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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-10 銀河を継ぐ者
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Scene:15 アース族の歴史

 現在の銀河連邦において交配可能なヒューマノイド種族は、はるか太古、銀河全域に勢力を伸ばしていたアース族の末裔である。

 アース族は今を遡ること三億年ほど昔、この銀河系では唯一のヒューマノイド種族であった。そして、その優れた科学力で銀河の他の種族を旺盛な征服欲をもって絶滅させていった。

 しかし、征服すべき空間が銀河系の中に無くなった時、アース族の進化は終わった。

 外に膨張していたエネルギーが内向きになり、自分達の生活をいかに楽にするかという欲望に費やされるようになった。

 ロボットを始めとする便利な機器が世の中に溢れ、労働する必要が無くなったアース族は、種族全員が貴族化してしまったように、怠惰と享楽の世界へと堕ちていった。

 そして、そんな退廃の世の中が長く続いたことで、アース族の生物学的な耐性は低下の一途をたどった。

 しばらくは、進化した医学と薬品のお陰で、なんとか健康体を保つことができたが、医薬品に対する逆耐性が付いてくると、そう言った対策も次第に効かなくなっていった。

 最終的には、アース族は、感冒かんぼうのような、ありふれた疾病でも死に至るほどに身体的な耐性が衰えてしまっていた。



 アース族の支配層であるアース王族は、代々、超能力を有しており、その力をもってアース臣民を支配していた。圧倒的な科学力を持つほど進化したアース族が帝政をとり続けることができたのは、アース王族の超能力のせいであった。

 しかし、そのことも、アース族滅亡の一つの要因となった。

 長く続いた帝政は、政治に参加するというアース臣民の意識をとぼしくしてしまい、自分達の国が危機的状況に陥ろうとしていることが分かっても、その危機が自分の目の前に差し迫って来ない以上、重い腰を上げようとはしなかった。

 また、王族自体も臣民同様、怠惰で享楽的な生活を送るようになり、政権担当能力を失っていき、代わりにコンピュータによって行政全般が運営されているような状況になると、種族としての存続危機という想定外の事態にコンピュータは対応できなかったのだ。

 すべてがマイナスの方向に向きだして、アース族は、どんどんと人口を減らした。

 現在の連邦のように、他種族との共存共栄の道を採らずに、征服した種族を全滅させて、その惑星を植民地として支配して、資源や産物を搾取して本星に送るだけという支配形態を採っていたことから、首都惑星以外の惑星は独自に国家を運営していく力も無かった。

 そして、人口の減少に歯止めが掛からずに、ついに社会活動ができなくなった植民地惑星からは、どんどんとアース族は脱出をして、植民地惑星は次第に無人となっていった。

 また、国勢の弱体化により、末端の臣民の生活苦が高まると、貴族に対する庶民層の反乱、それに続く新しい支配層間の内乱も頻発し、さらに人口を減らし続けた。

 首都惑星でも、風邪の流行などで何億人ものアース族が命を落とすなど、人口減少の動きを止めることはできなかった。

 最後の皇帝となったフレイアと従兄弟で近衛元帥ロキの治世は、種族の保存本能が断末魔を上げると同時に始まった。

 既に植民地惑星はすべて放棄されており、首都惑星でも毎日毎日おびただしい数のアース族が死んでいることが報告された。

 女帝フレイアは、アース族の滅亡がそれほど遠くないことを認めざるを得なかった。それ以外の未来が見えなかった。

 フレイアは、為す術無く、最後の悪あがきをしようと考えた。

 一つは、アース族の遺伝子情報の拡散である。

 銀河最高で唯一の優れた種族であるアース族が滅んだとしても、後世、再び、銀河を支配する種族が現れるとすれば、それは自分達と同じ思考と生態を持つ種族であることが、銀河にとって幸福なことであると考えた。そのためには、自分達の遺伝子情報を銀河中に拡散をして、その情報を元に各惑星で自律的に進化を遂げる自分達の後継種族にその使命を託すことが必要だと考えたのだ。

 何百隻もの無人宇宙船が植民地だった惑星に向けて放たれた。

 長い年月を掛けて、その惑星に到着した宇宙船は、自動プログラムによりアース族の遺伝子情報を大気中に拡散させた。そして、その遺伝子情報は、それぞれの惑星で独自に進化を遂げようとしていた生物たちに取り入れられていった。

 各惑星の生物たちは、体内に取り入れた遺伝子情報を元に進化をしていき、最終的には、アース族と同じ容姿、思考、生態を持つヒューマノイド種族が銀河のあちこちの惑星で誕生していったのである。

 フレイアの悪あがきの二つ目は、自らを永遠に生きながらえるようにするということであった。

 肉体は、いつかは滅びる。そして、生物学的耐性も弱い。それは王族であるからと言って例外ではなかった。

 老いと死の恐怖がフレイアとロキをむしばむようになる前に、二人は肉体を捨てる覚悟をした。

 アース王族の中でも特に強力な超能力を持っていた二人は、テレパシーの一種を使って、自らの精神を肉体から離脱させ、時間を凍結させた空間に移動した。その空間で、滅ぶべき肉体を持たない精神生命体として、フレイアとロキは永劫えいごうの時を生きることを選んだのだ。

 その後、それほど長い年月を待たず、アース族は滅んだ。

 精神生命体となったフレイアとロキは、銀河中にばら撒いた自分達の遺伝子情報を取り込んで進化してくるはずの種族の進化・発展を、じっと待った。

 そして、かつてのアース族の首都惑星にもそんな種族が誕生した。

 驚くべきことに、その種族はアース族にうり二つであった。容姿はもちろんであるが、生態や思考までもが。

 そして、中には超能力を有する者もいた。

 その種族は、長い進化の過程を経て、銀河に飛び出し、信じられない速度で銀河を支配していった。

 もっともその手法はアース族と違い、戦いによることなく、話し合いにより平和裡にその勢力を広げていった。



 ある時、その惑星の一人の青年がフレイアとロキの「声」を聞いた。

 その青年は、たまたまであるが、自らの宮殿跡の近くで生まれた。小さな頃より頭も運動神経も並外れて良く「神童」と呼ばれ育った。

 その青年が十八歳になった時、フレイアとロキの「声」に誘われるように、彼は宮殿跡にやって来た。

 その青年の遺伝子情報は、アース族のそれとほとんど同じであった。

 フレイアとロキに接触したことで、その青年は超能力を開花させた。自らをアース族の末裔と認識した彼の脳裏に、フレイアとロキは話し掛けた。

 同じ遺伝子情報を持つ者と交配をしろ! 余らのうつわを作れ!

 

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