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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー02 ヴァルキュリアの嘆き
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Scene:02 惑星ヘグニ上空(1)

 キャミルは、第七十七師団所属の複数の艦船からなる、臨時に編成された艦隊の司令官として、ヘグニ戦線の増強部隊として、惑星ヘグニ上空に派遣されていた。

 アンモニア系大気におおわれた惑星ヘグニは、連邦の辺境にある惑星で、そこには、トカゲのような容姿をした非ヒューマノイドのヘグニ族が生息していた。

 今から約十年前。

 ヘグニに惑星探査で降り立った探検家一行が、ヘグニ族によって皆殺しにされたため、連邦は外交ルートを通じて、その補償を求めようとしたが、ヘグニ族は、独自の進化過程を遂げた種族であり、そもそもの思考回路が違い、まったくコミュニケーションが取れず、また倫理観、価値観が絶対的に違ったため、交渉は決裂。連邦は共存共栄の道をあきらめ、銀河協約第二項により、ヘグニ族に対して宣戦布告をして、お互いの生存を懸けての全面戦争に突入した。

 もっとも、ヘグニ族は、惑星ヘグニとその周辺の三つの恒星系を支配しているだけであったことから、国家規模から言って、この戦争は連邦側の勝利によって、すぐに終わると予想されていた。実際に、惑星ヘグニ以外のヘグニ領土たる惑星の侵攻は、第三「牡牛座」師団と第七「乙女座」師団の圧倒的戦力をもって迅速に遂行すいこうされた。

 しかし、ヘグニ族の拠点として一つ残った惑星ヘグニへの侵攻戦は、思いの外、手間取っていた。

 その理由の一つは、惑星ヘグニ全体に垂れ込めている分厚いガス雲が、なぜか連邦宇宙軍艦船の機器の精度を狂わせてしまい、戦艦以下の攻撃艦がヘグニに進入して直接攻撃することができなかったからだ。したがって、惑星軍の装甲機動歩兵師団による地上戦が検討されていたが、ヒューマノイドが生息できないヘグニの地上で長期の制圧戦を行うためには、兵器や燃料はもとより、空気や食料を備蓄しておくべき拠点となる前線基地が必要であった。現在は、その前線基地を建設すべき適当な場所を探すため、上空からは観察できないヘグニの地形やヘグニ軍の展開状況を探るべく、無人偵察機による偵察が繰り返し行われているところであった。

 そして、ヘグニ上空では、第三師団と第七師団が包囲網を敷いていたところ、つい先日、ヘグニの大艦隊による奇襲があり、両師団がこれを撃破したが、かなりな被害を受けたことから、その補強のため、急遽、第七十七師団の一部の艦船が招集されたのだ。

 キャミルが緊急招集を受け、アルスヴィッドを旗艦とする第七十七師団の応援艦隊がヘグニ上空にとどまってから、既に二週間になるが、その間、ヘグニから艦船が押し寄せてくることはなくなり、アルスヴィッドの艦内には、やや間延まのびした空気が漂っていた。

 キャミルもほとんどすることがなく、今も、艦内のジムで、副官のビクトーレを相手に、トレーニングウェアにヘッドギアとボクシンググローブを着けて、スパーリングの真っ最中であった。

 リングのまわりには、アルスヴィッドの女性兵士達が大勢集まって、キャミルに声援を送っていた。まだまだ男性優位の軍において、最年少で少佐になっているキャミルは、女性兵士達のあこがれのまとだった。

「艦長! 頑張れ~!」

「艦長! 負けないで!」

「ビクトーレ大尉は、この前、私のお尻を触ったんです。そのかたきってください!」

 身長二メートルを超す長身で、額に三つ目の目を持つスクルド族であるビクトーレは、やりの名手として、キャミルが頼りにしている副官の一人であったが、もう一人の副官のマサムネが、滅多に冗談も言わないほど生真面目きまじめで、ストイックかつ厳格な性格であるのに比して、女性兵士にもちょっかいを出すなど、普段は、冗談好きの明るい性格で、部下達からも慕われていた。

 ビクトーレは、キャミルに「タイム」のジェスチャーをしてから、リングのまわりの女性兵士に言った。

「俺がいつお前の尻を触った? 艦長に変な誤解を与えるような発言は止めろ!」

 女性兵士達は、けらけらと笑っているだけであった。

「ビクトーレ。相変わらずのようだな。私がその根性をたたき直してやる!」

 キャミルも笑いながらビクトーレに言った。

「艦長。私の身の潔白を証明させていただくためにも負けませんよ!」

「望むところだ。リングの上では階級など関係ない。全力で掛かってこい!」

 再び、スパーリングが再開された。ビクトーレもキャミルに遠慮することなく、強烈なパンチを繰り出していたが、キャミルは両手でうまくブロックしていた。キャミルは、長身のビクトーレの胸のところまでしか身長がなかったが、キャミルが小刻みに打ち出すパンチは、ビクトーレの腹部や顔面を的確にとらえて、ビクトーレに少なからずダメージを与えていた。

 そして、キャミルは、ばててきたビクトーレのあごが若干じゃっかん上がったことを見逃さなかった。キャミルの小さな体から繰り出した強力なアッパーパンチがビクトーレのあごをとらえ、ビクトーレはそのまま仰向あおむけに倒れて、気絶をしてしまった。


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