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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー02 ヴァルキュリアの嘆き
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Scene:08 ニズヘッグⅦ再び(1)

 ニズヘッグⅦ上空に到達したアルスヴィッドの艦橋かんきょうには、シャミルと二人の副官がいた。アルスヴィッドの艦橋かんきょうスタッフには、もう、お馴染なじみの三人だった。

 シャミル達は、ニズヘッグⅦ上空で落ち合って、アルヴァック号ごとアルスヴィッドに収容された後、艦橋かんきょうに招かれて、ヘグニ族と思われるトカゲに遭遇した場所をキャミルに教えていた。

 アルスヴィッドは、シャミルが指示をした場所に徐々に降下をしていった。

「総員戦闘配置! 油断をするな! 敵はどこから現れるか分からないぞ。索敵さくてきレーダーは出力を最大にしろ!」

 アルスヴィッドに警報が鳴り響いた。

 各ブロックに分散されて配置されている砲門制御室では、砲撃手達がコントロールパネルの前に座り、艦載機搭載甲板(かんぱん)では、パイロットと整備士達が、いつでも飛び立てるように準備を始めた。

 厚い雲を通り過ぎると、荒涼こうりょうとした大地が見えてきた。建造物はもちろん、草木も生えていないき出しの岩盤からなる地表面は、前回、シャミル達が降り立った時と何ら変わっていなかった。

「ニズヘッグⅦじく二十三−四十五−〇〇に向かって、高度千五百メートル、速度八百で微速航行」

 アルスヴィッドは、低空を低速で飛行しながら、地上の様子を観察していた。

 三十分ほど、あたりをぐるぐると周回しながら偵察をしたが、地上には何も変わったところのない荒野が続いているだけであったし、敵艦隊が出て来ることもなかった。

「出て来ませんね」

 シャミルは、せっかくキャミルに来てもらったのに、無駄足むだあしを踏ませたとしたら申し訳ないと思い、心配そうにつぶいた。

「たぶん、シャミル達が来た時は、アルヴァック号が戦闘艦ではないことや、地上に降り立ったのが三人だけだったから、簡単にらえることができると考えたのだろう。しかし、戦艦が相手だと、敵も慎重になっているはずだからな」

 キャミルは、そんなシャミルの気持ちに気がついたのか、シャミルをかばうように、微笑みを浮かべながら言った。

「シャミル。シャミルにこの星の探査を依頼したのはハシムだったな?」

「ええ」

「……それなら良いかな」

 シャミルがキャミルの台詞せりふの真意をはかりかねている間に、キャミルは艦橋かんきょうスタッフに指示を出した。

「作戦座標〇二−八十七、高度二千でホバリング。Fブロック全砲門開け! ターゲット〇三−〇二−三十五!」

 球形である連邦の戦闘艦は、前後左右上下という区別を必要としない構造であり、レーザー砲も、球形の全表面に搭載されており、どの方向から敵が来ようとも対応できるようになっていた。キャミルの指示にあったFブロックとは、現在、アルスヴィッドが進行している方向の下半球に当たる部分であった。

 アルスヴィッドが目的地の上空二千メートルで浮かんだまま停止すると、すかさず、キャミルが砲撃指示を出した。

「撃て!」

 アルスヴィッドのFブロックに搭載されたレーザー砲の全部から一斉にレーザービームが地表に向けて発射され、光の雨のようになって、シャミル達がトカゲの一団に襲われた付近の地表に命中した。すると、その場所の地面は、一瞬、赤く輝いたかと思うと、大爆音とともに大きな爆発雲を吹き上げた。しばらくして爆発雲が晴れると、そこには大きなクレーターのような窪みができており、その中心は沸々(ふつふつ)と煮えたぎっている溶岩のようになっていた。

「キャミル?」

 シャミルが心配そうな顔をして、キャミルの顔を見たが、キャミルは艦橋かんきょうモニターから視線をそらすことなく、シャミルに言った。

「出て来ないのなら、たたき出すまでだ」

 シャミルもモニターを見つめながら言った。

「ハシム殿はあきれるでしょうね」

「ちゃんと謝るさ」

 この惑星の優先利用権者にことわり無く地形を変えることになるが、相手はハシムなので、何とかなると、キャミルは考えたのだろう。

「もう一度、同じ場所に砲撃を加える! 砲撃準備!」

 しかし、次のレーザー砲撃が放たれる前に、クレーター状になった地表に大きな割れ目ができたと思うと、その割れ目はどんどんと広がり、直径三千メートルはあろうかという、大きな円形の穴が開いた。そして間髪を入れずに、その穴から、ヘグニの戦闘艦が飛び出してきた。

