Scene:06 ニズヘッグⅦ(1)
恒星ニズヘッグがある空域は、ヘグニ制圧作戦が遂行されているため航行が禁止されているヘグニ空域の隣の空域であり、連邦が領土として主張している空域の辺境に位置していた。また、ニズヘッグは十四個の惑星を擁していたが、居住可能惑星はまったく無かったことから、探査船すらほとんど航行することのない空域であった。
平均的居住可能惑星の約二倍の大きさがあるニズヘッグⅦの三万キロ上空に到達したアルヴァック号は、その高度を維持したまま、ニズヘッグⅦを周回し始めた。まずは上空から惑星の様子を観察するためである。
しかし、厚いアンモニア雲に覆われ、どの上空からも地表はまったく見えなかった。
「高度を下げましょう」
シャミルの指示により、アルヴァック号はニズヘッグⅦの大気圏内に突入して行った。
アルヴァック号の艦橋モニターには、黄色の厚い雲しか映し出されず、視界がまったく遮られており、有視界飛行を諦めて、レーダー探索による自動航行に切り替えられた。
しかし、高度一万メートルを切った辺りから雲が切れ始め、地表が見えてきた。
岩盤でできていると思われる地表には、海や川といった水または液体は存在していないようで、草木も生えていない荒涼とした地面が見渡す限り続いていた。
その高度でしばらく飛行を続けたアルヴァック号であったが、まったく景色は変わらなかった。そして、厚い雲のせいで恒星の光が遮られていることから、恒星から正午の位置にある地点に行ってみても、夕暮れ時のように薄暗かった。
また、生物らしきものもまったく確認できなかった。
「とりあえず着陸してみましょう」
ハシムから指定された地点に着くと、シャミルは、モニター上で、着陸ができそうな水平な地表面を見つけ、そこにアルヴァック号を着陸させた。
「外部観測をしてください」
シャミルがそう指示すると、アルヴァック号の上部から観測用スティックが伸びて、色んなデータを収集し分析を始めた。
艦橋スタッフが、分析が終わったデータをシャミルに知らせた。
「大気成分、アンモニア九十パーセント、窒素八パーセント、メタン二パーセント。気温マイナス三十度。湿度〇パーセント。紫外線量、放射線量問題なし」
宇宙服を着れば、十分作業ができる環境であった。
「カーラ、サーニャ。行きましょう」
シャミルと二人の副官は、額の部分にはライトが付いており、顔面部分が透明になった白いヘルメットを被り、圧縮空気や水が格納されたライフボックスと呼ばれる装置を背負って、頭部と一体となって全身を覆う白いスーツからなる作業用宇宙服に着替えると、密閉用ハッチから船外に出た。
重力は平均的居住可能惑星の約二倍と思われ、自分の体がずしりと重く感じられた。
辺りは夕闇のような暗さであったが、アルヴァック号からサーチライトが照らされ、三人の周りだけが明るくなった。
三人は、アルヴァック号から約五十メートルほど離れた地面に、オレイハルコン鉱脈探知機をセットして、鉱脈探査を開始した。地下深くまで特殊な電波を送って、その反響から埋蔵鉱物を分析するもので、分析には時間が掛かった。
カーラとサーニャが探知機を操作している間、シャミルは、小型ビデオカメラを手に持って、周辺の景色を撮影していた。そして、アルヴァック号と反対側の方向を撮影していると、シャミル達から十メートルほど離れた場所にあった岩陰から何かが出て来たことに気がついた。




