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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー02 ヴァルキュリアの嘆き
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Scene:03 第七十七師団本部

 惑星フェンサリルにある第七十七師団本部。

 師団長であるロバートソン少将の部屋にキャミルはいた。

 テラ族の黒人であるロバートソン少将は、キャミルの直属の上司であり、宇宙軍上層部におけるキャミルの良き理解者であって、多少無茶をするキャミルの行動をいつもかばってくれていた。

 部屋の窓からは、テラ原産の桜が見事な花を咲かせているのが見え、桜色のタペストリーが掛かっているように見えたが、キャミルは、花をでる気持ちにはなれなかった。

 その桜をバックに、執務机に座っている少将は、目の前に直立不動で立っているキャミルを見つめながら、険しい顔付きで話し掛けた。

「キャミル少佐」

「はい」

「今回の失態、どう責任を取るつもりかね?」

「いかようにでも……。首を差し出せというのであれば差し出します」

 キャミルが真剣な顔付きで答えたにもかかわらず、少将は急に笑い始めた。

「はははは。相変わらずいさぎよいな」

「……?」

「今回の失態は、君の失態というより、ヘグニ制圧作戦司令部の失態だ。前回の教訓が生かされていなかったのだからな」

「……」

「しかも、敵はワープ航法を奇襲に使用してきおった。あれだけの大艦隊がいきなり目の前に現れるとは、誰も想像できなかった戦法だ」

 宇宙空間を超光速で移動する手段としていくつかの方法があるが、連邦はスレイプニール方式を採用していた。

 しかし、連邦に加盟していないヘグニ族は、空間をゆがめて、その内部に作った時空トンネルを通って、遠く離れた場所に移動する方法であるワープ航法を採用していた。

 連邦も、実際にワープ航法を採用するだけの技術力を持っていたが、ワープ航法は、ワープの出口となる空間に予想外の障害物があった場合に思いもよらぬ事故が起きかねないことから、採用をしていなかった。そんな危険な航法を、しかも戦法として、ヘグニ艦隊は使用してきたのだった。

「キャミル少佐でなくとも、たかだか戦艦一隻と数隻の戦闘艦とで、あれだけの大艦隊の相手をすることはできないだろう」

「しかし、油断をしていたのは事実です。もっと、緊張感を持っていたら、違った対応ができたはずです」

 キャミルは少し頭を下げて自分の足元を見つめた。

「キャミル少佐、そんなに自分を責めるな。今回の事態について、軍の上層部も君の失態とは考えていない」

「そんなことはどうでも良いのです! 私は、部下を百人以上も死なせてしまったのです。みんな家族がある兵士達です。その家族達にびてもびきれません」

 キャミルは、強く握った両手が小刻みに震えていることを止めることはできなかった。

「君は、これまで大きな犠牲を出すことなく、勝利を積み重ねてきたからな。しかし、戦争に犠牲はつきものだ。誰一人として死なない戦争などはあり得ないぞ」

「それは分かっているつもりですが……」

 少将は、机の上で手を組んで考え込んでいたが、しばらくすると、優しい顔をしながらキャミルに告げた。

「キャミル少佐。アルスヴィッドの修理も必要だし、君の気持ちの切り替えも必要だ。しばらく休養をしたまえ」

「ヘグニ制圧作戦からは外すと……」

「そうだ。後ろ向きの司令官に戦果を期待することはできないからな」

「……分かりました」

 キャミルはロバートソン少将に敬礼をして、振り返り、部屋を出て行こうとドアのところまで来た時、少将から声を掛けられた。

「キャミル少佐」

 キャミルがドアの方を向いたまま立ち止まると、その背中に向かって少将が言った。

「やはり気が変わった。君に新たな任務を与える」

 キャミルが驚いて振り返えると、少将は嬉しそうに微笑みながら新たな命令を告げた。


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