Scene:12 レンドルの野望
テラ自由国臨時政庁。
その執務室では、ハウグスポリ少将とレンドル大佐が向き合って応接セットに座っていた。
「メルザがヒューロキンを?」
「はい。ヒューロキンの遺体は左腕を切断されていたようです」
「すると、あの腕輪はメルザが?」
「ええ、持っているはずです」
「メルザがガンドールの配下だったことは分かっていたから、いずれはメルザがあの腕輪を取り戻しに来ると踏んでいたのだろう?」
「いや~、あの腕輪をヒューロキンに預けていて正解でした。私もメルザに狙われるのは嫌ですからな」
「ふんっ! 相変わらず、捨て駒を多く持っているな」
「これは人聞きが悪い。それはそうと、報告によれば、メルザはソル恒星系に向かっている模様。おそらくテラに来るつもりでしょう」
「シャミルが呼んだのか?」
「分かりません。しかし、あの腕輪にも青い石が埋め込まれていて、それは、シャミルのナイフやキャミル少佐の剣と同じ物に見えます。何らかの関連があるはずで、メルザがシャミル達に会いに来ていることは確かでしょう」
「何をしに来ているのだ?」
「それも分かりません。しかし、今、シャミル達がいるバルハラ遺跡は、それほど有名ではありませんが、ヒューマノイド共通起源の超古代種族が関係しているのではないかと考えられている場所のようです。おそらく、メルザもそこに向かうでしょう」
「超古代種族アース族の遺跡か。メルザがシャミル達と会った時、何かが起きるのだろうか?」
「おそらく。シャミルがリンドブルムアイズだとしても、まだ、その力を自由自在に使いこなしているようではありません。もしかすると、その抑制が解除されるのかもしれませんね」
「シャミルが覚醒するのかもしれないということか?」
「飽くまで予想ですが」
「テラにあるアース族の遺跡でテラ族のシャミルが覚醒するなど、テラ族の優位性を証明する絶好のイベントではないか!」
「まさしくですな。もっとも覚醒後のシャミルが制御できればの話ですが」
「相手はリンドブルムアイズだ。不慮の事態を想定して、既にバルハラ遺跡周辺に一個旅団を派遣済みだ。装甲機動歩兵部隊を含む機甲旅団で、国家間戦争でも鎮圧できる戦力だ」
「頼もしいですなあ。では、我々もバルハラ遺跡に向かい、高みの見物といきますか?」
「お前に任せる。しかし、メルザはテラに入れるのか?」
「テラの上空は宇宙軍が警備しており、すんなりとは入れてくれないでしょうが、私が話をつけておきます。もっとも、神出鬼没のメルザのこと。手を回さなくても、容易くテラに入国できるかもしれませんな」
「まったくもって便利な奴だな。お前は」
「自分が捨て駒にならぬように精勤いたしますよ」
「それは私に対して言っているのか? それともあちら側か?」
「どちらにでもですよ」
不敵に笑ったレンドル大佐は立ち上がり、部屋から出て行った。
臨時政庁内にあてがわれた自室に入り、用心深く部屋を見渡した後、左腕にはめている物とは別の情報端末を懐から取り出した。
画面上のテンキーをプッシュしてロックを解くと、前回、自分が操作した時間帯以降、その情報端末が操作されていないことが確認できた。
更に暗証番号を入力して隠していた通信先を表示させると通話ボタンを押した。
相手はすぐに出た。
「少将には伝えたか?」
「はい」
「シャミルがあちら側についてしまう恐れはないのか?」
「シャミルの副官の生殺与奪を握っているのは私です。あちら側ではありません」
「少なくとも、シャミルはあちら側に反発している、シャミルの力を使って潰すこともできるな」
「メルザが来ることで、どう転ぶか分かりませんが、臨機応変に対応いたします」
「うむ。頼むぞ」
通話を終えると、レンドル大佐は、ソファに深く座り直し、部屋の電灯を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「俺はお前に勝つぞ、ジョセフ」




