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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-11 エピローグ
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エピローグ

 漆黒の宇宙。

 その全ての方向に輝く星々。

 その中にある一つだけ大きく輝く星があった。

 恒星ユグドラシルだ。肉眼で見えるその大きさから、ここが銀河連邦の首都惑星アスガルドを擁するユグドラシル恒星系、すなわち首都空域のはずれに位置する空間であることが分かる。

 宇宙船の航行が多い首都空域もこの辺りまで来ると、通航する船はそれほど多くなかった。

 しかし今、ユグドラシルに向けて、一隻の宇宙船が高速で航行していた。そして、すぐにその後ろに一隻の宇宙船が迫って来ていた。

 追われている船も追っている船もともに戦闘艦であった。

 追っている船は、追われている船の一・五倍ほどの大きさを持つ、流線型をした真っ黒な船体であった。

 そして、その船体に書かれている船名は――フェンリスヴォルフ号!



「敵を捕捉したにゃあ!」

 艦橋でレーダーを見つめていたサーニャが嬉しそうに声を上げた。

「よっしゃ!」

 目標の宇宙船をロックオンしたことを確認したカーラが、レーザー砲の引き金を引くと、レーザービームは、追尾していた宇宙船の船尾を正確に打ち抜き、航行不能に陥らせた。

「やったぜ!」

「制圧します!」

 船長席に座ったシャミルが指示を出すと、フェンリスヴォルフ号はゆっくりと宇宙船にドッキングして、乗り込みチューブを接続させた。

 チューブの先頭には、戦闘宇宙服を着込んだキャミルがいた。

 手際良く宇宙船の搭乗ゲートを開けると、兵士達を引き連れて宇宙船に乗り込んで行った。

「相変わらず、キャミルは手際が良いな」

「五分というところでしょうか?」

 シャミルの予想どおり、五分後、キャミルから制圧完了の連絡があった。



 捕らえた宇宙船を曳航えいこうしたまま、フェンリスヴォルフ号は、アスガルド第二宇宙港に着陸した。

 フェンリスヴォルフ号から十名ほどの兵士が降り立つと、隣に着陸させた宇宙船から手を拘束された男どもを連れ出して行った。

 その様子を兵士達に遅れて降り立ったシャミルとキャミル、カーラとサーニャが見つめていた。

 男どもが連行される先には、ビクトーレがいた。

 ビクトーレは、ニコニコとしながら、シャミル達の元に近づいて来た。

「ご苦労様です、シャミルさん! かんちょ……いえ、キャミルさん」

「久しぶりだな。あっ、いや、久しぶりですね。ビクトーレさん」

「はい。……あ、あの、やっぱり、呼びにくいですね」

「そうですね」

 他人行儀なキャミルとビクトーレだった。

「少佐になって、第一師団所属の重巡洋艦の艦長ですか。昇進おめでとうございます」

 キャミルがビクトーレに会釈をしながら言った。

「ありがとうございます」

「マサムネさんも少佐に昇進して、確か第一士官学校の教官になっていると聞きましたが?」

「はい。ビシバシと鍛えているようですよ」

「はははは、らしいですね」

 言葉が途切れると、ビクトーレは少し寂しげな顔をした。

「本当は、マサムネと一緒に艦長を追い掛けたかったんですけどね」

「だから、私は、もう艦長ではありませんよ」

「そうですね」

 お互いに視線を落として、困ってしまったかのようなキャミルとビクトーレの間に、シャミルがちょこんと割り込んだ。

「ビクトーレさん! 今日、私達は、アスガルドに泊まる予定にしているのです。晩ご飯、ご一緒にいかがですか?」

「本当ですか? ぜひご一緒したいです!」

 シャミルの誘いに、ビクトーレは満面の笑みで飛びついた。

「では、後ほど連絡させていただきます」

「分かりました! では、夜にたっぷりと思い出話をさせてください!」

 ビクトーレは、シャミルとキャミルに敬礼をすると走り去って行った。

「キャミル?」

「うん?」

 シャミルが首を傾げてキャミルを見た。

「寂しくはないですか?」

「そうだな。……少しは寂しいが、マサムネもビクトーレも宇宙軍の将来を背負って立つ優秀な軍人だ。私の気まぐれにつき合わせる訳にはいかなかったからな」

「そうですね」

 キャミルが捕らえた海賊達の身柄確認をしているビクトーレを遠くに見ながら、キャミルを慰めるように、シャミルはキャミルと腕を組んだ。

「おーい!」

 遠くでハシムが手を振っていた。

「おお! もうお昼の時間じゃねえか!」

「うひょひょ、今日はどんなご馳走を奢ってくれるんかにゃあ」

 カーラとサーニャの嬉しそうな視線を浴びながら、ハシムがシャミルとキャミルの側まで小走りにやって来た。

「今日もあっさりと海賊狩り終了か?」

「何と言っても、うちの斬り込み隊長はキャミルですから」

 シャミルがドヤ顔で言った。

「それもそうだな。じゃあ、俺から、お疲れさま代わりに昼飯をご馳走しよう」

 ハシムの言葉に、カーラとサーニャが跳び上がって喜んだのは言うまでもない。

「割り勘だ。ハシム」

