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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー02 ヴァルキュリアの嘆き
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Scene:05 ファサド商会

 フェンサリルでキャミルと会った二日後。

 シャミルは、ハシムから依頼を受けて、惑星イリアスに来ていた。

 ハシムからは、シャミルが指定する場所まで行くと言われたが、キャミルの故郷でもあるイリアスに、シャミルは何度でも来たかったから、イリアスのファサド商会まで足を運んできたのだ。

 ファサド商会本店の玄関を入り、受付でシャミルと二人の副官が取り次ぎを頼むと、それほど時間を掛けずに、ハシムが玄関まで迎えにやって来た。

「シャミル! 会いたかったぜ」

 ハシムは、本当に嬉しそうにシャミルに近づいて来て、シャミルをハグしようとした。

「ウチも会いたかったにゃあ!」

 ハシムがシャミルに抱きつく前に、サーニャがハシムに飛びついた。

「ハシム殿、また、ご依頼ありがとうございます」

 シャミルは何事もなかったかのように、サーニャを抱っこしている格好のハシムに礼を述べた。

「……いや、いや。シャミルと会えるためだったら、銀河中の惑星探査の依頼を出したいくらいだぜ」

「それでは惑星探査をしているうちにお婆さんになってしまいます」

「おっと、それは困る。シャミルには、商会代表夫人として、華々(はなばな)しくデビューしてもらわなければならないからな」

「たぶん、……私には商売は向いていないと思います」

 シャミルがニコニコしながら商品をただで配っている映像が、ハシムにも、カーラやサーニャにも浮かんできたようで、みんなが思わずうなづいていた。

「シャミルが、うちの専属探検家になれば良いんだよ。そうすれば、もっと会えるじゃないか。どうだい、シャミル?」

「その申出は大変光栄ですが、私もまだまだ駆け出しで、経験も多くないですから、色んな方から色んなご依頼を受けたいのです」

「そうかい。……ところでサーニャ、そろそろ降りてくれないかな」

「残念だにゃあ」

 悪戯いたずらっ子ぽく笑いながら、サーニャはハシムから離れた。

「とりあえず、こっちに来てくれ」

 そう言うと、ハシムは自らが先導して、シャミル達を応接室に案内をした。

「お前達はあっちに座ってくれ。シャミルはこっちだ」

 ハシムは、向かい合う二人掛けのソファの一方にカーラとサーニャを座らせ、自分の隣にシャミルを座らせようとしたが、副官達がそれを許す訳がなかった。

「アタイがそっちに座るよ。船長はこっちに座りな」

 そう言うと、カーラは、シャミルをサーニャと一緒に、ハシムの対面のソファに座らせ、カーラがハシムの隣に座った。それほど大きくないソファで、ハシムはカーラとソファの肘掛ひじかけとの間に挟まれるように座ることになった。

「お前らなあ」

 ちょうど、ハシムの正面に座ったシャミルは、ニコニコと微笑みながらハシムに話し掛けた。

「ハシム殿。それで、今回のご依頼はどのような件でしょうか?」

 あきらめたように、ハシムが話し出した。

「分かったよ。今回の依頼は、惑星ニズヘッグⅦの探査だ」

 ニズヘッグⅦとは、恒星ニズヘッグの第七惑星という意味である。

 惑星の名称は、その惑星に最初に降り立った者、その者が依頼を受けていた場合は、その依頼主が惑星開発省に届け出ることで確定する。それまでは恒星系の何番目の惑星かで特定されているのだ。

「ニズヘッグⅦは、望遠鏡による観察では、アンモニア系大気を持つ惑星のようなんだが、その下には岩盤の大地があって、どうやらオレイハルコンがたんまりと埋蔵されているようなんだ」

 オレイハルコンとは、スレイプニール航行システムのためには不可欠の鉱物で、テラの地中深くにその大鉱脈があったことが、テラ族が銀河に飛び立つことができた要因の一つであった。

 現在でも、その鉱脈がある惑星はごく限られており、本当にニズヘッグⅦにオレイハルコンの鉱脈が見つかれば、莫大ばくだいな利益を手にすることができるはずであった。

「本当にあるのかい?」

 カーラが横からハシムに訊いた。

「絶対にある! ニズヘッグⅦから発せられている電波を解析したという学者がいてな、その学者が断言しているのさ」

眉唾物まゆつばものじゃないのかい? どこのどいつだよ?」

「いや、それは教えられないな。それが条件の一つなんだ」

詐欺さぎだって白状しているみたいじゃないかにゃあ」

「そうだよ。こんな突拍子とっぴょうしもない話に釣られるなんて、あんたらしくないじゃないか」

「ハシム殿。お言葉ですが、私もそう思います。惑星から発せられる電波を宇宙空間から観測して、埋蔵資源が分かるなんて話は聞いたことがありません」

「いや、これは一か八かのギャンブルなんだ。人と同じことをしてたら、所詮しょせんは人と同じことしかない。俺は俺の商会を連邦一の大商会にするのが夢なんだ。その夢を現実のものにするには、人がやっていることをやってたら駄目なんだ。これまで新しい事業を起こしてきた先達せんだつ達は、最初は誰からも相手にしてもらえなかったと言うじゃないか。今回、本当にオレイハルコン鉱脈が見つかれば、俺は今の財力を一気に倍にできるし、この技術の独占利用権を握れば、連邦一の商会っていうのも見えてくる」

「でも、ハシム殿。もし、探査をしても、オレイハルコン鉱脈は見つからなかったという結論になる可能性も十分にありますが……」

「うちだって、惑星探査の一回や二回失敗したからと言って、つぶれてしまうほどヤワじゃないぜ」

「……分かりました。特にお断りする理由もないですから、喜んでお受けします」

「本当か? よ~し、もし、オレイハルコンの鉱脈が見つかったら、今度も特別ボーナスを出すぜ。今度は……」

「ハシム殿。昔のテラのことわざで、取らぬたぬきのなんとやらと申します。そのお話は、本当に見つかってからお聞かせください」

「そ、そうか」

「では、早速、取り掛かります」

「シャミル。つのは明日で良いじゃないか。今日は、イリアスに泊まっていけよ。イリアスの郷土料理を堪能たんのうしてみないか? けっこう美味うまいぞ」

「有名なイリアスの郷土料理店があるらしいですね。でも、そこは、キャミルと一緒に行く約束をしていますので……。では契約を」

 シャミルが手首に付けた端末を操作すると、テーブルの上に、惑星探査の依頼契約書フォーマットが映し出された。

「仕方ねえな」

 渋々、ハシムは自分のふところから端末を取り出して、それをシャミルの端末に向けてから、画面上のスイッチを押すと、テーブルの上の依頼契約書フォーマットに、赤く大きな文字で「契約済み」と映し出された。


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