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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-10 銀河を継ぐ者
231/234

Scene:19 リンドブルムアイズ(1)

 シャミルの姿のフレイアと、キャミルの姿のロキは、遺跡の奥まった場所にあるピラミッド様建造物の前に立った。

 二人の前には、惑星軍の兵士達が臣下の礼をとるようにひざまづいていた。

 その最前列には、ハウグスポリ少将とレンドル大佐、そしてアリシアがいた。

「貴様らを余らの直属の兵士にしてやる。名誉ある兵役に感謝するが良い!」

 ロキが高らかに宣告をした。

 アース神族の驚異的な超能力を前に、惑星軍の圧倒的な戦力も封じ込められてしまって、ハウグスポリ少将も屈服するしかなかった。

「貴様達がテラと呼ぶこの惑星は、もともと我らが母星。返してもらうのは当然として、そもそも銀河のすべてが余らの領土だ」

 ロキは、ハウグスポリ少将を指差した。

「貴様から銀河連邦と呼ぶ貴様らの政府に通告をしろ! 余らの支配下に入れと!」

「……直ちに連絡をいたします」

「そうだ。そう言うように、身の程をわきまえた対応が賢明だ」

 ロキが兵士達を見渡すと、列の真ん中ほどにひざまづいていた兵士の体がいきなり破裂した。

 その周りにいた兵士達は恐怖で身動きすらできなかった。

「余は気まぐれで気が短い。少しでも反抗的な態度を見せたら、あのようになる」

 ヒューマノイド種族を下等生物としか見ていないロキの、残忍で冷徹な笑い声が遺跡の広場に響いた。

 その間、フレイアは無表情なまま、ロキの後ろで立っていたが、ふいに顔に手をやり、苦痛に歪んだような顔を隠した。そして、そのまま動かなくなった。

 ロキもフレイアの方に振り返ったまま動きを止めた。

 しかし、顔を伏せていたハウグスポリ少将らは、そのことにしばらく気がつかなかった。



 シャミルとキャミルの前に、フレイアとロキが現れた。

 一瞬、何が起きたのか理解ができなかったようで、ロキは不審げな顔をしていたが、目の前のシャミル達を見ると、その表情は怒りの表情に変わった。

「貴様ら! 何をした?」

「あなた方に戻ってほしいと考えただけです」

 シャミルが冷ややかに答えた。

「何だと?」

「私達の体は私達のものです! すぐに返してください!」

「ふんっ! この劣化複製が! 我々に体を使ってもらえるだけでもありがたく思え!」

「迷惑です! すごく迷惑なんです! 全然、ありがたくありません!」

「時空の牢獄からここまで移動してくるなど、油断しておったわ。やはり、貴様らは危険だ。精神体を含めた、すべての存在を消滅させるべきだな」

「私達は、まだ、やることがあります! 三億年もの間、何もしなかったあなた方こそ、いなくても良いんじゃないですか?」

 シャミルの言葉が珍しく辛辣しんらつだった。

「貴様!」

 ロキが怒髪天を衝く勢いで顔を赤らめ、剣を抜いた。

「その身の程知らずの態度を悔い改めさせてやる!」

「ロキよ」

 ロキが剣を構えて、シャミルとキャミルに近づこうとしたが、それまで、ずっと無言だったフレイアがロキを呼び止めた。その声までシャミルとうり二つであった。

「何でございますか?」

 立ち止まったロキは、シャミル達から視線をそらさずに、フレイアに背中を向けたまま訊いた。

「やめておけ」

「……! 何をおっしゃっているのです?」

 ロキは、フレイアの言葉が理解できずに戸惑った表情で振り返り、フレイアを見た。

 しかし、フレイアはロキの問いには答えず、ゆっくりとロキの前に出て来た。

 フレイアの視線は、シャミルに貼り付いていた。

「シャミルとやら」

 改めてフレイアを見つめたシャミルは、鏡を見ている気がしてならなかった。

「そなたは余じゃな」

「えっ?」

「そなたの体は、余が本来持っていた体とまったく同じじゃ」

 容姿だけではなく、その持っている能力も、アース神族の女帝たるフレイアと同じだと言われても、シャミルはピンとこなかった。

「そうなんですか?」

「……むしろ、余以上かもしれぬ」

「フレイア様、何を言われているのですか?」

 ロキが焦ったように言った。

「今まで、この体であればと、余らが受肉を試みたことが何度かある。しかし、そのすべてで肉体が破壊された。余らが収まるキャパシティを有していなかったからじゃ」

「……」

「しかし、シャミルの体は十分なキャパシティを有している。それどころか余裕すら感じる」

「……シャミルの精神生命体は、その余裕を埋めるだけの大きさを持っていると?」

「分からぬ。しかし、この者の体には、力を発展させるための余地がまだ十分にある。したがって、シャミルは既に余のキャパシティを超えているやもしれぬ」

「そんな馬鹿な……」

「フレイアさん」

 フレイアとロキの会話にシャミルが割り込むと、二人はシャミルに注目した。

「あなたが私と同じなのかどっちが広いかなどという議論を、今、戦わすつもりはありません。私達が求めるのは、私達の肉体を返してほしいということです」

「何度言えば分かるのだ?」

 ロキはシャミルを睨みつけながら、フレイアの前に立ち塞がった。

 しかし、ロキは、まるで見えない手で突き飛ばされたように、後ろ向きに倒れた。

