルスヴィッドは、地表に大きく開いた割れ目から、その中に入って行った。そこは巨大な宇宙船ドックのようで、どうやら、そこに配備されていた戦闘艦は、今の五隻がすべてだったようで、基地の中には他に艦船は見えなかった。

 おそらく、今、撃沈されたヘグニの戦艦が係留されていたであろう、広い空間が広がっており、アルスヴィッドはその床に着陸した。

「マサムネ! 五百名の白兵要員を上陸させる! うち四百名は百名ずつの部隊に分けて、撃沈した四隻の敵艦船の偵察に向かわせろ! 生存しているヘグニ族が見つかった場合の措置は部隊長に任せる! 残りの百名は、私と一緒に基地内に乗り込む! マサムネも一緒に来い!」

「分かりました。十分で準備できます!」

「頼む」

 そう言うと、キャミルは艦長席から立ち上がり、艦橋から出て行こうとした。

「キャミル。私達も連れて行ってください」

 シャミルの呼び掛けに、キャミルも思わず立ち止まり振り向いた。

「私は、この惑星の優先利用権を持っている依頼主から探査の依頼を受けているのです。利害関係があります」

「いや、危険だ。まず、我々が乗り込んで、安全が確認できてからでも良いだろう」

「ご迷惑はお掛けしませんから……。お願いします、キャミル」

 キャミルは、シャミルのうるうる瞳に対抗できなかったようだ。

「し、仕方が無いな。しかし、私も部隊を率いて行かなければならないから、シャミルを守りきれないかもしれない。カーラ達も一緒に行ってくれ」

「言われなくとも、そのつもりだよ」

 シャミルと二人の副官は、キャミルと一緒に別室に行き、宇宙軍専用の戦闘用宇宙服に着替えた。

 この戦闘用宇宙服は、惑星軍の装甲機動歩兵が使用している戦闘用強化服、通称パワードスーツの簡略版といったもので、シャミル達が持っている作業用宇宙服よりも薄い上に高性能であった。

 頭部は顔面の部分が透明になったフルフェイスヘルメットのような形状で、耳の部分に小さく飛び出ているアンテナにより、この宇宙服を着ている者同士が普通に話すように通信ができた。ボディ部分は、もこもこすることなく体にフィットする形状であるが、気圧の変化を相当程度、緩和かんわすることができる上、剣ややりに対して若干じゃっかんの防御機能を有する丈夫な材質でできていた。また、背中に装備されたライフボックスは、コンパクトでありながら、五時間分の圧縮空気や少量の水が蓄えられており、長時間の宇宙空間活動も可能であった。さらにライフボックスの上部には、反重力パラグライダーも装備されており、短時間ではあるが飛行をすることもできた。そして、腰の部分には銃や剣を装備できるようになっていた。

