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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-10 銀河を継ぐ者
230/234

Scene:18 時空間を隔てた別離(2)

 シャミルは、メルザの言葉の意味が分からなかった。

 メルザが言葉を続けた。

「青い石を持っている三人が同時に動くから、空間に穴を開ける光の力が弱くなるんだろ? だったら、一人か二人がこの位置に残って、光を当て続けるしかないじゃないか」

「それって……」

「全員で向こう側の時空間に行けないと言うことだ」

 ジョセフが言った。

 重苦しい空気が流れ掛けたが、ジョセフがすぐに口を開いた。

「私が残ろう。既に四年近く向こうの時空間にいなかった私が、今更帰ったところで何の役にも立たないだろう」

「私も残るよ。今、一番、向こう側に行って、役に立ちそうなのは」

 メルザがシャミルとキャミルを見た。

「二人だね。それに二人は、あのフレイアとロキという奴から肉体を取り戻さないといけないしね」

「メルザさん! 何を言ってるんですか! 父上も!」

「シャミル。メルザが言ったとおりだ。向こう側にはフレイアとロキがいて、再び、自分達が銀河を支配しようとしている。二人に対抗できるのは、シャミルとキャミルの二人しかいない」

 ジョセフもメルザの意見に同調した。

「じゃあ、父上が先に行ってください! 三つの石で穴を当て続けますから、父上一人ならあの穴を通って向こう側に行けるはずです」

「いや、それは危険だ。誰か一人でも向こうの時空間に行くと、どんな変化が起きるか分からない。それだけ、この時空間と向こう側を繋ぐ接点はもろいはずだ」

「でも!」

「シャミル! お前がキャミルと一緒に行くんだ! フレイア達の野望から銀河を救えるのは、お前達しかいないんだぞ!」

「悔しいけど、そう言うことだね。出来損ないの私やジョセフじゃあ、どうにもできないよ」

「父上……、メルザさん……」

 メルザが、決心のつかないシャミルの肩を抱いて、少し自嘲気味に話した。

「シャミルさん、あのロキとか言う奴に私は手も足も出なかっただろ? 惨めだったよ。私が向こう側に行っても、ロキに同じ屈辱を味わいさせられるなんてのは耐えられないね。私は常に無敵の海賊メルザでいたいのさ」

「……」

「まあ、そう言うこった。穴が開いたら、シャミルさんとキャミルさんが全力で穴に飛び込むんだ」

「でも」

 シャミルは涙が止まらなかった。せっかくここまで一緒に来た、自分の父親と姉と置き去りにすることが耐えられなかった。

「やっぱり嫌です! 二人を置いて行けません!」

 シャミルの叫びに、キャミルも何も言えずにうつむいたままであった。

 ――パシーン!

 シャミルの左頬がメルザに平手打ちされた音が響いた。

「聞き分けのないことを言うんじゃないよ!」

 メルザは本気で怒っていた。

「人はね、持って生まれた役割ってもんがあるんだよ。私の役目はもう終わったんだよ」

「……」

 メルザは、向こう側の景色を見ながら、穏やかな顔をした。

「ジョセフが私を園に迎えに来てくれて、私は初めて家族を得た。ジョセフと一緒に宇宙を飛び回っている時は正直嬉しかったよ」

「……」

「でも、ジョセフが行方不明になって、私は、また独りぼっちになっちまって、悲しくて、自暴自棄になった。そんな時、フェンリスヴォルフ号はガンドールの襲撃を受けた。船員は全員殺された。私も死のうとしたけど、ガンドールは私を殺さなかった。無様ぶざまに生き残った私は、ガンドールの慰み者になっちまったのさ」

 シャミルとキャミルは耐えられないように目を伏せた。

「何度、死のうかと思ったよ。でも、ガンドールは私が死ぬことを許さなかった。そればかりか、私の実力を認めてくれて、私を副官にまで引き上げてくれたんだ」

「……」

「私は嬉しかったよ。自分を必要としてくれる人がいてくれたことがね。でも、そんなガンドールもヒューロキンの囮に引っ掛かって討たれちまった」

 メルザの表情に影が差した。

「救命艇で何とかその場から逃げ出した私はガンドールの復讐をすることしか考えられなくなっていた。ガンドールに襲われた後、ドッグで修理していたフェンリスヴォルフ号に乗り込み、女狼めろうとしてヒューロキンを血眼で探した。襲った商船の乗組員を皆殺しにしたのは、ヒューロキンに対する当てつけさ。それに私の賞金額が上がれば、ヒューロキンは必ず私を討ちにやって来ると思ったのさ」

「……」

「でも、ヒューロキンは、もうこの世にはいない。私が向こう側に行っても待っているのは死刑執行台か、ロキ達の手先になることくらいしかないだろうね」

「……」

「でも、あんたらは向こう側に行って、やるべきことが山ほどあるだろ? あんたらなら必ずやってくれるだろ?」

「……メルザさん」

 シャミルの涙は止まらなかったが、その目には決意の光が輝いていた。

 そんなシャミルの左肩をキャミルも優しく抱いた。

「行こう、シャミル」

「……はい」

 メルザは嬉しそうに微笑むと、シャミルの右側に立った。

「さあ! もう一回やるよ!」

 メルザの声で三人は、向こう側にある大きな青い石に全神経を集中させた。

 三つの青い光が「見えない時空の壁」を突き破って、その青い石に届いた。

 見えない壁には二メートルほどの穴が開いているのが分かった。

「行っといで」

 メルザが優しく言うと、シャミルとキャミルはタイミングを合わせて一気にダッシュした!

