Scene:20 進むべき道
テラ解放戦線は連邦軍に投降した。
テラを包囲していた宇宙軍の艦隊が一斉にテラに降り立ち、別の惑星軍の師団がテラ解放戦線の兵士を全員拘束し、その武器や兵器を没収した。
連邦政府は、テラ自由国の建国を無効とし、連邦構成国であるテラ共和国の存続を確認した。
すべてが終わった、その日。
シャミルとキャミルは、パリ地区にあるシャミルの実家にいた。
夕食も終わり、風呂にも入って、シャミルの母親に買ってもらったパジャマを着たキャミルが机の上に置かれたPCを使って軍への報告書を作成しているのを、ベッドに腰掛けたシャミルがつまらなさそうに見ていた。
「ねえ、キャミル」
「うん?」
「まだですか?」
「もうちょっとだ。先に寝てて良いぞ」
「嫌ですよ。一緒に寝るんです!」
シャミルは痺れを切らして、枕を抱えて、キャミルの後ろに立った。
「こ、こらっ! これは軍の機密事項だぞ」
キャミルがシャミルにPCの画面が見えないように、自分の体をずらした。
「キャミルと一緒に経験した事実しかないんでしょ?」
「そ、それはそうだが」
諦めて、再びPCに向き直ったキャミルを後ろからシャミルが抱き締めた。
「お、おい!」
「へへへ」
ひとしきりキャミルを抱き締めた後、シャミルはキャミルの耳元で囁いた。
「キャミル、アース族のことはどういう風に報告するのですか?」
「……少し、省略をしようと思っている。私達が注入されたアース族の歴史とかの部分も」
「デリング博士やアリシアさんが失職してしまいますものね」
「まあ、それもあるが、私達のご先祖様にしては、あまりにも身勝手で自己中でさ。子孫として、それをつまびらかにすることは、何か気が引けてね」
「そうですね」
シャミルはキャミルの首に回している両手に少しだけ力を込めた。
「それより、キャミル。これからどうします?」
「どうするとは?」
「今回の一件で、私達、更に有名になっちゃいましたね」
「そうだな」
「美しすぎる探検家」と「最年少宇宙軍士官」として、もともと有名だった二人に、「軍を屈服させた超能力者」との看板が付け加えられたのだ。
「私は良いとして、キャミルは、きっと困ることになると思うんです」
キャミル自身が装甲機動歩兵などよりも強力な「兵器」であることが明らかになったことで、軍はキャミルの処遇に困るはずだ。
自分の信じる道を進むというキャミルの性格も把握されているはずで、いつ軍の方針に逆らって暴発してもおかしくないキャミルという「兵器」の扱いには、軍も慎重にならざるを得ないだろう。
また、キャミルの高い人望から、キャミルについていくという兵士も少なからずいることも明らかで、指揮命令系統で縛られている軍という組織にキャミルを置いておくことの危険性も十分認識しているはずだ。
「そうだな。……今回の件で連邦軍も一枚岩でないことも分かった。上層部に行けば、政治家との付き合いも出てくる。そろそろ自分の居場所ではなくなってきている気もしているんだ」
キャミルが寂しそうな顔をしたのを、シャミルは嬉しそうな顔で答えた。
「だったら、キャミル!」
シャミルがキャミルの肩を持って、椅子ごとキャミルをくるりと回転させて自分の方に向かせた。
「軍なんて辞めちゃえば?」
「えっ?」
「そうすれば、ずっと、キャミルと一緒にいられるんだもん!」
「……そうだな。それも有りかな」
「本当に? 考えてくれる?」
「……ああ」
迷ったのも一瞬だったキャミルの力強い返事を聞いて、シャミルは正面からキャミルを抱きしめた。




