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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episode-10 銀河を継ぐ者
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Scene:13 三姉妹と青い石

 シャミルとキャミルがアリシア邸に滞在し始めて一週間が過ぎた。

 滞在二日目には、アリシアに頼んで、パリ地区の実家に速達郵便を送った。実家からは、ファサド商会宛てにこれも速達でその荷物が転送されているはずだ。

 そして、その日の朝。

 シャミルの情報端末に待ち人からの連絡が入っていた。しかも青い石を携えて。



 シャミルとキャミルは、アリシアとともに朝食をとっていた。

「アリシアさん」

「ふぁんでふか?」

 パンを口一杯に頬張っていたアリシアがシャミルの呼び掛けに答えた。

「今日も私達はバルハラ遺跡に行くつもりですが、アリシアさんは家にいていただけますか?」

「えっ? どうしてですか?」

 アリシアの家に滞在中、他にすることもなかったことから、シャミルとキャミルもアリシアと一緒にバルハラ遺跡の調査について行っていた。

 しかし、必要だと思われるすべてが揃う今日、何かが起こるはずで、もしかすると命に関わることかもしれなかった。

「今日は、すごく危険なことが起きるかもしれないのです」

「危険なことって?」

「分かりません。でも、何かが起きるはずです」

「……シャミルさん、キャミルさん」

 しばらく思案した後、アリシアは真剣な顔をして、シャミルとキャミルを見た。

「私は、祖父の跡を継いで、あの遺跡をずっと調べてきました。あの遺跡で何かが起きるかもしれないのなら、私は行きます! 行って、この目で見ます! もし、本当に危険なことが起きて、命を落とすようなことになっても、私は後悔しません! むしろ、その起こるかもしれないことを見ることができないことの方が後悔します!」

「アリシアさん」

「一緒に行きます。いや、連れて行ってください!」

「シャミル」

 それまで黙って、シャミルとアリシアの話を聞いていたキャミルが口を開いた。

「アリシアさんも遺跡で声を聞いている。必ずしも無関係ではない気がする」

 シャミルに言った後、キャミルはアリシアの方に顔を向けた。

「アリシアさん、以前に話した私達の姉がバルハラ遺跡に来る。そいつは海賊なんだ」

「海賊……」

「しかも、先ほどシャミルが言ったように、何かが起きる可能性が高い。そうなった時、私達はアリシアさんを守ることができないかもしれない。その覚悟があるのなら、一緒に行きましょう」

「はい! 覚悟はできています、キャミルさん!」



 結局、アリシアとともに家を出たシャミルとキャミルは、歩いて遺跡に向かった。

「何か変じゃないですか?」

 シャミルが誰にともなく訊いた。

「人がいないみたいですね」

 アリシアも独り言のようにぽつりと答えた。

「元々、人が少ない所で、通りで人に会うことも少ないですけど、……家も空き家になっているみたいです」

 アリシアの言うとおり、人がいる気配すらしなかった。まるでゴーストタウンのようで、石畳の道を歩く三人の足音だけが虚ろに響いていた。

 結局、遺跡に着くまで誰にも会わず、また、管理事務所も「臨時休業」の看板が掛かっており、入口には鍵が掛かっていた。

「昨日は何も言ってなかったのに」

 アリシアも合点がいかない様子であった。

「これも不思議な出来事の一つなんですか?」

「いえ、これは緊急的に住民を退避させているのだろう」

「退避?」

 テラの中では、どこに行っても良いと言われていたシャミルとキャミルには、当然、尾行ないし見張りが付いているはずだ。そして、メルザがテラに来たことも把握されているはずで、テラ自由国政府は、不測の事態が起きることを想定して、付近の住民を強制的に退避させたのだろう。