「おいおい、キャミル。もう軍人じゃなくなったんだから、そう言うことは考えなくて良いだろ?」

「変な貸しは作りたくないからな」

「適正な報酬だ。貸し借りなんかじゃねえよ」

 自由業になっても、自らを厳しく律するキャミルであった。

 やれやれと首を振ったハシムが歩き出すと、シャミルとキャミルが両隣に並んで歩き出し、その後ろにカーラとサーニャが続いた。

「しかし、探検家と賞金稼ぎを一緒にするたあ、考えもしなかったぜ」

 ハシムが右隣を歩くシャミルに言った。

「だって、キャミルと一緒にいられるには、これが一番じゃないですか」

「それはそうだけどよ。まあ、シャミルは、これまでとそんなに変わっていないと思うが、キャミルが、スパッと退役するとは思わなかったぜ」

「テラ解放戦線の一件もあって、軍の在り方に少し疑問が生まれたんだ。これから階級が上がるにしたがって、自分の理想と掛け離れていってしまいそうな気もするしね」

 ハシムの左隣を歩くキャミルが前を向いたまま答えた。

「確かに、そうだろうな。キャミルは真っ直ぐすぎるから、いつかは、こんな時が来るとは思っていたけどな」

「ああ、シャミルが誘ってくれて嬉しかったよ」

「今や連邦内で知らぬ者なしの二人組だ。軍をひざまづかせた二人だからな」

「もう、その話はしないでください」

 シャミルが照れたが、すぐに真剣な表情になった。

「でも、その力を一番有意義に使うのって悪い人をやっつけることですよね?」

「違いねえ」

「それなら、キャミルと一緒にやろうかなって思ったんです」

「向かうところ敵無しだろう。海賊達はフェンリスヴォルフ号の黒い船体を見たら体が固まるらしいぜ」

「この銀河の不思議は探検家達にとっての不安であり、海賊達は商人や市民の不安です。この銀河の大海原から不安を取り除くのが、私達の仕事です」

 自分達の信じる道を進むため、キャミルは軍を退役し、シャミルとともに探検家兼賞金稼ぎを始めた。

 メルザのフェンリスヴォルフ号を受け継ぎ、船長はシャミル、副船長としてキャミルが収まり、シャミルの副官にサーニャ、キャミルの副官にカーラがなった。そして、アルヴァック号の航行スタッフに、キャミルを慕って退役したアルスヴィッドの精鋭三十名ほどを加えた総勢五十名ほどの新しいチームを発足させた。

 そして、大勢の乗組員を雇うための金銭的援助はハシムが引き受けてくれた。貸し付けという形にしていたが、低金利でほとんど贈与に近かった。

 既に連邦では有名だった上に、軍を屈服させた二人に探検と海賊討伐の依頼が殺到したが、二人は他の探検家や賞金稼ぎが受けたがらないような本当に困難な依頼を率先して受けた。

 二人が手にした強大な力を使うのは、権力のためでも蓄財のためでもなかった。連邦市民の不安を取り除くためだけであった。



「探検の依頼については、そろそろ、うちの商会と専属契約してくれねえかな?」

「残念だな、ハシム。私達は、まだまだやることがある。さっきシャミルが言ったこともそうだが、時空の牢獄に閉じ込められている父親とメルザを助け出さなければいけない。メルザはこの時空間で適正な法の裁きを受けなければいけないんだ」

 メルザの副官のアズミとファルアはテラで惑星軍に捕らえられ、そのまま拘留された。メルザの手下であったフェンリスヴォルフ号の乗組員も一網打尽にされ、全員が法の裁きを受けていた。

 自分達の姉ではあるが、犯した罪は償わなければならない。もしかしたら死刑になるかもしれない。しかし、それもメルザを同じ時空間に戻さないとできない話だ。

 父親であるジョセフは、シャミルやキャミルだけではなく、シャミルの母マリアンヌも会いたいと願っているだろう。

「そうだな。……まあ、二人の父親と姉さんだもんな」

「はい! 絶対、見つけます!」

 シャミルがきっぱりと言い切った。

「船長と副船長!」

 カーラが、いつの間にか立ち止まって話をしていたシャミルとキャミルを呼んだ。

「腹減って死にそうだぜ! 早く飯を食いに行こうぜ!」

「そうでしたね。一瞬、忘れてました」

「船長! 最近、ボケに磨きが掛かってきたんじゃねえか?」

「キャミルがいつも側にいてくれるから油断しちゃうんですよね」

「私はシャミルのお守り役じゃないぞ!」

「えー! お世話してくださいよぉ!」

「船長なんだから一人でできるだろ!」

「できないもん! できないもん!」

「何、甘えてるんだよ」

 じゃれついてくるシャミルを押しのけるキャミルだった。

「せんちょ~、めし~」

 カーラとサーニャが半泣きで繰り返した。

「もう仕方無いなあ」

 シャミルはキャミルの手を握った。

「行きましょう! キャミル!」



 組織に属さずに、自分達の道を歩み出したシャミルとキャミルだが、連邦軍のみならず、連邦内のあらゆる勢力が二人の去就に注目をしていると言っても過言ではないだろう。

 誰しも二人を敵に回したくないはずで、逆に、二人を取り込もうと甘言を弄してくる輩もいよう。

 しかし、シャミルとキャミルは誓っていた。

 自分達が信じる道だけを二人一緒に突き進もうと!


(完)

長い間のご愛読ありがとうございました!

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