「ビンゴだ!」

 思わずカーラが叫んだ。キャミルの強引ごういんとも言えるねらいは的中した。

 しかも、闇雲やみくもに撃った所が偶然にも地下基地の入り口だったようだ。

 飛び出して来たヘグニの戦闘艦は五隻。もっとも大きなものは、アルスヴィッドとほぼ同じ大きさの戦艦で、後の四隻もアルスヴィッドの半分くらいの大きさであり、連邦艦隊でいえば、軽駆逐艦クラスの戦闘艦であり、総兵力でいえば、アルスヴィッドが不利な状況であった。

 しかし、キャミルを始め、アルスヴィッドの乗員達は、前回のリベンジを熱く心に誓っており、志気は大いに高まっていた。

「全砲門開け! 迎撃戦闘機隊の準備は良いか?」

「いつでもOKです! 艦長!」

 艦載機隊隊長の勇ましい声が、戦闘機搭載甲板(かんぱん)から響いた。

「直ちに全機発進せよ!」

「了解!」

「当艦は、敵戦艦に集中攻撃する! 他の雑魚ざこには目もくれるな! 全砲門発射!」

 球形であるアルスヴィッドの、ヘグニ艦隊と対峙たいじしている側の半球面のレーザー砲すべてから一斉にレーザービームが放たれると、敵戦艦のあちらこちらのブロックで爆発が起きた。しかし、敵戦艦とその僚艦りょうかんも一斉にレーザー砲のような高エネルギー砲をアルスヴィッドに放ってきた。

 一方、敵艦隊と向かい合っている面と反対側の半球面にある発射カタパルトから、次々に搭載戦闘機が発進をしていた。アルスヴィッドは空母ではないが、それでも八十機ほどの艦載機を搭載していた。

「戦艦以外の敵艦を攪乱かくらんしろ!」

「了解!」

 艦載機部隊は、四つに分かれて、四隻の敵駆逐艦に向かって行った。

 艦載機部隊は敵艦を撃沈するまでできなくとも、攪乱かくらんをして、アルスヴィッドにすべての敵戦力が集中することを妨ぐことができる。戦闘機は、その小回りが利く利点を生かして、敵駆逐艦に対して攻撃を繰り返し、決定的ではないが効果的なダメージを着実に与えており、艦載機を追い払うために敵駆逐艦の砲撃がアルスヴィッドに向かうことはなかった。

 とはいえ、敵戦艦の砲撃も相当強力であり、アルスヴィッドも無傷ではなかった。

「C−四十六ブロック外壁損傷! ブロック閉塞へいそく完了! Bブロックのレーザー砲門三基稼働不能!」

怪我人けがにんの救出もおこたるな!」

「既に救護班が向かっています!」

 アルスヴィッドと敵戦艦との砲門の破壊力においては、アルスヴィッドにがあるようで、明らかに敵戦艦から上がっている煙の量が多かった。しかし、このまま撃ち合って最終的に勝てたとしても、アルスヴィッドが受けるダメージも相当なものになるはずだ。

「ビクトーレ! 砲撃の焦点を一点に集中させろ!」

「りょ、了解!」

 キャミルは一か八かの勝負に出た。レーザービームの破壊力を一点に集中させる作戦に出た。ジャブで敵の体力を消耗させてからでは遅いと考えて、一発必殺のストレートパンチをお見舞いする作戦である。しかし、それが外れた時には、砲身を元の標的ひょうてきに戻すまでの時間が無駄となり、その間、攻撃ができずに敵砲撃を受けっぱなしとなる、危ないけでもあった。

「敵戦艦の後部、動力源部分と思われる箇所かしょに、すべての砲門の焦点を合わせろ!」

 全砲門の焦点を合わせている間にも、敵艦隊からは雨あられのように、ビーム砲撃が降り注いできて、アルスヴィッドは何度も大きく揺れ、焦点を定める作業の邪魔をした。

 しかし、訓練が行き届いたアルスヴィッドの砲撃手達は、それほど遅れることなく、すべての砲門の焦点を一致させた。

「ターゲット・ロックオン!」

「撃て!」

 次の瞬間、アルスヴィッドの前半分の球面全体が輝いたかと思うと、大きな光のたばが、その幅を縮めながら、ヘグニの戦艦に向かい、最後にはレーザービーム一筋分の幅に集約されて、狙いどおりに敵戦艦にぶつかると、その船体をつらぬいて、敵戦艦の後方に向かって消えていった。

 敵戦艦は、レーザービームがつらぬいた部分で大爆発を起こし、円柱形の船体を二つに折って、地表に撃沈していった。


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