 シャミル達は遺跡の中に入った。

 いつもどおりの感覚を覚える。

 声らしきものも聞こえてきた。

 シャミル達は、コロシアムのような円形の広場の真ん中に立ち、ピラミッド様建造物を背にして、遺跡の回廊を見つめた。

「こそこそしないで、出て来られたらいかがですか、大佐殿?」

 キャミルが大きな声で言うと、右手の回廊からレンドル大佐が出て来た。

「やれやれ、上手く気配を消していたと思っていたのですがねえ。あまり現場に出なくなって、腕が落ちましたかな」

「あなたがいると言うことは、メルザが来ることを知っているということですね?」

「昨日の午後、フェンリスヴォルフ号がテラに入ったという連絡を受けましたよ」

「包囲をしている宇宙軍からですか?」

情報源ソースを明かさないのが情報部員の礼儀というものですよ」

 レンドル大佐は一人で来ているのかと、キャミルが遺跡の回りを注意深く見てみると、遺跡を取り囲んでいる回廊部分の上部に小型カメラが何台もセットされているのが見えた。

 ヒューロキンが討たれ、エキュ・クレールを奪われたことを、レンドル大佐が知らないはずがなかった。しかも、レンドル大佐は、エキュ・クレールをはめたヒューロキンを連れて、連邦アカデミーのマーガレット・デリング博士の元を訪れているのであるから、エキュ・クレールがリンドブルムアイズと関係していることも知っているはずだ。

 そのエキュ・クレールと一緒にメルザがやって来る。何かが起こらない訳がなく、その一部始終を映像記録に収めようとしているのだろう。

「レンドルさんの術中にはまってしまったようですね」

「本当に抜け目が無いことだ」

 シャミルとキャミルが呆れながら言った。

 この映像記録には、もしかしたら、シャミルを更に神格化しかねない不思議な出来事が収められるかもしれないのだ。

 しかし、今更、後戻りはできなかった。

 キャミルは、アリシアの肩を抱きながら、アリシアをレンドル大佐に示すように、少し前に押し出した。

「大佐殿。お願いがあります」

「キャミル少佐のお願いなら、何でも聞きますぞ」

「話を聞くだけならと言うのでしょう?」

「ははははは、まあ、頼まれても、できないことはできないですからなあ」

「そんなに難しいことではありません。この人は、この遺跡の調査員さんで私達の友人です。彼女の身の安全を保証していただけませんか?」

「良いでしょう。私の命と同等の順位でお守りしますよ」

「つまり、彼女を置いて逃げないということですね?」

「そうです」

 キャミルはうなづくと、アリシアにレンドル大佐の近くにいるように促した。

「あそこからでも遺跡を見渡せます。彼の近くにいてください」

「分かりました。シャミルさん、キャミルさん」

 シャミルとキャミルは心配そうな顔のアリシアを見つめた。

「あ、あの、……お命は大事にしてください」

「はい」

 シャミルとキャミルの力強い返事を聞いて、アリシアはレンドル大佐の近くに歩いて行った。

 北欧の晩春の微風が遺跡の中を吹き抜けた。その風は周囲の音を何も運んで来なかった。住民を退避させた上で惑星軍のかなりの兵力がここを包囲しているはずだが、その気配すら感じさせなかった。

 その静寂の中、カーンカーンと遺跡への石畳の道を歩いて来ている足音が響いてきた。

 間もなく遺跡の入口に三人の人影が見えた。

 メルザと二人の副官であった。

 メルザの左腕にはエキュ・クレールがはめられていた。

 メルザが後ろを振り向いて副官達に何かを言うと、一人で遺跡の中に入って来て、ゆっくりとシャミルとキャミルの近くにやって来た。

 今までにないほど、エペ・クレールとコト・クレールが震えているのが分かった。

 エキュ・クレールも震えているようで、メルザも不可思議な顔をしながら、右腕にはめたエキュ・クレールに右手を添えていた。

 メルザがシャミルとキャミルの前に立った。

「メルザさん、わざわざご足労いただきありがとうございます」

「シャミルさんの誘いなら、どこにいたって飛んで来るさ」

 メルザはいつもの冷笑を浮かべながら言ったが、すぐに真剣な顔になった。

「しかし、この感覚は何なんだい?」

「これから何かが起きます」

 そのシャミルの言葉がスタートスイッチだったかのように、地面が小刻みに揺れだした。

 それとともに、シャミル達の背後にあったピラミッド様建造物の一角に、突然、小さな四角い穴が開くと、中から十センチほどの卵形の青い石が浮かんで出て来た。

 青い石は、シャミルの頭上に浮かぶと一段と眩しく輝き、青い光のドームで、シャミルとキャミル、メルザを包み込んだ。

 ――!

 突然、シャミルは、今までにない激しい衝撃を感じた。

 胸が苦しくて、前屈みになると、隣のキャミルも手を胸にやって、うつむき加減になっていた。

 頭だけを上げて前を見ると、メルザも胸に手をやり、美しい顔が苦痛に歪んでいた。

 次の瞬間!

 シャミルとキャミル、そしてメルザも白一色の空間にいた。

 

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