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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode−01 惑星ヨトゥーンのラグナロク
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Scene:08 作戦会議(2)

「俺が考えた筋書きはこうだ。ボルディン商会の依頼を受けた探検隊は、ヨトゥーンに降り立って、ヨトゥーン族を見つけたが、すぐに立ち去らずに、もうけのネタになるような物はないかと、いくつかの植物や鉱物を無断で持ち出したんだろう。そして、その中の一つであるセイズに、今まで発見されていない未知の覚醒効果かくせいこうかを持った成分が含まれていることが分かった。しかし、ヨトゥーン族が存在しているだけで、それに手を出せないなんて我慢できなかったんだろう。商人ならばな」

「持ち出したのであれば、そのセイズという植物を別の惑星で栽培してみることもできたのではないか?」

「これは俺の想像だが、それも試してみたが駄目だった。つまり、セイズはヨトゥーンの土壌どじょうでしか生育しないのだろう。そうすると、ヨトゥーンで栽培するしかない。でも、ヨトゥーン族がいる以上、ヨトゥーンは立ち入り禁止になるから、大勢の労働者を立入禁止惑星であるヨトゥーンに運び込む訳にはいかない。さて、どうするか?」

 すぐにキャミルが答えを出した。

「ヨトゥーンの人達に栽培してもらうということか?」

「ピンポンだ。進歩した技術を見せびらかせて、それを奇跡と吹聴ふいちょうし、新しい宗教をおこして、ヨトゥーンの人達の信仰心を利用して、自発的に栽培してもらうようにしたということだ」

「そうすると、シャミルにヨトゥーンの再探査を依頼したのは、どういうことだ?」

「そんな危ない作物を栽培していることがばれないようにするには、ヨトゥーンに人を近づかせないようにしなければならない。そして好都合なことにヨトゥーン族がいた」

「なるほど! シャミルにヨトゥーン族を発見させて、ヨトゥーンを立ち入り禁止にしてしまうためだったのだな。誰も入ることができない惑星で違法な植物の栽培を堂々とするために」

「ああ、アスガルドの探検者ギルドに訊いたら、『正直者の探検家』という注文を付けていたようだぜ。ヨトゥーン族を見つけたと報告してもらうだけで良いのに、色々とぎ回られると面倒だからな」

「それでシャミルに白羽の矢が立った訳か」

 キャミルがそう言うと、シャミルはちょっと照れてしまい、少しうつむいた。そんなシャミルの様子をいとおしそうに見ていたハシムが話を続けた。

「次に、せっかく作った麻薬の原料も、ヨトゥーンから外に出さないと利益を生み出さない。そのためには輸送船をヨトゥーンにやる必要がある。しかし立ち入り禁止として、軍の監視下にある。さて、どうする?」

「その軍に運んでもらう」

 またキャミルは素早く答えを出した。

「そうだ。これほど確実なことはない」

「やはり辺境警備艦隊がグルになっているということだな?」

「そう考えざるを得ないな。おそらく辺境警備艦隊の司令官は、ボルディン商会に買収されているんだろう。あるいは利益の何割かを分け前としてもらうことにしているのかもな」

「軍の中に、そんなやからがいることは認めたくないが、私はシャミルの見たことを信じよう」

 ハシムの筋読みは、シャミルの考えていたそれとほとんど同じだった。シャミルは、唯一、解けてなかった疑問をハシムに訊いた。

「ハシム殿。ボルディン商会は麻薬の製造や販売に手を染めるほどきゅうしていたのでしょうか?」

「医薬品の開発には、莫大ばくだいな資金と長い時間が掛かる。これといった売れ筋商品がないボルディン商会の先は見えていたと言って良い。アスガルドの本社ビルも売却寸前まで追い込まれていたと聞いている。ボルディン商会の首脳陣は相当、あせっていたはずだぜ」

