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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-10 銀河を継ぐ者
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Scene:16 ジョセフとその娘達(2)

 三人は、ゆっくりとジョセフに近づいていったが、目を覚ます気配はなかった。

「父上!」

 たまらず、シャミルが走り寄り、ジョセフの体を揺さぶった。

 すると、ジョセフは、低いうめき声を上げて、顔をしかめた。

「父上! 父上!」

 シャミルが続けて体を揺さぶると、ジョセフは苦しそうに目を開けて、シャミルを見た。

 時間を遡って会ったジョセフは、まだ二十歳代だったが、目の前にいるジョセフは、オールバックの髪に少し白いものが混じり、顔のしわも深くなっていて、四十歳代のナイスミドルという風貌に変わっていたが、紛れもなく、ジョセフであった。

「……シャミルか?」

「はい」

 涙声で返事をしたシャミルはジョセフに抱きついた。

「父上! 会いたかったです!」

 ジョセフもシャミルの肩を抱くと、シャミルの後ろにいるキャミルとメルザに気がついた。

「その赤い髪に赤い目。……ロザリオそっくりだ。キャミルだな?」

 ジョセフは、キャミルの顔を少しの間、懐かしげに眺めた後、メルザに視線を移した。

「メルザ。お前までいるとはな」

「私もまさかこんな所で会えるとは思わなかったよ」

「お前は、今、何をしているんだ?」

 ジョセフも自分と一緒にいた頃とメルザの雰囲気が変わっていることが分かったのだろう。

 メルザは少しうつむき加減になって言いづらそうにしていたが、すぐに顔を上げた。

「海賊さ」

「何人も人を殺しているな?」

 ジョセフにはメルザの手が血で汚れていることが見えているようだった。

「ああ、あんたに捨てられてから、いろいろとあったんだよ」

「私は、お前を捨てたつもりはない。私は、ここにずっと閉じ込められていたんだ」

「あのロキとフレイアという二人組かい?」

「会ったのか?」

「ああ、それで別の時空間に置き去りにされたんだけど、シャミルさんが時空間を移してくれたのさ」

「シャミルが? シャミルはそんなことができるのか?」

 ジョセフが抱きついていたシャミルの両腕を握ったまま、少し体を離して、シャミルの目を見つめた。

「私一人の力ではありません。キャミルとメルザさんの力も借りてできたのです」

「そうか。……キャミル。近くで顔を見せておくれ」

 ジョセフに近寄ることを躊躇ためらっていたキャミルの手をシャミルが引いて、ジョセフの前に立たせた。

 しかし、キャミルは、ジョセフの目を見ることができずに、顔を赤くさせて、うつむいていた。

 キャミルも過去に遡った時に若きジョセフと会ってはいたが、年齢が近かったことから、父親という感覚に乏しかったが、今、目の前にいるジョセフは、父親らしい年代の風貌で、やはり、こみ上げてくるものがあった。

「ロザリオにも似ているね。ロザリオは元気かい?」

「母さんは、三年前に病気で死んだ」

「そうなのか。……それはキャミルに辛い思いをさせたね」

 そう言うと、ジョセフは、自分からキャミルに近づき、キャミルを抱きしめた。

 何も言えずにうつむいたままのキャミルの目に涙が光った。

 シャミルも思わずもらい泣きをしていたが、痺れを切らしたように、メルザが口を開いた。

「感動のシーンに水を差して申し訳ないけどさ、ここはどこなのかを先に訊いた方が良いんじゃないかい?」

 シャミルとキャミルも、今、自分達が置かれている状況を思い出した。

 キャミルもジョセフから離れて、シャミルと並んで立った。

「それもそうだな」

 ジョセフも少し照れくさそうだった。

「しかし、あんたがどうしてここにいるのさ?」

 シャミルやキャミルと違い、三年前に失踪するまでジョセフの近くにいたメルザならではの口の利き方であった。

「ロキから何か聞かなかったか?」

「時間の流れが止まっている時空間だと言ってました」

 シャミルが伝えると、ジョセフはうなづいた。

「この時空間のことについては、それ以上の説明は、私にもできない。一つだけ言えることは、ここは時空の牢獄だということだ」

「時空の牢獄?」

「そうだ。三年間、ずっと私はこの時空間に閉じこめられていたんだ」

「今、私達は精神生命体として存在しているはずです。父上の体はどこにあるのですか?」

「私の体は、おそらくバルハラ遺跡の中に保管されているはずだ」

「遺跡の中に?」

「そうだ。三年前、フェンリスヴォルフ号でテラに来た時、私は、マリアンヌの所にいた。シャミルも憶えているかい?」

「はい。だって、あの日から父上が消えてしまったんですから」

「パリを発った私は、バルハラに向かった。ロキから呼ばれたのだ。そしてバルハラ遺跡の中に足を踏み入れた途端、私の精神生命体だけが時空間を移動させられた。私の体は、あのピラミッドのような建造物の中に放置されているだろう」

「どうして、そんなことに?」

「もう私の役目は終わったが、念のため保管しておこうと思ったのだろう」

「父上の役目とは何なのですか? もしかして、私とキャミルを生ませることだったのですか?」

「そうだ。フレイアとロキが私に命じたことはそのことだ」

「……父上。そのことで父上に確認したいことがあります」

 シャミルがそれまでの笑顔から一転、厳しい顔をしてジョセフを睨むようにして見た。

「父上が私の母親マリアンヌ・シモンと、そしてキャミルの母親ロザリオ・ピレスと関係を持ったのは、そのためだけなのですか?」

「二人に近づいたきっかけはそうだ。マリーもロザリオもロキが探し出した人材だった。そして、彼らから二人と関係を持って子供を作れと命じられた」

「……」

「しかし、二人に出会って、私は恋に落ちた。同時に二人の女性を好きになるなど、只の見境の無い身勝手な男じゃないかと怒られそうだが、これは本当のことだから仕方が無い」

