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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー02 ヴァルキュリアの嘆き
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Scene:04 喫茶「恥ずかしがり屋のうさぎ」(1)

 シャミルは、フェンサリルの商人から受けた惑星探査の依頼を無事遂行(すいこう)して、律儀りちぎに、その商人にじかに会って、探査結果を報告をするために、また、フェンサリルに来ていた。

 依頼主に報告を終えて、シャミルは、二人の副官と一緒に宇宙港に戻ろうとしたが、ふと、キャミルが家にいれば寄って行こうと思い、キャミルのヴァルプニール携帯端末に連絡を入れてみた。しかし、呼び出し音が鳴っていたが、キャミルは出なかった。

 端末のスイッチを切ったシャミルが相当残念そうに見えたのか、カーラがなぐさめるように言った。

「どうせ、アルスヴィッドで軍事行動中なんだろう」

「そうですね」

 シャミル達は、アルヴァック号を停泊させているフェンサリル宇宙港に戻ってきた。

 ここは、第七十七師団の基地を兼ねており、軍と民間とが共同して使用している宇宙港だった。ターミナルビルの中には、定期便の乗降客の他には、船乗りらしき男達も多くおり、ちらほらと軍人の姿も見えた。

 そんなターミナルビル内の商店街に一筋の行列ができていた。看板を見ると、喫茶店のようだった。

「何かしら? あんなに行列ができているなんて?」

 シャミルが不思議に思い、その入口に近づいていくと、並んでいるのは船乗りの連中と少数の軍人達であり、どう考えても喫茶店に入りそうもない男達の行列であった。シャミルはその最後尾に並んでいた船乗りに理由を訊いた。

「ああ、この店のウェイトレスは、メイド風の制服が可愛くて、みんなレベルも高いから、もともと人気がある店なんだが、最近、すごく可愛いウェイトレスが働き始めたらしくて、みんな、その娘目当てなんだろう。もちろん、俺もさ」

 と言いつつ、その船乗りはシャミルにも見とれていた。

「ど、どうも、ありがとうございます」

 シャミルは、後ずさりしながら列から離れると、喫茶店の入口から中をのぞいてみた。

「ったく、男ってのはしょうもねえな。船長、行こうぜ」

 そう言って、カーラとサーニャは歩き出そうとしたが、シャミルは立ち止まったままだった。カーラとサーニャが振り返ると、シャミルは、その目にキラキラ星を輝かせて、カーラとサーニャを見ながら言った。

「入ってみましょう!」

「はあ?」

「この店にです。ちょうど、のども渇いたし、可愛いメイドさんを見てみたいじゃないですか!」

「メイドじゃなくて、ウェイトレスだろ」

「まあ、どっちでも良いじゃないですか」

 そう言うと、シャミルは列の最後尾に並んだ。

「はあ~。船長の『可愛いもの』好きには、つき合ってらんないよ」

 そう言いながらも、カーラとサーニャも、シャミルを間に挟むようにして、仕方なく列に並んだ。

 しかし、思ったより回転が速く、三人はほどなく店内に入ることができた。

 店は、「恥ずかしがり屋のうさぎ」という名前で、ロココ調の調度品で統一された店内は意外と広く、また、ウェイトレス目当てで入った船乗り達も、その高級感溢れる雰囲気に気後きおくれするのか、飲み物を飲み終えたら、早々と席を立っていた。

 シャミル達が、店長らしきちょうネクタイをめた男性に案内されて四人掛けのテーブルに着くと、まもなく、ややうつむき加減なウェイトレスがおやを持って来た。

「い、いらっしゃいませ」

 小さな声で言って、おやをテーブルに置くウェイトレスは、頭にメイドカチューシャ、白いエプロンの下には黒のミニスカートのメイド服、足には黒のニーハイソックスというキュートな衣装だった。

 シャミルが、何気なく、そのウェイトレスを見ると、なるべく顔を合わさないようにしているように見えた。しかし、そのセミロングの赤い髪は見覚えがあった。

「……キャミル?」

 シャミルも自信なげに訊くと、そのウェイトレスはいかにも怪しげに顔をそむけた。

「キャミルじゃない! どうしたの?」

 覚悟をしたのか、そのウェイトレスは顔を真っ赤にしながら、シャミル達の方を向いた。

 いつものように首の後ろでまとめていない赤いセミロングヘアとメイド服のウェイトレスは、軍服姿のキャミルとは別人のようだったが、間違いなく、キャミルであった。

「と、とりあえず、ご注文を……どうぞ」

 あまり突っ込んではいけないと思ったシャミル達が、とりあえず飲み物を注文すると、キャミルは、一礼をして、しずしずと厨房ちゅうぼうの方に歩いて行った。

「何だい、ありゃあ?」

「軍を首になったのかにゃあ?」

「そんなことはないと思いますけど……」

 まるで信じられないものを見たように、その後、三人は無言になってしまった。

 しばらくすると、キャミルが飲み物を持って、シャミル達のテーブルにやって来た。

 飲み物をテーブルに置いた後、「どうぞ、ごゆっくり」とお辞儀じぎをし、去ろうとしたキャミルを、シャミルは少し大きな声で呼び止めた。

「すみません! ケーキも頼みたいのですけど、どれがお勧めですか?」

 キャミルが、仕方が無いという感じで、シャミルのテーブルの近くに戻ると、シャミルが小さな声で話し掛けた。

「いったい、どうしたのですか?」

 キャミルはテーブルの近くに立って、メニューを示しながら、小さな声で答えた。

「上官から、この喫茶でウェイトレスをするようにとの命令があったのだ」

「そうなのですか? ……でも、キャミル、可愛いです!」

「冗談はよせ」

「冗談なんかじゃないですよ。普段の凛々りりしいキャミルも素敵ですけど、その格好のキャミルは本当に可愛いです」

「……」

「きっと、その上官の方は、キャミルの新しい魅力を発掘させるために、この仕事を命じたのでしょうね」

「いや、そうではなくて、この前のヘグニ戦線での失態の責任を取らされているんだ」

「失態?」

「ああ、敵の奇襲を受けて、甚大じんだいな被害を受けてしまったんだ。犠牲者も大勢出してしまった……」

「そうなのですか」

 キャミルの悲しそうで悔しそうな顔を見ると、シャミルは、なぐさめやはげましの言葉を掛けてあげたかったが、うまく言葉にできなかった。


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