「キャミル。ここはこれで良いのですか?」

 シャミルは、すぐ隣で着替えていたキャミルに、戦闘用宇宙服の胸の部分の閉め方を訊いた。

「どれっ、……ああ、そこはだな、こうするんだ」

「ああ、そうか。……ありがとう、キャミル」

 シャミルは嬉しそうに微笑んだが、近くで着替えていたカーラとサーニャは不審ふしんげな顔つきでお互いを見つめた。

「この宇宙服の着方は、ウチでもすぐに分かったにゃあ。船長が分からないはずはないのににゃあ」

「そうだねえ。キャミルが近くにいると調子が狂うのかねえ? ところで、何だい、その袋は?」

 サーニャは宇宙服の背中にリュックのような袋を背負っていた。

「せっかくニズヘッグⅦにまた上陸するんだから、何か採集できるものがあれば持っていこうと思ったにゃあ」

「ほう、サーニャにしちゃ気が利いているじゃないか」

「うるさいにゃ!」

 戦闘用宇宙服に着替えたキャミルはエペ・クレールを、シャミルはコト・クレールを、それぞれ腰に装備した。

 キャミル達が着替えを終えて、上陸用密閉ハッチ室に行くと、マサムネが率いた百名の白兵要員が、シャミル達と同じ戦闘用宇宙服を着込み、銃と剣を持って既に待機していた。

「敵艦船の偵察に向かう四百名は既に出発しております」

 マサムネが敬礼をしながらキャミルに報告をした。

 先発隊四百名の兵士達は百人ずつの部隊に分かれ、反重力パラグライダーを使用して、撃沈された敵艦船に向かっているはずであった。

「よし! 我々はこれからヘグニ族の基地に乗り込む! どこにどんな危険がひそんでいるか分からないぞ! みんな警戒を怠るな!」

 百名の兵士達は、キャミルに向かって一斉に敬礼をした。ヘルメットの奥に見える顔つきはみんな精悍せいかんで、白兵戦の指導を担当しているマサムネの厳しい訓練を耐え抜いた精鋭達であった。

 ハッチ室の艦内側の扉が閉まり、外気が取り入れられた後、外側の扉が開いた。扉の下から基地の床にまで伸びたタラップを降りて、一行は基地内に降り立った。

 床は硬質ガラスなのか金属なのか分からなかったが、鏡のようにみがかれていた。

 直径二千メートルのアルスヴィッドが余裕で着陸できるその空間は、直径四千メートル、高さも同じくらいの円柱形で、上空の巨大な穴まで続く壁面も床と同じような材質でおおわれていた。

 キャミル達は、アルスヴィッドのまわりを一周してみたが、一箇所だけ壁面に穴が開いている以外には、窓もドアもなかった。その穴は直径五メートルほどの半円形で、おそらく出入り口であろうと思われた。どうやらヘグニ族には、ドアで部屋や空間を区切るという習慣を持ち合わせていないようだった。

 キャミル達はあたりを注意深く見渡したが、あたりにヘグニ族がいる気配はまったく感じられなかった。

「留守番もいないのかね? 無防備だねえ」

 カーラが言ったように、基地にいた全員が戦艦等に乗り込んでいたとは思われなかった。

「どこかに隠れてすきを狙っているかもしれないぞ。気を抜くな」

 キャミルはそう言って先頭に立って、出入り口らしき穴が開いた方に歩き出した。その後を兵士達に守られながら、シャミル達も進んだ。

 その穴を抜けると、ドアも窓も無い廊下のような通路が続いていた。何やら、あまり気持ちが良くない曲線によって造形されており、ヘグニ族が銀河協約第二項の生物であることを思い知らされた。

 しばらく、廊下を歩いていると、十字路のように廊下が交差している場所に出て来た。通ってきた廊下の先にある三つの方向とも前方は暗く、その先に何があるのか分からなかった。

 キャミルがどの廊下を進むか迷っていると、小さな音を聞き分けたサーニャが声を上げた。

「何か聞こえるにゃあ。鳴き声みたいだにゃあ。……あっちだにゃあ!」

 サーニャが指し示す方向に伸びている廊下をしばらく歩いて行くと、キャミル達にも、何かの鳴き声のような音が聞こえてきた。そして、廊下の突き当たりに、やはり出入り口のような直径五メートルほどの半円形の穴が開いており、鳴き声はその中から聞こえていた。

 キャミルとシャミルが、その向こうの空間をのぞいてみると、そこには想像を絶する光景が広がっていた。

 その部屋は直径百メートルほどのドーム状の空間で、キャミル達がのぞき込んでいる穴から五メートルほどの幅で、真っ直ぐの通路が対面の壁面まで延びており、突き当たりにも同じような穴が開いていた。そして、その通路を挟むようにして、おりのような仕切りが無数に立てられ、その仕切りに囲まれた狭い空間の中に、ヘグニ族と思われるトカゲ達が一匹ずつ鎖につながれていた。その数はざっと千体以上はいた。そして、その鎖につながれたトカゲ達の足元には、卵と思われる物体がいくつも転がっていた。

「こ、これは……」


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