「……」

「変な言い訳はしない。ただ、これだけは知っておいてほしい。私は、お前達を生ませるだけの道具としてしかお前達の母親を見ていなかったということはない。女性として愛していた。それはマリアンヌもロザリオも認めてくれるはずだ」

「絶対ですね?」

「絶対だ!」

 シャミルは、真剣な顔付きでジョセフの目をじっと見つめていたが、ふと笑顔になった。

「私は父上を信じます。それに母上もそう言っていました」

「きっと似たような遺伝子情報がお互いに惹きつけ合ったのだろうと思っている。メルザの母親もそうだ」

 いきなり話を振られたメルザだが、自分の家族や過去のことは話したくも聞きたくもないようで、みんなに横顔を見せるように視線を外してしまった。

「メルザさんのお母さんって、バルハラのエルザさんと言う方ではないのですか?」

 シャミルがメルザに向けて訊いたが、答えたのはジョセフだった。

「そうだ。エルザは私の学校の同級生だった。卒業して私が士官学校に入るため、バルハラを離れる前夜、関係を持った。エルザはもともと歌手になりたがっていて、メルザを産んだ後、地元の酒場で歌っていたところをスカウトされたらしい」

「母親はデビューするに当たって、私が邪魔だったんだろうね。身分を隠して聖セイラ園に行き、育てられない事情を涙ながらにしゃべって、人の良い院長先生を騙して、私を園に預けたのさ」

 メルザがうんざりという顔をして話した。

「私は無責任な父親と薄情な母親から生まれた『いらない子』だったんだよ」

「でも、父上はメルザさんを聖セイラ園に迎えに行ったのでしょう?」

「私はメルザの誕生を知らなかった。メルザが言うとおり、無責任な父親だったよ。しかし、キャミルに会いにイリアスに行った時、近くの孤児院で見つけたんだ。その目を見ると私の子だと分かる少女にね」

「キャミルにも会いに行っていたのですね?」

 ジョセフがキャミルの元にも訪れていたことが分かって、シャミルも嬉しくなった。

「もちろんだ」

「でも、キャミルの記憶に残っていないのはどうしてなんでしょう?」

「キャミルに物心が付く頃には行かなくなったからだろう。いや、正確に言うと、行けなくなったんだ」

「行けなくなった?」

「園にエルザの子がいたからだよ」

「ハシム殿ですね?」

「メルザを迎えに行った時に分かった。マリーやロザリオほどではなかったが、エルザも似たような遺伝子情報を持っていた。だから私はエルザと惹かれ合ったのかもしれないが、とにかく、あのハシムという男の子も少なからず似たような遺伝子情報を受け継いでいた。私がキャミルに会いに行けば、彼に対して、どんな作用があるか分からない。彼は、そうなることを望まれて生まれてきている訳ではないのだから、彼の近くに、つまり、キャミルに会いに行くことを控えていたんだ。もっとも、あの頃も私は時間が惜しいくらい忙しくて、シャミルの所にも滅多に顔をみせなかったくらいだから、キャミルの所にはそんな訳もあって出向くことがなかった。ごめんな、キャミル」

 キャミルは目を伏せて返事をしなかった。

「父上。最後に一つだけ教えてください」

 そんなキャミルに腕を絡めながら、シャミルが言うと、ジョセフも無言で頷いた。

「リンドブルムアイズとは何なんですか? 実際には、父上は何のことを指して『リンドブルムアイズ』と呼んでいたのですか?」

「それを教えてくれたのはお前のような気がしているんだけどね」

「憶えているのですか?」

「いや、はっきりとは憶えていない。しかし、お前は時空を遡って、過去の私と会って、リンドブルムアイズという言葉を言った。それ以来、私はその言葉を使い出した。そう言う事実関係だと私の頭の中で整理されている。おそらく、時空を遡るというイレギュラーな現象下での出来事だから、はっきりと記憶に残ることはなかったのだろう」

 アリシアが、シャミルとキャミルがガンドールと対決したシーンをぼんやりとしか憶えていないことと同じであろう。

「私が言う『リンドブルムアイズ』とは、アース族の後継者たる資格という意味だが、それを証明するための物を指して言うこともあった。具体的には、行方不明になっていたエキュ・クレールのこととかだ」

「エキュ・クレールはガンドールという海賊が持ってました」

「そのようだな。おそらくガンドールもロキと似た遺伝子情報を持っている者なのだったのだろう。どういう切っ掛けかは分からないが、たまたまバルハラ遺跡に中に入った時に、エキュ・クレールを盗み出したのだろう」

 シャミルの頭の中で、完全とは言えないが、一つの輪が繋がった。

 そうすると、シャミルの関心は、再び、この時空間からの脱出になった。

「詳しいことは、ここを出てからゆっくりと聞かせてください」

「そうだね。まずはここを出ないとね」

 メルザが再び周りを見渡してから、シャミルを見た。

「さっきと同じように、シャミルさんが道を示しておくれよ」

「それは良いですけど、あの無数に現れるドアのどれが、元の時空間に戻れるドアなのか分からないです」

「やってみるしかないだろ?」

 いつもの自分を取り戻したキャミルも、シャミルの肩に手を置きながら言った。

「……そうですね」

 

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