 エペ・クレールとコト・クレールの青い光は失われたが、エキュ・クレールの光で、穴が塞がるスピードはかなり遅くなっていた。

 シャミルとキャミルは手を繋いで、直径一メートルほどにまで小さくなっていた穴に頭から飛び込んだ。

 二人は、そのまま床に倒れたが、すぐに起き上がって、穴を見つめた。

 穴は五十センチほどまで小さくなっていて、更にゆっくりと小さくなっていた。

 穴の向こう側から、ジョセフとメルザが顔を見せた。向こう側からとこっち側からとでは見え方が違っていて、こちら側では、周りの光景の中にぽっかりと穴が開いて、そこからジョセフとメルザの顔が見えていた。

「父上! メルザさん! まだ行けます! 早く!」

 シャミルが呼び掛けたが、二人は笑顔で首を横に振った。

「どうやら、これ以上、穴を大きくすることはもちろん、維持することも難しいようだ」

 ジョセフが笑顔で言うと、メルザも笑顔だった。

「こんなことなら、もうちょっとダイエットをしてたら良かったねえ」

 そう言う間にも、穴はどんどんと小さくなっていった。

「父上! メルザさん!」

「シャミルさん、キャミルさん。あのロキって奴も言ってただろ? あんたらも時空間移動の能力を持っているって。ただ、そのやり方を知らないだけだって」

「……メルザさん」

「だから、いつか、そのやり方をマスターして、私達を助けに来ておくれよ。こっちは時間が止まっているらしいから、あんた達よりも若さを保ったままかもしれないよ」

 シャミルとキャミルは思わず穴のすぐ側まで駆け寄り、手でこじ開けようとしたが、所詮、無理であった。

 穴はどんどんと小さくなり、二人の顔がやっと見えるほどになってしまっていた。

 シャミルは顔をくしゃくしゃにしながら力の入らない声で呟いた。

「お姉さん!」

 その言葉にメルザも目を見開いてシャミルを見た。そして、その顔は今まで見たことのないほど嬉しそうな笑顔に変わった。

 キャミルは、さすがに海賊を姉さんと呼ぶことができずに、苦しそうな顔をしてうつむいてしまった。

「キャミルさん」

 メルザに呼ばれて、顔を上げたキャミルにメルザが優しい声で話し掛けた。

「無理しなくて良いよ。あんたとは、いつか剣で決着を付けたいって思ってたんだけどね」

「メルザ。……必ず、連れ戻す! その時には逃げずに勝負しろ!」

「分かったよ」

 穴はどんどんと狭まって、今にも塞がろうとしていた。

「父上! メルザ姉さん! 絶対に、絶対にお救いします!」

「その間、ジョセフとできなかった親子の会話でもしておこうかね」

 メルザの言葉にジョセフも苦笑していた。

 メルザの笑顔とともに穴は塞がった。

 シャミルとキャミルは、今まで穴が開いていた所を、しばらく呆然と眺めることしかできなかった。

「キャミル!」

 キャミルがシャミルを見ると、隠しようがない怒りがシャミルの全身から放たれていた。

 シャミルが何を言いたいのか、キャミルにも分かった。

「ああ! 私達のご先祖様やら何やら知らないが、いきなり現れて、好き勝手されてたまるか!」

「はい!」

 二人は周りを見渡してみた。

 そこは、マーガレット・デリング博士から聞いていたバルハラ遺跡の内部の様子と一致していた。

 直径五十メートルほどの円形の広場のようで半球形のドーム屋根が覆っていた。その屋根部分が間接照明のように光っており、部屋全体を明るく照らしていた。

 入口らしき箇所はまったく見当たらなかったが、壁の一角に少しへこんだ所があり、そこに大きな青い石が置かれて、淡い光を放っていた。そして、その前にベッドのような形の岩が四つ置かれており、そのうち一つにはジョセフが、その隣にはメルザが目を閉じて横たわっていた。

 シャミルが二人の体を確認してみると、微かに息をしているようで、常温なのに冬眠をしているような状態に思えた。

「父上は四年前から肉体はここに、精神は別の時空間に幽閉されていたのですね。でも、父上の体は健康体のように見えます」

「そうだな。おそらく、この照らされている青い光が何らかの影響を与えているのかもしれない」

「そうですね。ロキさん達のように何億年もの間、このまま肉体を維持できることは無理かもしれませんが、父上の体を見る限り、しばらくの間は大丈夫そうですね」

「ああ」

 キャミルはそう言いながら、眠っているメルザの美しい顔を優しく撫でた。

「キャミル」

 シャミルに呼ばれて、キャミルはドキッとしたようにシャミルを見たが、その顔は少し照れているようだった。

「父上もメルザさんも、精神生命体を必ず、この体に戻しましょう!」

「そうだな。……しかし、これからどうすれば良いんだろう?」

「今の私達は精神生命体のままです。まずは自分達の肉体を取り戻さないと」

「私達の肉体は、この遺跡の外にあって、おそらくフレイアとロキに乗っ取られているのだろう。しかし、どうやって取り戻したら良いんだ?」

「考えることしかできません。私達の肉体は無いのですから、物理的な行動を取ることはできません。だったら、フレイアさんとロキさんに対して、『体を明け渡せ』という考えを飛ばすしかないですよね?」

「そうだな。できることからするしかないよな」

「はい!」

 二人は青い石の前に立ち、祈るようにして考えた。

 フレイアとロキの精神生命体に、自分達の肉体から分離して、ここに戻って来るようにと!

 

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