 シャミルと話すときのハシムは、生臭なまぐさい話の内容とは程遠い、恋人との語らいを楽しんでいるかのような顔つきになってしまうようだった。

「実は、ボルディン商会の製薬業は、最近は大した利益をはじき出していない。にもかかわらず、商会の羽振りは前よりも良いくらいで、あちこちで資産を買いまくっているようだ。表向きには資産運用が好調だと言っているらしいがな」

 ハシムが話している途中から、キャミルは、目を閉じ腕組みをして考え事をしているようだったが、しばらくして目を開くと、すっくと立ち上がった。

「これからアルスヴィッドでヨトゥーンに乗り込む!」

「そりゃ、危険だね。軍の中枢部にたれ込んだ方が良いんじゃないかい?」

 カーラがキャミルを心配して言った。

「いや、キャミルを前にこんなことを言うとしかられるかもしれないが、相手はボルディン商会だ。連邦の政権中枢にも太いパイプを持っている。軍が動こうとしても、上層部によって、もみ消されるおそれもあるな」

 世の中の表も裏も知り尽くしているかのようにハシムが言ったが、キャミルには表も裏も関係なかった。

「私が所属している第七十七師団は、いちいち上官の許可を得なくとも、軍事行動を取ることができる遊撃艦隊だ。動かぬ証拠をつかんで突き付けてやれば、認めざるを得ないだろう。私は一人でもヨトゥーンに行く!」

 その言葉を待っていたかのように、キャミルの両脇に座っていたマサムネとビクトーレが立ち上がった。

「艦長一人では行かせません! 我々も、いや、アルスヴィッドの乗組員全員が艦長に従うでしょう!」

 マサムネが毅然きぜんと言い放つと、ビクトーレも無言でうなづいた。

「二人とも……。よし! お前達の命は私があずからせてもらうぞ!」

「艦長の部下になった時より、そのつもりです!」

 青春ドラマのように、熱く燃える軍人三人を横目で見ながら、ハシムが冷めた口調で言った。

「いくら遊撃艦隊でも、法を犯すような軍事行動はやばいんじゃないか? 軍籍剥奪ぐんせきはくだつになるかもしれないぞ」

「もとより承知の上だ! そんなことが怖くて、私が行動を控えるとでも思っているのか、ハシム?」

「いや、俺が知っているキャミルは、自分が信じる道を真っ直ぐにしか進むことができなくて、そして、いったんやると決めたことは、誰が何と言おうとやり抜く。そんな阿呆あほな奴だ。今更、俺の言うことを聞く耳なんて持ってねえだろ?」

「なら訊くな」

「そうだな。……でも、キャミル。無茶はするなよ」

「……ああ」

 その時、シャミルも立ち上がり、キャミルを真っ直ぐに見据みすえた。

「キャミル! 私も行きます!」

「シャミル。相手は軍の部隊だ。大規模な戦闘となる可能性が高い。危険だ」

「それは分かっています。でも、私も、ヨトゥーンの人々の素朴な信仰心を利用して、私腹を肥やそうというようなやからは許すことができません。だから、私は、あなたの行動をして見ていることはできないのです」

「シャミル……。まったく、君は変わった人だ」

「父上は相当な変わり者だったそうですよ。その同じ父親の血を受け継いでいるのです。あなただって変わっていますよ。だって、懲罰ちょうばつを科されてしまうかもしれないのですよ」

「覚悟の上だ。連邦軍人が守るべきものは軍の体裁ていさいではない! 正義だ!」

「私が守りたいものは、ヨトゥーンの方々(かたがた)です。ヨトゥーンの方々(かたがた)の豊かで平穏な生活を守ってあげたいのです」

「守るべきものは違うが、やるべきことは同じということか?」

「はい、そういうことです。だから、ご一緒にまいりましょう」

 まるで一緒に買い物にでも行くような雰囲気でしゃべるシャミルに、キャミルもあきらめたようだ。

「……やれやれ、仕方がない。どうやら君は一度言った言葉をすんなりと撤回するような人ではないようだ」

「お互い様です」


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