「あなたと話をしていません! 私はフレイアさんと話をしています!」

「き、貴様! 劣化複製のくせに!」

 自分がその劣化複製から突き飛ばされたことで、ロキの怒りは頂点に達した。

 急いで立ち上がり、再び剣を構えた。

「フレイア様! もう邪魔はされないでくださいませ! こいつらを今すぐに始末いたしますゆえ!」

 ロキの怒りの眼差しを真正面から受け止めたシャミルは、一歩足を踏み出して、ロキと睨み合った。

「ロキさん。私達が劣化複製だと言われるのであれば、原本オリジナルとしての実力を示されたらいかがですか?」

 言葉遣いこそ丁寧であったが、シャミルの言葉には怒りが込められていた。

「ふんっ! もとよりそのつもりだ!」

「ならば、こちらはキャミルがお相手させていただきます」

 シャミルは、すぐ後ろにいたキャミルに振り向くと、先ほどまでの怒りを隠して、いつもの温和な表情を見せた。

「キャミル! キャミルの実力を見せてあげてください」

「シャミル?」

 キャミルは、メルザと二人掛かりでも手も足も出なかったロキを相手にしろというシャミルの温和な表情に戸惑った。

 しかし、シャミルは表情を崩すことなく、穏やかにキャミルに言った。

「大丈夫です。もう私が力を与えなくても、キャミルは銀河で一番強い戦士です」

 これまで、シャミルが念を送ることで、キャミルは超人的な力を発揮することができた。しかし、今、シャミルは、そんなことをしなくても、キャミルはロキに勝てると断言しているのだ。シャミルの自信がどこから来るのか分からなかったが、キャミルはシャミルの言葉を信じることにした。

 顔と気持ちを引き締めて、キャミルはエペ・クレールを抜き、ロキに向かって立った。

「勝負だ! 私が勝ったら、私達の肉体は返してもらうぞ!」

「こざかしい!」

 ロキもキャミルに近づき、剣をキャミルに突き付けた。

「劣化複製は、所詮、原本オリジナルには勝てない」

「私は負けない!」

 気持ちを奮い立てるようにキャミルが叫ぶと、ロキは剣を上段に構えた。

 ロキはキャミルよりも身長が高く、体格も良かったが、お互いの気迫によるせめぎ合いではキャミルも負けてなかった。

 実際に対峙してみて、キャミルの実力が生半可な物ではないと感じられたのか、ロキもすぐには打ち込まなかった。

 気迫負けした方が勝負にも負ける。それは確実であった。

 八相に構えていたキャミルから仕掛けた。

 エペ・クレールを斜め上から振り下ろしたが、ロキはそれを剣で防ぐと、そのまま弾き返した。しかし、キャミルも姿勢を崩されることなく、弾かれた勢いのまま剣を振り回して、今度は水平にロキの首に向かってエペ・クレールを払った。

 ロキは、咄嗟にしゃがみ込むように身を屈めてやりすごすと、そのままバック転で距離を取り、剣を構え直した。

 キャミルは、隙を与えないようにすぐに斬り掛かったが、ロキは剣で受け止め、そのまま攻守交代してロキはキャミルに斬り付けた。

 その後も、お互いに、無駄の無い動きで剣を振り回して火花を散らしたが、それぞれの剣は相手の体に届かなかった。

「キャミル!」

 キャミルとロキが再び間合いを取った時、シャミルが大声でキャミルを呼んだ。

「まだ迷いがありますよ! もう一度言います! あなたは銀河で一番強い戦士です!」

 キャミルは、目を閉じて精神を集中させた。

 ロキの動きが分かった。

 目を閉じている間に仕掛けようとロキが少しでも動くとすぐに目を開けて、剣を構えた。

 まったく隙の無い構えに、ロキもうかつに打ち込めないようだった。

 その後も、ロキを威嚇しながらも、何度か目を閉じて、精神を集中させたキャミルは、何か、体の中からみなぎって来るものを感じた。

 それが体中に充満したことを感じたキャミルは、しっかりと目を開けて、エペ・クレールを構えた。

 キャミルの体が赤く輝きだした。淡く赤いオーラが全身にまとわりついているようであった。

「な、何だ? 何をした?」

 ロキも驚きの声を上げて、シャミルを見た。

「何もしていません。これが、キャミルが本来持っている力です!」

 これまで、シャミルの助けを借りて、この状態になったことはあるが、自分一人だけの力でなったのは初めてだった。 

「行くぞ!」

 キャミルがロキに突進をしたが、その速度は今までと比べ物にならないほど速かった。

 エペ・クレールから放たれている青い光と、キャミルの体から放たれている赤い光とが混ざった光の玉がロキに飛んで行ったように見えた。

 ロキも剣で受け止めたが、まったく余裕が無くなり、繰り返し打ち込まれるエペ・クレールを防ぐことで精一杯であった。

 次第にロキを圧倒していったキャミルは、俊敏さが失われていたロキの剣を弾き飛ばした。

 そして、エペ・クレールをロキの喉元に突き付けた。

「そ、そんな馬鹿な!」

 悪い夢を見ているとしか思えないという表情のロキは、キャミルに負けたことが信じられないようであった。

「馬鹿なことはありません。これが現実です」

 ロキにそう言うと、シャミルはフレイアのすぐ前に進み出た。

 まるで、そこに鏡があるような錯覚を起こすほど二人はそっくりであった。

「フレイアさん、あなたはもう気づかれているはずですよね?」

 

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